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CREST~7つの紋章編~  作者: 館山理生
第4章 爆発事件
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第2話 2月の風物詩



◆◆◆



「――では、今回の事件の概要をお願いします。……能山」


 能山と呼ばれた30代後半ぐらいの男が静かに立ち上がった。


「二月十日水曜日の一九三〇、如月美術館が全焼。事件当日に如月美術館を担当した刑事は四ツ井と大重。


 張り込みは午後六時から行い、怪しい人影を見たという目撃情報は入っていない。近隣の住民の証言にも怪しい人物の目撃情報は含まれていなかった。


 そして一九〇〇頃、館内のモニタールームから“何者かによって防犯カメラが破壊された”という通報を受けた。張り込みをしていた四ツ井と大重からも“銃声が聞こえた”と連絡が入り、我々は速やかに如月美術館へと移動した。


 我々は緊急時に備え大至急展示物を全てトラックに避難させ、美術館付近への立ち入りを禁止した。銃声の聞こえた館内のスタッフ専用通路に応援を渡したが、誰ひとりとして戻ってきた者はいない。十三発目の銃声が聞こえたあとにモニタールームからの通信が途絶えた。


 一九三〇の五分前に我々が美術館を退去したところ、すぐに一瞬にして炎が燃え上がり、美術館を飲み込んだ。その後の二〇〇〇頃に突如として炎が消滅した。


 この事件は“如月美術館全焼事件”と呼称され、それによる死者は八人、負傷者は三人発見された。なお、今回死者として数えられた八人の中には、我々……警察官も含まれており……ご冥福を祈るばかりである。


 ……そしてまた、いくつかの奇妙な点が上がった。一つは、炎が上がる前に裏口の扉が焼け焦げて破壊されていたこと。見事に扉のみが焼け焦げており、四ツ井と大重がそれに気づいたのは一発目の銃声のあと。


 ――つまり、扉を焦がしているところを誰にも目撃されず、かつ音も上げずに行われていたということ。


 もう一つは、館内のいたるところで転がっていた遺体の内の数体の検死結果が「心臓麻痺」「溺死」によること。心臓麻痺で亡くなった四ツ井と大重は持病をもっておらず、館内が燃えるずっと前に裏口にまわっていたのにも関わらず犯人に直接殺されたわけではない。


 溺死で亡くなった浜島警視長もまた然りで、館内のスプリンクラー作動時に飲み込んだと思われるが、床に磔にされていたわけでもなく、時系列順に考えても何故溺死なのか理解できない。なお、彼らもまた炎により全身を焦がしているため検死結果の確実性は定かではない。


 そしてもう一つは、今までと違い、建物が完全に燃やされていないこと。――以上です」


「ありがとうございます。――四ツ井や大重、浜島警視長のご冥福を心よりお祈り申し上げます」


 能山が無言で着席したあとに朽木は涙を堪えながら礼をした。そしてくるりと後ろを向いてホワイトボードのペンを持ち上げる。


「また今回も多くの謎が残されましたが、これで私はようやくこの連続全焼事件の法則性を割り出すことに成功しました」


 絞り出すような声で話し続ける。ホワイトボードに顔を向けているため、既に涙目になっていることは他の誰も気づかなかった。しかし誰もが涙を我慢しているため、なぜ絞り出すような声で喋るのかと咎める人物はいなかった。


 朽木はペンのキャップを外すと、ホワイトボードに三つの円を描き、その中にそれぞれ「イデア」「笹倉」「如月」と書き込んだ。


「この三つの地点を直線で結び、更に中央の『笹倉』から直線を引きます」


 イデアと笹倉、笹倉と如月の間の幅が同じになるように笹倉から線を引いた。


「同じように、イデアと如月からも線を引きます。そうすると、ある地点で線が交わります。――そうすると、この点を中心にした正七角形が浮かび上がります」


 線と線の間が同じ幅になるように直線を加えていき、それぞれの先に円を書き足すと、円から突き出すように引かれる正七角形の辺がやがて一周してイデアに戻ってきた。


 見事な正七角系が完成。


「次のこの円にあたる場所は地図で言うと――株式会社ヘルミスの本社ビルに該当します」


 ヘルミスは有名な電化製品メーカー。数多くの国々に製品を輸出しており、国にとっても大切な貿易の柱となっている。その本社が全焼されてしまうとなると、国の大赤字はほぼ確定したも同然。なんとしてでも、事件を止めなければ。朽木は強く願った。


