第6話 仲間だろ
「お前あの夜何してた?」
「は、……速水さんには関係ない……と思います」
「関係ないわけないだろう! お前のために俺がどれだけ尽くしたと思ってるんだ!」
「そんなの私のためじゃないです! それより早く私の下着返してください!」
「……」
結局こっちでも修羅場が発生した。いや、待て待て待て待て。この二人はどういったご関係で? あの夜何をしてた? 水無瀬に尽くした? 下着を返せ?
「……もうとっくに乾いているはずだ。俺は一切触ってない」
「そうですか」
水無瀬はそれを聞いて安心したのかほっと胸を撫で下ろす。
「はいはいはいは~い! ここでクイズです!」
そこにこの集団の中で最も空気を読めない王――月詠が口を挟んできた。
「マサと鈴ちゃんはどういう関係でしょーか! ①家族②恋人③友人④共犯」
全員が月詠を注目したあと、速水と水無瀬を交互に見比べる。
「なんか……話だけ聞くと恋人? って感じだよね。あくまでクエスチョン付きだけど」
「恋人なんじゃねェの? 違うの?」
榊原と片桐は②の恋人だと考えているらしい。
「俺も②かな……」
まあ、榊原の言う通り確かにクエスチョン付きだ。実際俺も恋人(?)に見えた。でも何か引っかかるものがある。
「雨宮さんはどう思うー?」
そこで先ほどまで月詠が冷戦していた相手、雨宮に話を振った。きっとこいつはこのクイズ当てるぞ。なんとなくそんな気がする。
「……」
囃し立てられている当の本人である速水と水無瀬はお互いに無言だ。きっと二人とも雨宮の出方を窺っているんだろう。
「ん? ②じゃない?」
え。
俺は不意を突かれて呆然とした。確かに誰もが恋人だと考えたが、お前だけはもっと違う回答をすると思ったぞ。共犯とか。それはこのクイズを出した月詠も同じで、雨宮の回答に納得がいかないといった風だ。
月詠はむぅ……と口を尖らせてから、
「ぶっぶー! 答えは④でしたー!」
と拗ねた態度で答えを明かした。
「雨宮さんもまだまだだねっ!」
「……」
舌をベーッと出す月詠に対して雨宮は苛ついた表情を浮かべていた。雨宮まさかとは思うがさっきのは素か? 素で答えたのか?
「それで……二人が共犯ってどういうこと?」
榊原が本題に戻す。
「それは俺から説明しよう」
クイズが出されたときから何一つ表情を変えなかった速水がここで口を開いて説明を始めた。水無瀬もそれに異論はないようだ。
「十二月の集団失踪事件を覚えているか?」
集団失踪事件――というと、当時は今の連続全焼事件ぐらい騒がれていた大事件だ。内容は確か、集団自殺サイトの掲示板に書き込んだ者たちが一夜で姿を消したというもの。警察は懸命に捜査をしたが今でも見つからないらしい。俺が知る限りの情報では謎が多すぎる。噂では全員自殺したんじゃないかと言われているが……。
「俺はその失踪者の一人で、水無瀬はその犯人だ」
「犯人?」
すかさず雨宮が首を突っ込む。
「ああ。水無瀬は自分の紋章の力であるテレパスを使って、集団自殺サイトに書き込んだ人たちを山奥に呼び出した。そして俺たちに、デスゲームを強要したんだ」
「デ、デスゲームって何だよ!?」
片桐が信じられないといった顔で速水を睨む。デスゲームという言葉自体の意味は知っているが、まさかそれが現実に起きていようとは思えない、といった風だ。
「……殺し合いだよ」
少しの間を置いて、速水はため息混じりに返答する。
「それで、速水くんはその生き残り……ってこと?」
「ああ」
榊原の質問にそっけなく返した速水は、そこからどうして共犯になったのか、その経緯を説明した。
デスゲームの主催者である水無瀬は、最終的に生き残った者が自分の正体を突き止めるだろうと考えて予め、ゲームが行われる山奥の無人の館に大量の爆弾を仕掛けて、最後に館ごと自爆しようと考えたらしい。しかし水無瀬は速水の紋章の力によってそれを止められ、水無瀬が同じ紋章の持ち主だと知って共に逃亡を果たした。そうして、デスゲームの主催者・水無瀬と大量殺人犯・速水は共犯となった。
やがて二人は紋章離脱式の存在を知らされる。月詠という男に。
速水は特別自殺願望があったわけではなかったらしい。それについて詳しくは教えてくれなかったが。しかし水無瀬は最初から自殺するつもりでいたため、自分の知らないところで勝手に死なれないよう両手両足を拘束し監禁していた。――という話らしい。
「……なるほど。つまり速水君にとって彼女は、紋章離脱式を達成するための“道具”なのね」
「そうだ」
俺は一瞬背筋が凍った。速水は、目の前にいる人間を道具と呼ぶことに抵抗がない。あれが本心だと思うと、こいつとは紋章関係以外では関わりたくないな。水無瀬も水無瀬で、それを気にしている様子はない。もしかしたら、今速水が話したこと以上にこの二人の間には何かあるのかもしれない。
「速水君には感謝するわ。もし水無瀬さんが勝手に自殺されていたら、私たちの当初の目的を達成できなかったもの」
「……」
速水は何も返さない。雨宮の言葉には棘がある。恋人の俺ですら未だに恐怖を覚えるほどだ。相変わらずのポーカーフェイスで淡々と言葉を連ねる彼女は、一体何を考えているのだろうか。
そこで、俺や片桐の気持ちを代弁するように榊原が口を開いた。
「速水先輩はともかく、雨宮先輩ひどいよ。水無瀬さんの命はまるでどうでもいいように言って……」
速水はともかくされるのか。
「ごめんなさい。人としてどうかしていたわ。私、自分の命を粗末にする人のことをあまりよく思っていないの」
くす、と雨宮は笑う。――半分嘘だな。きっと雨宮は反省なんかしていない。
「それは……確かにあまりよく思われることではないけど」
「いいんですよ」
榊原が納得のいかない顔で俯くと、ようやく水無瀬が口を開いた。
「私が死んで当然の人間であることに間違いはない。今はただ、皆さんのために生きながらえているだけですから。榊原くん、ありがとうございます」
「でも……それ……うぅ」
頭の中でいろんな意見が蔓延しているんだろう。榊原は言葉を詰まらせてしまった。俺もなんとなく理解する。きっと水無瀬は、離脱式を終えたら自殺する。
……。…………。
「お前が死ぬ必要なんてねェよ」
突然、誰かと思えば片桐だった。水無瀬は片桐のほうを見上げる。
「そりゃあ、確かに人を集めて殺し合いを強要するってなァダメに決まってる。けど、オレたちの中に人を殺したことのない人間はいねェ。オレたち全員犯罪者だ! みんなお前の共犯なんだよ! だから、お前だけ勝手に死ぬなんてアホなこと、ゼッテー許さねェからな」
「片桐さん……」
片桐の言葉を遮る者は誰もいなかった。片桐の考えに賛同するかどうか不明な雨宮、月詠、速水の三人も真面目に耳を傾けている。
「オレたち、仲間だろ」
水無瀬は、信用性に乏しい言葉をかける片桐を見て、
「本当に……変な人ですね」
と苦笑いした。
「……そろそろ、次の土曜について話したいのだけれど」
腕を組んで苦笑いを浮かべる雨宮によって、ようやく本題に入った。




