第7話 捜査
「さっきまで、最初の事件現場であるイデアを見に行っていたんだけど、収穫ナシ。まず入れなかったわ」
前列に雨宮・美樹さん、後列に俺・英治の二列横隊で歩道を歩く。
「そりゃそうだろうな。俺らがあそこに最後に足を踏み入れたのは事件当時。そん時の記憶でも辿ればなんかあるんだろーけど」
自分で言っていて笑みがこぼれる。確かに俺の供述に嘘偽りはないが、俺は真実を知っている。それ故の含み笑い。何をやってるんだろうか、俺は。
「せめて何かコネがあればいいんだけどね……」
美樹さんは俯きながら呟いた。コネといえば。雨宮はイデア全焼事件で亡くなった雨宮夫婦の遺族だ。それでなんとか出来ないものなのか。とも考えたが、それをわざわざ口にすることはしなかった。
「事件が解決してからでないと、警察や警察関係者以外は通してもらえないみたいよ」
「「はぁ……」」
思わず全員で落胆する。あえて捜査側に回るっていうのはなかなか妙案だと思って雨宮に賛同していたが、これでは埒が明かない。現場に入らずに捜査するといえど、目撃証言が見つからない以上、特別周辺で何か捜査することもない。
そりゃあ俺たちがいた隠れ場所に行けば繊維の一つや二つ落ちているだろうけど、それは何の役にも立たないし、狂言めいてしまうし、俺たちが疑われるだけ。なんのメリットもない。
そうだ、この捜査はデメリットだらけなのだ。わざわざそのリスクを犯してまで雨宮が捜査に協力しているのは、何故? 元々探偵気質の雨宮に断る理由なんかなかったんだろうし、両親が殺害されている以上協力せざるをえなかったんだろうけど。
「どーするよ? このまま美術館行ったってきっとまた入れないぜ?」
英治がごもっともな意見を出す。諦めモードの英治に対し、美樹さんが口を開いた。
「諦めたくない……紅愛ちゃんのためにも!!」
「……」
きっと美樹さんは、全焼事件で両親を失った雨宮を哀れんでいるのだろう。そんな心配はご無用だ、雨宮は今も人を殺し続けている。――とは流石に言えないけど。
「「はぁ……」」
再び全員で落胆する。と、そのときだった。
「わっ」
「うぎゃっ」
突然、前方不注意で誰かとぶつかってしまった。思わず自分でも気持ち悪いと思う声が出てしまったことに自分で驚く。俺は誰とぶつかったんだろうか……と顔を上げるとそこには。
「……あ!」
そこには、いつも全焼事件当時パトカーの傍にいる警察の顔があった。しかしそいつはスーツ姿。迂闊に「警察の……」なんて言ったら疑われてしまう。すんでのところで言葉を飲み込み、
「えっと……誰様?」
とタメなのか敬語なのかわからない日本語を口にした。だめだだめだ。これでは自分の慌てっぷりが如実に出てしまっている……。
「ぶつかってしまってすまなかった。自分はこういう者です」
そいつは警察手帳を見せながら軽く会釈をして謝った。
「いや、こちらこそ前方不注意で……すみません」
八割方俺が悪いのに、大人というやつは先手を取って面倒ごとを掻き消す。
「ところで君たち……高校生だよね?」
朽木昴と書かれた警察手帳を見せたそいつは俺たちを見回した。
「そうですが……それがどうかしました?」
雨宮がすかさず質問を返す。きっと雨宮も知らないフリをしているんだろう。
「ちょうど、高校生ぐらいの人を捜してるんだけど……、身長は一八○ぐらいで童顔金髪の男の子、知らないかな」
それって月詠のことなんじゃ……と頭に思い浮かべる。
「私は知らないです……」
美樹さんが恐る恐る口を開く。
「俺も知りません。まず金髪って時点で校則違反なんで」
そう言う英治のあとに続いて、
「同じく」
と答えた。そんな中雨宮は。
「……月詠じゃないかしら」
ええええええええええええええええええええ。
言っちゃうんですかああああああああああ。
お前! あとで月詠にシバかれても知らねぇぞ! 流石に暴力とかは俺がさせねぇけど!!
「ツクヨミ?」
朽木が怪訝な顔をする。
「月詠爽太。ついこの間知り合ったばかりの不良です」
「なるほど。その彼に聞いてみてほしいことがあるんだけど……」
警察が気にしてるってことは、きっと爆破事件の脅迫状のことだろう。雨宮は「ふふ」と不敵に笑うと、半ば挑発的に朽木を誘導し始めた。
「もちろん協力させていただきたいですが、その前に理由を聞かせてください。話はそれからです」
「……いいでしょう」
こんな場所では騒音が邪魔でしょうから、と雨宮は俺たちを近所の喫茶店へと連れて行った。英治も美樹さんも俺も困った表情を浮かべる中、雨宮だけはなんだか楽しそうな表情をしていた。
―――あれは純粋に捜査を楽しんでいる目だ。
ふと、あの頃の記憶がよみがえる。
『――その前に、一つ聞かせてほしいんだけど。あなたは何故あんな嘘をついたの?』
放課後の校舎裏。
ちょうど日陰となっている場所に雨宮と容疑者と、――被害者である俺がいた。容疑者は壁に追いやられて尻餅をつき、制服である学ランの各所にくっつき虫をつけていた。
それを見下ろす形で睨み付ける雨宮。俺は「わざわざこんなことしなくていいのに……」と言いながらも、「容疑者の哀れな姿を拝みたいものだな」という本心をちらつかせていた。
『あなたは先生への供述の際に、東雲のノートには触っていないと言ったけど、あれは嘘よね』
『嘘なんかじゃっ……』
『じゃあこれは何?』
雨宮は容疑者の鞄をひったくって中身を取り出し、その中から俺の紛失した数学のノートを見せ付けた。しっかりと「東雲蓮」という俺直筆の名前も書かれている。
『……!!』
思わず俺も驚愕してしまう。まさか、本当にこいつの鞄の中にあるなんて。
『どうしてあなたの鞄の中にあるのかしらねぇ……』
『僕はっ、違うっ!!』
『知ってるわよ』
雨宮は一つ溜息をついてノートを持ち主である俺に渡し、それからにっこりと笑った。
『本当の犯人は別にいる――これから、楽しくなりそうね』
複雑な謎ほどわくわくする。雨宮はそんな奴だ。




