一人の後悔
Eros
「うわあ……やっちまった……」
さっきからそればかり言ってる気がするが気にしない。
ベッドの上で悶えていたからシーツがぐちゃぐちゃだ。
普通、鍵を渡すとしたら、
つきあって、お互いの部屋を行き来してから、というのが相場だ。
「先走りすぎだろ、俺……」
深香も戸惑った顔をしていた。
多分、深香がそういう顔をすることは少ないんだろーなー、という予想くらいはできる。
深香は無意識的に人に合わせてしまうのかもしれない。
洋一の前で、洋一の望むように家事をし、友達と思しき女子とイマドキのしゃべり方をする。
両方とも、深香の内面では、たいした違いもないんだろう。
……いや、別に同性の友達にまで嫉妬してるとか、そういうわけでもねえんだけど!
「……深香って多分、俺の世話やくからって、俺のことが特別ってわけでもねえんだろうな」
自分で言ったことにショックを受け、結果としてシーツはますますしわくちゃになった。
夜が明ければ朝がくるのは当然のことだ。
朝がくれば、会社へと出かけるのは、社会人として当然のことだ。
気は、果てしなく重いが。
「はー……」
洋一の勤めるこの会社は、毎週月曜に朝礼がある。
外資系なんだから、朝礼をなくしてくれと毎回思うが、
「日本の文化に合わせる」という、ぶん殴りたくなるような理由で朝礼があるのだった。
朝礼を流して自分のデスクに戻ると、もう八時半を回っている。まったく、冗談じゃない。
仕事でもして、思考を埋めないと、つい深香のことを考えてしまう。
恋と独占欲の区別がつけられないのは、俺が変なのか。
「けっこう、淡泊なほうだと思ってたのは、間違いか」
小さく呟いたその声は、誰にも聞きとがめられることはなかった。
今日も今日とて午前様。サービス残業?くそくらえ。
半分寝ながらアパートの鍵を開けると。
「……は?」
ぐちゃぐちゃのシーツはきれいに整えられ、テーブルの上には食事まで用意してある。
一応デスクでコンビニのおにぎりをつまみ、夕食と称してはいるが、
この時間になると少し腹が減る。
そんな腹事情を見越したかのように、テーブルの上の食事は、
夜食といったかんじの料理だ。
正確には、少しのごはんと大根の煮物。
「……うまい」
深香の味付けだ。優しい、深香の味。
時計を見ると、午前一時。
あと、何時間か早く帰っていたら、深香に会えたんだろうか。