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CREST~7つの紋章編~  作者: 館山理生
第3章 襲撃事件
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第8話 紫と黒


同日 午後七時二十分 如月美術館



「あと十分か……」


 腕時計を見て、朽木はキッ! と館内を見回した。館内では警察や業者の者たちが展示物を回収している。ニュースでは既に、如月美術館が次の全焼事件のターゲット疑惑として報道されている。そのため、美術館を囲むテープの外側には野次馬やテレビ局が押し寄せていた。


(銃声が止んだな……防犯カメラが全て破壊されたのだろうか)


 数十分前にモニタールームから「拳銃の音と同時にモニターが映らなくなった」という通報を受け、すぐさまこの如月美術館に駆けつけた。浜島の意向により、朽木は展示室で待機するよう指示され、当の浜島はスタッフ専用通路に行ったまま帰ってこない。


(相手は拳銃を持っているが、浜島警視長はプロだ。殺されるはずがない……しかし、四ツ井・大重班からの連絡が途絶えたということは……くそッ! やっぱり俺もスタッフ専用通路に回るべきだった!!)


 いてもたってもいられず、朽木は咄嗟に浜島のトランシーバーに連絡をよこした。


「……こちら朽木です。応答願います、どうぞ」


 通信ボタンを切ってしばらく返答を待ったが、二分待っても返答は返ってこなかった。


「……まさか……」


 トランシーバーを片手にその場で立ち尽くす朽木。


(浜島警視長が……)


「そろそろ出ないと、燃えるかもしれませんよ!」


 警官の一人が朽木に駆け寄り注意を促した。


「そうだな……」


 そうだ。七時半には突然大きな炎が上がるかもしれない。会議で何度も言いかけてきたことだ。それをわかっていて未だに出てこないということは、もう浜島は手遅れなのだ。


 朽木は悔しげに唇を噛んだ。


 一体の死体が転がったモニタールームに、雨宮・東雲・榊原の三人は集結していた。雨宮は先ほどまで人間が座っていたであろうモニター制御パネル前のイスに座って、館内の展示室を映したモニターを見上げながら状況の把握に励んでいる。


「出入り口は完全に塞がれてる。正面には警察が張ってるだろうし、それは裏口も同じなはず……マスコミも来てるわね」


「炎の中に空洞を作って退路を確保するんじゃないの?」


「ええ。もちろんそのつもり。そして美術館を抜けたら“驚異的な身体能力”を使って――――」


「あ、あのさ」


「何?」


 雨宮と榊原の作戦会議に唐突に割り込む東雲。


「話しておかなきゃいけないことがあって」


「話しておかなきゃいけないこと?」


「ああ、それならボクも――」


「?」


 二人して何かを伝えようとしている中、一人きょとんとする雨宮。


「東雲から順番に話し―――」


 と、その時だった。


「百聞は一見に如かず、じゃない?」


 扉が開いた音もしていないのに、扉の前にはさっきまで居なかったはずの見知らぬ顔が二つあった。


「「さっきの……!!!」」


 東雲と榊原が示したリアクションで、雨宮は瞬時におおかたミッション中に出会ったんじゃないかという考えに至った。そして、それは榊原が警察を殺害する前に防犯カメラを破壊したことと何か関係があるのではないかと。


「……二人に何をしたの?」


 怪訝な顔つきで目の前の金髪の少年と不良そうな青年を睨んだ。


「はは。そんな怖い顔しないで。せっかくの美人顔が台無し。……じゃなくて、ちょっとした助太刀をしただけだよ」


 金髪の少年は苦笑しながらそう告げた。


「助太刀?」


 雨宮は金髪の少年の言葉を反芻する。


「そう、助太刀。僕はそっちの炎の人に拳銃をプレゼントして、こっちの不良は水の人の命の恩人」


 パッ、パッと人差し指で自分自身を指したり隣の青年を指したり、身振り手振りを交えながら説明した。


「不良って名前じゃねェよ……」


 と青年が頭の後ろで腕を組みながら苛立ち顔で呟いた。


「なるほど……」


 と雨宮が納得したようにため息を吐くなか、東雲は一人驚いた表情をして混乱する。


「炎とか水とか……俺たちのこと知ってんのかよ!?」


「……まぁ、ここ来てからずっと見てたからね」


 金髪の少年は苦笑いをしながら心の中で「そんなこと今さら否定も肯定もする必要ないでしょ」と考えていたが、あえてそれは口に出さず、胸中に留めておいた。


「ずっと見てたって、おま……」


「東雲はちょっと黙っててくれるかしら。時間ないから」


「な……」


 雨宮に黙れと指図され苛立ちを覚える東雲。だが、改めて辺りを見渡してみると自分だけが空気を読んでいないようだと気づき、


「わかったよ……」


 と一言だけ言って口を閉じた。


「じゃあ、まずは自己紹介と洒落こもうか!」


 金髪の少年が明るい口調で切り出してきた。


「そうね」


 雨宮はそれに賛同し、金髪の少年の返答を待った。


「えーと、はじめまして。僕は月詠爽太って言います! 紋章のカラーは紫で、勘づいてるかもしれないけど、力は“姿消し”。透明人間みたいに誰からも見られなくて、幽霊みたいに誰も触れない・物質に干渉しない力。ちなみに誕生日は――」


「はじめまして、雨宮紅愛です。白の紋章で力は雷」


「……しょぼーん」


 嬉々として自己紹介を続けようとする月詠を遮るように簡潔な自己紹介を終えた雨宮。月詠は少しばかり悲しそうな表情をしていたが、それはあくまで表面的だと誰もが理解できるものだった。


「ま、いいや。次コウちゃん」


「誰がコウちゃんだ。ちゃん付けすんなッ! ……えっと、オレは片桐コウジ。紋章は黒で、力は闇だ」


「じゃああの時のって……」


 片桐の自己紹介が終わると、東雲が「もしかして」と思い確認をする。


「ああ、あのジーサンの視界を一時的に真っ暗にした」


「なるほどね」


 片桐の説明を聞いて東雲は納得した。そしてその流れに乗って今度は東雲の自己紹介。


「俺は東雲蓮。水の力を持つ青の紋章保持者だ」


「チキンのな!」


「う、うるせー!」


 東雲の自己紹介が終わると片桐が余分な言葉を付け足した。


「あ、えっと……いいかな?」


 二人が仲良くいがみ合っている中、榊原が恐る恐る挙手をした。


「どうぞー!」


 月詠の明るい一声に励まされて、榊原は自己紹介を始めた。


「榊原慎也っていいます。赤の紋章で、炎の力を持ってます」


 一通り自己紹介を終えると、


「さて」


 と月詠が話を進めようと合図した。


「くれ……雨宮さん達は、これからどうする予定?」


「……?」


 雨宮は今の月詠の発言の頭部分に違和感を覚えたが、時間の問題もあるので今はスルーすることにした。


「そうね……本来は榊原に炎のアーチを作ってもらってそこをくぐり抜けて走って帰ろうと思ってたけど、今は月詠君がいるからね」


 腕を組んで顎に手を添える雨宮。


「うん、月詠くんさえよければ力を借りたいんだけど……」


 榊原は雨宮の言わんとしていることを汲み取って頼みごととして言葉にした。


「ああ、協力するのは構わないよ。でもね、一つだけ条件があるんだ」


「「条件ん?」」


 東雲と片桐が同時に同じ発言をした――――ハモった。


「……条件とは、何かしら」


「えっとねぇー」


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