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巨人兵団の襲撃

 私たち3人が乗った馬車は特に問題なくレスドゥの町に戻ってきた。馬車はギルドの前で止まり、私たちはフードを取り馬車を降りる。そしてエスティは一番に元気よくギルドの扉を開ける。ギルドのドアに取り付けられたベルがカランコロンと音を鳴らす。

 「たっだいま~!」

 その後から私とラーディスがギルドに入る。そこにはギルドマスターと留守番をしていたブルグレイが待っていた。

 「おっ、その調子だとすべてうまくいったみたいだな。」

 「うん!もうばっちり!」

 「ほら、私の剣もこの通り。」

 そう言って、私は鞘に収められた剣を抜き取り二人に見せる。

 「おぉ、これは・・・。」

 「今まで見てきた剣とは全然違う・・・」

 今まで目にしたことの無い、珍しいものを見ているかのようなまなざしで私の剣を見つめる二人。ふふん、と自慢げに私は剣を元の鞘に戻した。

 「そういえば、こちらの男性は?」

 ブルグレイが私たちに尋ねる。おそらくラーディスのことを指しているのだろう。そういえばギルドマスターもブルグレイもラーディスと合うのは初めてだ。知らないのは当然だろう。

 とりあえず、エスティがグリスデルで起こった出来事を説明する。

 「・・・ということで、今後私たちと一緒に行動することになったラーディスよ。」

 「おぉ!こんなところで高名な錬金術士とお会いできるとは!しかもリースの剣も作ったと!今度是非私の武器も作って頂きたいものです!」

 ブルグレイはラーディスの手を握り、期待のまなざしでラーディスを見つめる。

 「はっはっは!お断りしますよ。」

 「・・・。」

 その一言に言葉を失い固まるブルグレイ。まぁ、彼の事情を知っている私にとっては仕方が無いのかもしれない。彼も好きで武器を作っているわけでは無い。私の剣は特別なのだ。

 そんなブルグレイを尻目にギルドマスターが話しを続ける。

 「帰ってきて早々で悪いんだが、お前達にやってもらいたい仕事があるんだ。」

 「また急ね。今度は何かしら?」

 「こないだのドラゴンの出現と、帝国との防衛戦で負傷者がたくさん出た。町の医者達が懸命な治療をしているが、なにぶんあれだけの大規模な戦闘でけが人も多くて、薬が足りないんだ。そこでお前達に薬草を採ってきてもらいたい。」

 「そっか、まだ元通りって訳にはいかないのね。」

 この間のドラゴンの襲撃と帝国との戦争。あれからかなり時間が経つが、まだ傷跡は深くレスドゥの町に残っていた。防壁はまだ一部が修復されていない状態で残っており、負傷者も全員が回復しているわけでは無い。

 「でもちょっと地味な仕事ね。もっと野獣退治とか、でかい仕事がしたいなぁ!」

 ちょっと不謹慎かなとも思うエスティの発言。

 「・・・もうドラゴン相手に戦うのは勘弁です・・・」

 それは同感。あんな化け物と戦うのはもうたくさんだ。

 ちょっと話が脱線しかけているので、軌道修正する。

 「地味でも、これも冒険者としての大事な仕事よ。で、どんな薬草を取ってくればいいの?」

 「取ってきて欲しい薬草のリストはこれだ。」

 そう言ってギルドマスターは一枚の紙を私に差し出した。その紙を私とエスティとブルグレイで確認する。そこには薬草の名前がびっしりと書かれてあった。しかし、薬草に詳しくない私にはまったく内容が頭に入らない。頭が痛くなりそうだ。

 「うーん、知らない名前のものがたくさんあるよう...。」

 「薬草なら任せてください。」

 そう言ってラーディスは薬草のリストが書かれた紙を手に取る。

 「そっか、錬金術士なら薬の材料にも詳しいはずよね!」

 錬金術士は材料のエキスパートだ。材料のことを熟知していなければ錬金術は宝の持ち腐れとなってしまう。もちろんそれは薬草に関しても同様だ。この場にラーディスがいてくれたことを素直に喜ばしく思う。

 「ふーん、ほとんどのものならこの近郊でも取れますが、このラグリー草だけは手に入りませんね。ここからだと...隣国のエリボスならば取れるでしょう。ほかの薬草もそこで揃いますから、そこで収集するのが一番効率的だと思いますよ。」

 「おぉ、さすがラーディス様。そのついでに私の武器も」

 「お断りします。」

 「・・・武器の材料はこちらで用意しますから。」

 その提案にラーディスは竜の鱗などの材料を提示してきた。どれも入手困難な、というか、そのようなものが実際にこの世に存在する様な物ばかりだ。これだけあればどんなすごい武器が出来上がるんだろうと、そのやりとりを聞いてクスクスと笑い出しそうになった。

