一人からもう一人へ、贈り物
Agape
♪~
「もしもし?」
あのものぐさの洋一おじさんから電話なんて珍しいな、というか初めてかも。
そんなことを思いながら、深香は電話をとった。
「俺。渡したいものがあんだけど、いつなら暇だ?」
深香は時計を見た。日曜午後五時。
「今、大丈夫だけど…」
「んじゃ、俺がそっちに……あ、だめだ。俺、深香の家知らねえや」
「あたしがそっちに行こうか?おじさん、どうせ家なんでしょ?」
「おい。俺だってたまには仕事以外でも出るぞ」
おじさんは今、隣の市にいるらしい。
その市は繁華街があるから、あたしも友達と遊ぶのはそこが多い。でも。
「おじさんがそういうとこに行くのって、なんか意外」
「うるせ」
「ごめん」
半分笑いながら謝った。
結局、あたしの家からの最寄の駅で会うことになった。
おじさんと外で会うのって、初めて会ったとき以来だなあ、なんて思ったりして。
あのときの自分の暴言を思い出して、顔が赤くなった。
駅まで、歩きで十五分。顔の熱が引くように、ゆっくり歩いてきたら、
洋一おじさんが既に来ていた。
「あれ、おじさん、早いね」
「まあ、たまにはな」
どうやら、自分が待たせる側の人間だということは自覚しているらしい。
「あのさ、深香」
「何」
おじさんの顔が妙に真剣なので、深香はなぜか早口になった。
「おまえ、俺を起こすのって、面倒だったりしないか?」
「あー……。うん、まあ。たまにそう思うときもあるけど」
真剣な顔の割に、聞いてきた内容があんまりだ。
「自分で言うのもなんだけど、やっぱそう思うだろ。だから、これ渡しとこうと思ってさ」
おじさんに渡されたのは、鍵。
「好きなときに使ってくれればいいから。」
「……別に、家事するとき以外でも、アパート勝手に入ればいいし」
「……え、っと」
深香はびっくりした。この鍵は、この台詞は、どういう意味だ。
いや、意味なんてないのか。文字通りの意味なのか。
深香の反応を、おじさんはどう思ったのか。
「ま、いつも通り土曜だけ来るとか、そんでもいいけど」
鍵を深香におしつけ、
「じゃ。電車来るから」
それだけ言って、改札の向こうへ行ってしまった。
「……これ、どういう意味なんだろ、ほんとに」
最近の洋一おじさんは、どこか変な気がしていたけど、今日のは最大だ。
「ほんとは、あんまり面倒だと思ったことはないんだけどな……」
独り言でしか、言えないけど。