エピローグ
あれから一年が過ぎた。
ブルグレイはサイフォンと共に元の傭兵部隊、グーリッシュに戻り活動を再開した。
ラーディスはそのままレスドゥの町に留まり、しばらくはエスティに魔法を教えていたが、一通り魔法を教え終わると一人で放浪の旅へと出てしまった。まぁ、ラーディスの事だからまたどこかで出会えることもあるだろう。ルチアの事が心配ではあるが。
そして、その一年の間にはたくさんのことがあった。
私たちはレスドゥの町を、イリスティア王国を守った英雄として、一気に名声が広まった。他の冒険者からは完全にあこがれの的となっていった。
彼らとクエストを共に受けることも多くなった。そして、彼らは私たちの戦いぶりを見て、私たちの事をこう呼ぶようになった。
エスティは「無限の魔力を持つ少女」、私は「蒼き疾風の剣士」、と。
それは私たち二人の二つ名となっていた。
二つ名を持つことは私たち冒険者にとって大変名誉なことである。二つ名を持つことはその実力が周りに認められていると言うこと。そして、その実力が周りに知れ渡っていること。多少困難なクエストを依頼されることもあるのが玉に瑕ではあるが、それはそれで大変頼りにされている証拠でもある。
今私たちはレスドゥの町のあるイリスティア王国から西へ向かったところにある、ガルバント共和国の首都ガルバンドに拠点を移している。この国もガストール帝国に隣接している国ではあるが、この一年間帝国に動きは見られない模様だ。模様だというのは、冒険者ギルドの酒場で聞いた噂話であることに過ぎない。もしかしたら裏で次なる侵略の準備を行っているかもしれないが、それは私たちの知るところではない。
この街でも私たちの名前は知れ渡っていた。名前を名乗れば二つ名が出てきて、自己紹介もいらないくらい相手の方が自分達のことを良く知ってくれている。一部は事実ではない内容も含まれているが。
そして、私たちはエスティと共に今日もクエストを受け、冒険を続けている。今日のクエストは突然現れた巨大な野獣を倒して欲しいという内容だ。
「『ファイアーボール』!あっ、しまった、外した!そっちに行ったよリース!」
ターゲットの巨大な野獣は炎から逃れようとこちらに猛突進してくる。
「まったく何してるのよ!『ウィンドヴェール』!」
私も魔法を使い続けていることで魔法の効果時間が少しずつ延びてきた。魔力が鍛えられた証拠だろう。
私は素早い動きで野獣を切りつける。野獣は私の動きを追って捕まえようとするが、風の力を味方に付けた私の動きにはついて行けない。野獣は気がついた頃には体中が剣で傷だらけになっていた。
「とどめよ!『ボルガノン』!」
「ちょっとタンマ!まだ私がいるでしょうが!」
「だったら速く逃げてよ!」
間一髪、野獣から離れることで地表から吹き上がる火柱をかわす私。野獣はその火柱と共に炎に焼き尽くされ息絶えた。
「ったく、ちょっとは使うタイミングを考えなさいよ!」
「でも勝てたじゃない。結果オーライよ!」
お互い向き合って思っている言いたいことをこれでもかと言い合う。しかし、そのときのお互いの顔は笑っていた。信頼の証だ。
そういえばエスティの顔もずいぶんと変わったような気がする。一年前は「本当にこの子が冒険者?」と、疑ってしまうくらい頼りなかったが、今は立派な、一人前の冒険者の顔だ。まぁ、ここまで育てたのは私だが。
「それにしてもこの野獣、見たことない野獣ね。」
野獣の死体を見つめ、つぶやくエスティ。
「確かにそうね。この辺りでは見かけない野獣ね。というか、いろんな野獣の様々なパーツを組み合わせて、一体の野獣を作り上げたって感じがするわね。」
「・・・もしかして、また帝国が動き出そうとしているのかな?」
「・・・まさかね。」
「気のせいであって欲しいけどね。」
「・・・そうね。」
私たちの冒険はまだ終わらない。




