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知ってしまったもう一人
Agape
鍵をもらってから、洋一おじさんはなんだか忙しそうだった。仕事、大変なのかな。
そんなことを思って、深香は一人赤面した。
鍵を渡された、その行為になんらかの『特別』を見出そうとした自分が恥ずかしくて。
洋一おじさんは、単に仕事が忙しくなるから、家事のことのために深香に鍵を預けたのだ。
深香は、そう納得した。
♪~
「あ、メールだ」
ちょうど家事にキリもついたところだったので、
深香はなんの気なしにケータイを開いた。
岬おねえちゃんからだった。
内容は、たまに送られてくるものと同じ、愚痴と見せかけたのろけだ。
そういうものを嫌がる人もいるが、
深香は、ああ、岬おねえちゃんは幸せなんだなあ、なんて、
ほほえましく思いこそすれ、
嫌だと思うことはなかった。
自分でも気づかぬほどに、かすかに浮かべた笑みは、
まるでおまけのように書かれた文を目にしたとき、氷ついた。
洋一おじさんが、アメリカに行くらしい。
深香は、ケータイのスケジュールを呼び出した。
今日は、八月二十日。
洋一おじさんが発つのは、一週間後だった。