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二人の出会い

Eros

兄貴が結婚して、洋一は家を追い出された。

まあ、洋一としても、新婚さんの仲を邪魔するのは悪い、くらいのことは思ったので、

アパートに移ることはそこまで嫌でもなかった。

少なくとも、最初は。



アパートに住み始めて、一か月。

「さすがに、まずいよなあ、これは」

洋一は頭をぐしゃぐしゃかきまぜた。

目の前には、ごみだらけの床。フローリングが全く見えない。

いくら、このアパートに帰るのがほとんど寝るときだけだからと言っても、

この状況は快適とは言い難い。

というか、はっきり言って不快だ。

ならば掃除をすればいい。それは分かっているのだが、

いかんせん何をどうしたらいいかがさっぱり分からない。

「……兄貴にやってもらうか」

結局、洋一は兄貴に頼る、という結論しか出せなかった。

カレンダーを見ると、土曜日。時間は午後三時。

「今なら、家にいるか」

岬さんに悪いかなー、とは思ったが、そこで思うだけで終わるのが、洋一である。



洋一が職場とアパートを往復しているうちに、

外の世界はいつのまにか春になっていたようだ。

あったけーなー、なんてことを思いながら歩いていると、

どこかで見たことがある奴が前から歩いてきた。

制服を見ると、洋一の母校の高校のセーラーだ。土曜日まで学校か、ごくろーさん、と

心にもないことを心の中で呟いていると、その女子高生は、洋一に気付いたようだった。

というのも、

「洋一……さん?どうしたんですか?こんなところで」

と、話かけてきたからだ。その声を聞いて、洋一は、ああ、と思い当った。

岬さんのイトコの……えーと、誰かだ。

まあ、とにかく新しい親戚であることは間違いない。

だから洋一は至極当たり前のような口調で、

「兄貴に俺のアパートの掃除頼みに行くんだよ」

と言った。

しかし、そのイトコちゃんは、まなじりをつりあげ、

「あんたは、馬鹿ですかっ!」

と叫んだ。



それでも、その後アパートに洋一を引っ張って帰った深香は、

掃除をやってくれた上、定期的に来てくれるようになったのだから、

なんだかんだいって、優しいのだ、多分。

洋一としても、誰かにやってもらってばかりなのは、大人としてどうかとは思うが、

生まれてこのかた、周りにそういう世話好きな人物がいないことがなかったので、

実際困ったことはあまりなかった。

そして、人間は一度本気で困らないと学習しない生物なのである。


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