 説明を終えた朽木が虚ろな目をしながら自分の席に着席すると、何の前触れもなく敷井が言葉を発した。


「我々の資本にも大きく影響を及ぼす危険性があります。我々が必ず犯人を捕まえましょう」

「…………!」


 それは、朽木を全面的にサポートすることを示す。今回の如月美術館全焼事件に関して、命を救うことは出来ずとも見事予感を的中させた朽木に対する敬意だと窺える。


 朽木はそれを聞いて安心した。そして、仲間の命を預かる責任の重みを噛み締めて、


「……はい」


 と一言だけ返事した。



◆◆◆



二月十二日(金) 午後一時 都立海島高等学校 二年三組教室



 昼休み。

 真冬の太陽の日差しがカーテン越しに、窓寄りの俺の席へ堂々と照らし付ける。そこに俺は片肘をついて欠伸をした。


 ただでさえ連日、雨宮たちと会って力の練習をして夜はテスト勉強、その上連続全焼事件とやらに関わって疲労が溜まっているというのに、こんなに気持ちのいい日を浴びせられたら眠くなって当然である。


 学年末テストが全科目終了して早く帰宅したいというのに学校というやつはどうやらそうにもいかないらしい。テスト終了。では早速授業を行いテストを返しましょう。――ということだそうだ。


 ああもう。テストなんてどうでもいい。とにかく今は少しでも睡眠を――――ガタッ


「やっほー蓮! テストどうだったー?」

「英治……」


 こういうときに限って…………英治というやつは――――


「なにシケた面してんだよ! まさかテストの出来が良くなかったとか!?」


 「うるせぇな」とは流石に言わなかったが、少しだるそうに、


「別に……」


 と答えておいた。


 この世の中には、マーフィーの法則と呼ばれるものがある。


 例えば、自分がトイレに入っている時に限って電話がかかってくるだとか、雨が降るだろうと予想して傘を持って出掛けた日は雨が降らないのに、傘を持たない日に限って突然大雨が降りだしたりだとか。

 そういった「なぜかこういう時に限ってこうなる」という予測不可能の事態のことを指す。


 これを発見したマーフィーは” If anything can go wrong, it will.”―――「失敗する可能性のあるものは、失敗する」と説いていて、「最悪の事態を予想して、そうならないように願掛けすると最悪の事態はやってくる」という意味だそうだ。


 それは先ほど述べた例にも該当する。『雨は降らないだろう』と思って傘を持たずに出かける。『電話がかかってくる』ことは予想できずとも、『自分が他に対処しなければならないことは何もないだろう』と思ってタイミングを掴んでトイレに駆け込む。


 そしてついさっき昼寝をしようとしていた俺は実際、『邪魔するな』と願っていた。だが、その邪魔をするかのように英治はやって来た。俺はこのマーフィーの法則を、人間の意志による何かしらの暗示が原因だと思っている。それを理論的に説いていけば、『自分で未来を操ることが出来る』というトンデモミラクルな逆説に辿り着くんだが。


 なぜ俺がこんなことを突然語りだしたかと言うと、要は英治に来て欲しくなかったという気持ちの度合いについての説明と、なぜそうなってしまったかの証明のため。


 あとは、――――暇つぶし。


 英治とは入学式の時から嫌というほど付き合わされていたから次にどんな言葉を口にするかは、その時の時期・雰囲気・口調・表情ありとあらゆる事象からある程度は予測できるようになった。そしてそれは現実になる。最悪の事態を呼び起こすかのように。


「もうすぐバレンタインなんだぜ!?」


 英治はどうやら気持ちが高揚しているようで、どう考えてもいつものテスト終了後の雰囲気とは違う。いつもだったら「やべぇ~テストやべぇ~」とか言いながら俺に擦り寄ってくるのに。


「……それがどうかした?」


 睡眠と会話、どちらを優先すべきか暫し葛藤した末、英治との会話をさっさと終わらせて眠りにつこうという選択肢を選んだ。


「ノリ悪ぃなぁ! まぁ蓮のことだから毎年たくさんもらってんだろうけどさ!」

「まぁ、否定はしない」

「チクショー!」


 ――どこの小梅さんだ。古くないか。


 バレンタインといえば、小学生の頃はよくふざけて『誰が一番多く女子からチョコを貰えるか』という競争をしてたっけ。その競争のルールとして、母親や親戚からもらったチョコや市販のものはノーカウントということにしておいて、毎回優勝してたのはだいたいチャラい奴だったな。その中には俺も含まれていたけど。中学に入ってからはいろいろ訳あって全部断っている。もともと甘いものはそこまで好きじゃない。


「てか! そういう話がしたいわけじゃなくってさ」

「?」


 俺は首を傾げた。英治がバレンタインで女子からチョコ貰う話以外に何の話があるというのか。


「知ってるか? 時代の最先端を!!」

「は?」

「そう。今や女子は恥ずかしくて…というかありきたりすぎて男子にチョコを渡さずに友達同士での友チョコがほとんどらしい!」

「はぁ。さいですか」


 じゃあ俺たち関係ねぇだろ。で、お前は結局何が言いたいんだ。結論を言えよ、結論を。


「時代は逆チョコだぜ!!!」

「ぎゃく……ちょこ?」


 それは予想外の発想だった。まさか英治がそんなことを言い出すとは。でも。逆チョコと言われて、少しだけ考え込んでしまった俺がいた。



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