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CREST~7つの紋章編~  作者: 館山理生
第2章 人為的事件
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第6話 準備


     ◆◆◆


同日 午後七時過ぎ 笹倉公園



 「遅い……」


 公園内のブランコを囲む柵に腰をかけながら、右足でトントンと貧乏ゆすりをする。


 「まったく男って奴は……」


 どうして待ち合わせ時間を守れないのかしら。東雲に関してはどうせ遅れて来るとわかっていたからある程度覚悟はしていたものの、まさか榊原まで待ち合わせに遅れるなんて。東雲を呼び出したのは私だけど、榊原は自分から時間と場所を指定したのよ?


 もう少し責任感というものを持ってもらわないとこの先何かがあったとき――


 「遅れてごめん!」


 声変わりしているかしてないかぐらいの中音域な男の声。


 「こんばんは榊原くん」


 私は笑顔で挨拶した。


 「こ、こんばんは先輩。あの、目が笑ってない……」

 「そんなことないわよ?」

 「……遅れてすいません」


 二回も謝ったのでとりあえず許した。待ち合わせ如きでグダグダしていたら、犯行に失敗しかねない。


 「あれ? 青の人は?」

 「ああ、あいつならもうすぐ来るはず……」


 そう言って公園の出入り口に目をやると、“そいつ”はのこのことやって来た。


 「うぃっす」

 「……」


 榊原が驚いたように目を見開く。


 「この前の……!」


 あいつのことを知っている素振りだったので問い詰めてみる。


 「ん? あいつのこと知ってるの?」

 「知ってるっていうか……この前学校で見かけた人だと思って」

 「あぁ……そういえばそうだったわね」

 「そっか……あの人が……」


 何かに納得したようで、その先は言葉にしなかった。そして、もう一度“そいつ”に目を向ける。


 「東雲……」


 私は呆れていた。愚問だとは思いつつも、榊原への「東雲の説明」がてら仕方なくこの言葉を口にした。


 「待ち合わせに遅れておいて、あんたの第一声はそれ?」

 「はは、さーせんさーせん」


 思った通り謝る気がない。榊原を見習ってほしいものだ。……いや、まず待ち合わせに遅れて来ないで欲しいんだけど。


 「えっと……?」

 「この常識のない奴は東雲蓮。青の紋章の持ち主よ」

 「一言余分だろ……」


 東雲が突っ込みを入れているが、今の流れでその呟きは徹底的に無視された。


 「で、こっちの彼が赤の紋章の持ち主である榊原慎也くん。一年生だけど、この際年齢は関係なく全員タメで」

 「よろしく!」

 「よ、よろしく」


 あの頃と相変わらず、東雲は営業スマイルだった。そんなもの、私と一緒にいる限り無意味なものなのに。


 「二人は知り合い?」


 不意に榊原が疑問を口にした。東雲の私に対する態度と榊原に対する態度に温度差を感じたのだろう。


 「この前の全焼事件をきっかけに仲良くなりました」


 と、ネタなのか本気で嘘を吐いているのかわからない言葉を発する東雲をぼーんと突き飛ばして、


 「中学時代のクラスメイト」


 と真実を告げた。


 「ふぅん……でも、仲良くなさそうだね」


 勘の鋭い榊原に対して、


 「……こいつが全ての元凶で、」

 「私たちすごく仲良しなのよ」


 東雲が事実を歪曲して話そうとしているのでそんな彼を困らせるためにわざと腕を組んで嘘を吐いた。恐らく頭のいい榊原ならこの「わざとらしさ」が伝わるだろう。……いや、普通伝わるか。


