第三話―きっかけの隠れた朝食Ⅲ―
「あんな組織ぺしゃんこよ。もう、粉々」
アキナの言葉にカオルは耳を疑った。
「つ、潰した・・・って、あれを?」
アキナは窓の外を見て,優しい微笑みを浮かべる。
「私ね。私を刃向かってくるやつも殺そうとしてくるやつも、ましてその為に卑怯な手を使うやつらがだいっ嫌いなの。だから、今までは私に盾突いてきたやつはだいたい殺すか,傷みつけてラシュタリア,まぁ、刑務所代わりの場所にぶち込んできたわ」
カオルは恐怖に身体が震えた。
「でも…今回はそれをしなかった。それどころか暗殺者は今,目の前で食事を取っている」
アキナは目線をカオルに
移す。
「そして,これからもラシュタリアに突き出すつもりはない」
暗い表情のカオルに微笑みかける。
「でも,ラシュタリアのお偉いさんたちは私がそうすることによって面目丸つぶれよね。いくら私がやったとは言え,犯罪者を野放しにして手出しができないのだから。だから,うるさく言う前に,君のいた組織とそこに資金提供していた貴族どもを潰してラシュタリアに置いてきたの。君と君が関わった情報全てと引き換えにね」
アキナが言っていることがまだ信じられない様子のカオルは呟くように言った。
「じゃ,じゃあ……あいつらは死んだのか?」
アキナは笑いながら,顔の前で手を振った。
「いやいや,さっきも言ったけど殺さなかったよ。君との引き換えに使ったからね。だけど,まぁ今頃は死ぬより辛い尋問が行われているだろうね」
アキナはカオルに向けてウインクをする。
カオルはほっと胸をなでおろすが,思い出したように言った。
「で,でも…,なんで俺のためにそこまで!」
アキナは優しい笑みを浮かべた。
「そんなの決まってるでしょ。私が君を気に入った。それ以外に理由が必要?」
その言葉を聞き,カオルの胸に何か熱いものがこみあげてきた。
「ちょ,な,なんで泣くの?私変なこと言った?」
「え…」
カオルは自分のほほを撫でると,たしかにそこは涙で濡れていた。
「な,なんでだろう…」
そんなカオルの様子を見てアキナは微笑み,ゆっくりとカオルを抱きしめた。
「苦しかったよね。君を縛るものはすべてなくなった。すべて終わったんだ。だから,気が済むまで泣きなさい。もう,あなたは自由なんだから」
その言葉にカオルは堰が切れたように大声で泣いた。
その姿に殺人鬼としての影はなく,年相応の子供のようだった。