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CREST~7つの紋章編~  作者: 館山理生
第3章 襲撃事件
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第9話 紋章離脱式反対派


 月詠はもったいぶるように少し言葉をためてから条件を提示した。


「今夜一晩だけ、雨宮さんを借りたいんだけど」

「はいぃ!?!?!?」


 真っ先にリアクションを言葉にしたのは東雲だった。


「え? え?」


 と榊原は困惑している。


「はー、コイツもそういうこと言うんだなー」


 と片桐は感心している。


「お前初対面の女と泊まろうとか本気!?」


 と東雲は驚愕――否、慌てていた。そして雨宮本人はというと。


「わかりました」


 と素直に承諾していた。


「「「えええええええええ」」」


 これには流石に東雲・榊原・片桐ともども驚きを隠せなかった。


「おい! 月詠とかいう奴! そいつにやらしいことはするなよ!」

「なんで東雲先輩が雨宮先輩の貞操を守るの……」


 嫌いなんじゃないの……と呆れる榊原。自分の発言に思わぬ勘違いが生まれてしまいそうになっていることに気付いた東雲は咄嗟に言葉を付け加えた。


「そいつは、一生処女だから!!!」


 東雲は混乱しており自分でも何を言っているのか理解できていなかった。それを見て片桐は「コイツガキだなー」と思うのだった。承諾を得た月詠は自分の発言するタイミングをうかがってから割り込む。


「やらしーことねぇ。あーでもこの際せっかくだからアレを”確認”するのもありだよね」

「ちょ……!」


 “アレ”とは紋章保持者の「新しい命を生む、生ませることが出来ない」という話だと瞬時に理解する。


「はは。冗談だよ。君が雨宮さんのことを好きだってことは十分伝わったからさ」

「違う! 好きとかじゃなくて……」


 東雲はそれ以降の言葉が詰まって出てこなかった。ハッとして雨宮を見る東雲。雨宮は顎に手を添えたまま何かを考えているようだった。


「……」


(こいつが今の月詠の言葉を間に受けるわけ、ないよな)


 東雲がホッと胸を撫で下ろすと、横から月詠の号令がかかる。


「ま、こんな童貞丸出しの東雲クンはほっといてー、ちゃっちゃと美術館燃やして退却しよっか!」

「「「おー」」」

「童貞言うな――――――ッッッッ!!!!」



◆◆◆



同日 午後十一時 雨宮家


 今回の『如月美術館全焼事件』も結果は成功に終わった。


 突然現れた月詠の陰の力を借り、私たちは誰にも見つかることなく、かつ無駄な体力を使うことなく各々に解散した。ニュース番組ではリアルタイム中継もしていたらしく、今現在でもこの『連続全焼事件』の話題で持ちきりだ。


 私は相変わらず家族のいない自宅で退屈な時間を過ごしていた。――つもりだった。


「ふぅ~いい湯だったー。ありがとー」


 月詠が風呂から上がってリビングに戻ってきた。ちなみに私はというと、月詠がレディーファーストだと言うので先に入ってとっくに上がっている。


 月詠爽太――初めて見た瞬間に、こいつは胡散臭い奴だと思った。ちゃらんぽらんな口調に、いかにも頭の悪そうな金髪。それが演出に見えて仕方がなかった。本当はとても頭の回る奴で、私を一晩借りるという条件を提示したのもきっと重要な話があるからだろう。私の今までの経験上、こういった表面が嘘で塗り固められた人間は日常生活でも簡単に嘘を吐く。だからこそ、“胡散臭い”のだ。


「あ、ドライヤー借りていい?」

「どうぞ」


 適当にドライヤーの場所を教えて、引き続きニュース番組を鑑賞する。数分後に月詠がドライヤーを元あった場所に戻し、再びリビングに戻ってきた。


「なんか面白い番組やってる~?」

「さあね」


 私はここ最近、ニュース番組しか観ていない。


「今日の事件のことで持ちきりみたいだね。情報なんていつでも手に入るんだから、なんか面白い番組見ようよ」

「……勝手にして」

「むぅ~雨宮さん冷たいね」

「褒め言葉として受け取っておくわ」


 しばらくそんなやり取りを続けていたけど、途中で飽きて私はソファを立ち上がり、冷蔵庫に向かった。そういえば、冷蔵庫も中身が埋まることがなくなったわね。もともとファミリータイプの冷蔵庫だもの。当たり前か。野菜室からお茶の入ったペットボトルを取り出し、二つコップを用意してそれぞれにお茶を注いだ。


「どうぞ」

「ありがと!」


 素直にお茶を受け取った月詠は「いただきます」と言ってからコップに口をつけた。――――社交辞令なのか知らないけど、礼儀はあるのね。


 一息ついて、私から月詠に話を持ち出した。


「それで、私と一対一で話したいことって何かしら」

「…………」


 それを聞いて月詠は表情を真剣なものに変えた。先程までの胡散臭い笑顔とは明らかに違う。嘘は吐かない。そういった顔をしている。


「聞きたいことがね、あるんだよ」


 若干低めの声でそう告げた。


「何?」


 私が聞き返すと、月詠は体全体を私の方に向けた。そしてゆっくり、その言葉を口にした。



「雨宮さん、君――――――紋章離脱式反対派でしょ」



 唐突に放たれた馬鹿げた話に、私はただ笑うしかなかった。




第3章 襲撃事件 完



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