 「離せよ」


 当の本人はすぐに腕を振りほどこうとする。それに対して私は抵抗も何もせずただ腕を振りほどかれてやった。


 「仲いいんだね」


 榊原はそう言ってハハッと笑った。そんな、裏の裏を読みましたと言わんばかりの顔をされても。


 「最終確認をしましょう」


 私のその一言で、場の空気が変わった。先ほどまでわーきゃーしていた東雲と榊原の目つきが変わる。


 「……まず、それぞれの力について把握したいんだけど、榊原の炎は東雲の水でしか消せないってことでいいのかしら」


 この確認に対して真っ先に口を開いたのは東雲だった。


 「ああ。消防団は手も足も出なかった。多分、紋章の力を抑えられるのは紋章の力を持つ者のみ、ってとこか」

 「確かに、普通なら消防団がとっくに消火しているはずだけど、榊原が起こした炎はショッピングモールが全焼してもなお燃え続けていた」

 「実際にボクが試しに自分の炎を普通の水で消そうとしたけど全く効果がなかったから、間違いないよ。普通の風でも消えない」


 榊原が言った「普通の風」という表現に引っ掛かったが、今はその話をしている場合ではない。だが、空気を読まない東雲はそこにわざわざ突っかかった。


 「てことは、風の力を持ったやつもいんのかな」

 「いるだろうね」「いるでしょうね」


 二人同時に即答された東雲は少ししょんぼりしていた。明らかに「俺だけが考えてたわけじゃないのか……」と考えている素振りだ。


 「て、てか! もし風の力を持った奴が来て炎を消されたらどうすんだよ!」

 「そんなことしても炎が燃え移って被害が拡大するだけよ。頭のいい人ならそんなことしないわ」

 「……仰る通りですね」


 馬鹿にされた東雲はしばらく口を開かなかった。


 「……で、次に肝心のアリバイ作りだけど」

 「ちょっと待った」

 「ん?」


 榊原が口を挟む。


 「ボクたちはもうマンション周辺に集まってる。誰かに目撃されててもおかしくないよ。容疑者候補には入ることは逃れられないと思う」

 「雨宮にはなんか策があんの?」

 「もちろん。それを踏まえた上での案よ」


 この件について、慎重に説明することにした。


 「まず、前回の全焼事件について、警察は“放火魔の仕業”で炎が燃え上がったと考えて調査を進め、“謎の現象”として、科学者たちは炎に含まれた特殊な物質という仮定に基づいて研究しているわよね」

 「そうだね。警察はともかくとして、現場に残った灰なんか調べても何も検出されないのに、可哀相な話だよね」

 「ついでに言うと消防団が消せなかった炎が一瞬で消えた現象についても究明してるわけだから、事件は一向に解明されず犯人も特定できないまま……」

 「そう。つまりね、……謎を増やせばいいのよ」

 「「!!」」

 「警察が“放火魔の仕業”と考えて調査を進めるなら、“ただの放火魔では成し得ないこと”をすればいい。科学者が解明を急ぐなら、もっと多くの課題を叩きつければいい」

 「そして、事件の関連性を生み出せばいいわけだね……」

 「なんつーか、ゲスいな」


 確かに東雲の言うとおり、下衆なやり方かもしれない。いや、下衆というよりサディスティックという表現の方が上品で嬉しいんだけど。


 「最後に、“驚異的な身体能力”を使って人間には不可能な方法で帰宅し、時間的アリバイを作る。そうすれば、私たちは“ただ事件から逃れてきた一般人”という扱いになるわ」


 とは言っても、次からは現場周辺に集まってから会議するようなことは避けたい。いつも事件の前に現れる人というレッテルは流石に手痛いものがある。


 「なるほどね。先輩はなかなかに頭が回るみたいだね」

 「お褒めいただき光栄だわ」


 後輩が言うセリフではないと思うけど。けど、榊原は前回の全焼事件で私以外に目撃されていないという実績がある。やはりこいつもなかなかに頭が回るのだろう。


 「ま、お前の計画だし……失敗はなさそうだな」


 東雲は溜息を吐きながら悔しそうに肩を落とす。そうだな、私がどれだけ計画性のある人間かは、恐らくこいつが一番知っているだろう。なら話しが早いというものだ。


 「じゃ、最後は具体的な計画の内容に移りましょうか」



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