 実際のところラーディスは武器は作りたくないのだ。

 竜の鱗など、以前レスドゥに現れたドラゴン戦でも苦戦していたというのに。

 それでもブルグレイの心は折れない。気を取り直して次の仕事へ向かおうとする。

 「と、とりあえず、エリボスまで行きましょう!たくさん取れると良いなぁ、はは・・・」




 私たちはレスドゥの町から馬車で10日。イリスティア王国の隣の国にあるエリボス王国へとやってきた。その間、ブルグレイは何度も自分の武器を作ってくれるようにお願いしてきたが、その度に断られた。

 一応、私がラーディスが武器を作らない理由を説明したが、ブルグレイにしてみればなぜ私にだけ武器を作ってくれるのかがどうしても納得が行かないようだ。まぁこれだけは私がラーディスの信頼を得ることで手に入れたもの。それだけ、この武器には相当の思い入れがある。今回のグリスデルの一件もそのためだ。

 さすがに5日目になるとブルグレイも諦めた。そうしてくれるとありがたい。でもかわいそうだから彼には腕のよい鍛冶屋を紹介してやろうか。(鍛冶屋の人脈は皆無に等しいが)

 エリボス王国王都に到着して一泊後、採取地を目指す。採取地はエリボス王都から半日程度南に進んだ丘の上だ。ここには木々や野草が生い茂っており、たくさんの材料が採取できそうなきがする。気がする、というのは私にはどれもただの雑草に見えないからだ。

 ここでラーディスの出番となる。

 ラーディスは手にしている薬草のリストを見ながら採取すべき薬草を指さしで指示する。そして、私たちはその薬草をナイフで切り取り集めていく。

 採取する量が量なので、採集作業は泊まりがけだ。全て集めるまでには3日ぐらいかかった。一旦王都まで戻る時間も無いので、野営をしながら材料を集めていく。

 「っとまぁ、こんなもんかしらね。」

 「えぇ、これくらいあれば十分でしょう。」

 「それにしても、ここは眺めの良いところね。」

 エスティは適当な所に座り遠くを眺める。

 「仕事じゃなかったらピクニックに来たかったね。」

 そのセリフがエスティらしい。確かにここは眺めも良いし日当たりも良好。涼しい風が髪をなびかせ、野獣の数も少ない。ピクニックに来て、みんなでランチを食べ、昼寝をする場所にはもってこいの場所だろう。密かにそういう生活に憧れていたという自分もある。エスティももしかしたらそんな気分なのかもしれない。

 「ほら、向こうに見えるのがエリボスの王城です。」

 ブルグレイが遠くを指さしてエスティに話しかける。

 「えー、どこどこ?小さくてわかんないよ。」

 「ほら、あちらの方向にありますよ。」

 私もブルグレイの指さす方向を見てみる。確かに小さいが、エリボスの王都が見える。

 「あっ、あった!ブルグレイは目が良いねー。」

 「そして、あちらにあるのがリスデンの砦です。ちょうど、ラングノート城との間に位置しまして、最近は帝国の侵攻に備えて守備を強化しているとか。」

 「やっぱり周りの国も帝国の侵攻を警戒しているのね。」

 「一部では周辺国が一致団結して帝国にあたるべきという話も上がっています。もしそれが実現したならば帝国に対抗できるだけの戦力になるのですが、それぞれの国の利権が絡んで一つになれないのだとか。」

 「政治的な話は分からないけど、結構難しい問題みたいね...」

 私もまだ王女の親衛隊時代に噂を聞いたことがある。そもそも各国の代表が集まることが少ないし、集まったとしても、各国の代表が自国の利益のみを主張し話がまとまらなかったという。帝国と戦争となった場合に、自国への被害を受けたくないのが各国の代表の本音だ。

 しかし、私はその結果が今の状態だと考えている。そうやっている間に帝国は次々と他国を侵略し領土を広げている。すでに時刻の利益など考えている余裕など無いと思っているのだが、冒険者となった今ではそれを知る術はない。

 そう考えていると、遠くに動く大きな人影のような物を発見した。場所はラングノート城とリスデンの砦の間。しかし、あの大きさは人間にしては大きすぎる。

 「ねぇ、あっちに人型の動く物があるんだけど、あれって何かしら?」

 私は指を指して方向を示し、みんなに状況を伝える。

 「あれは・・・ゴーレム?」

 すぐに返答したのはラーディスだった。さすがメガネを駆けているだけのことはある。遠くのものまではっきり見えるのだろう。

 「ゴーレムって、グリスデルで出てきたあの石人形のこと?」

 「そうです。しかし、この距離であの大きさですから、この前の物とはかなり大型ですね。数はおよそ30ぐらいでしょうか。しかも、リスデンの砦に向かっているようですね。」

 という事は考えられるのはただ一つ。

 「帝国の侵攻!?」

 「そう考えるのが自然でしょう。こうしてはいられません、すぐにエリボスへ向かいましょう!」

 「ちょっと!この薬草はどうするのよ!それに帝国に関わるのはエスティの本意じゃないわ!」

 「錬金術があのような形で使われるのは私の本意じゃない!みんなが行かなくても私一人で行く!」

 ラーディスは本気だ。本当に一人でも行く気だろう。ここはパーティーのリーダーであるエスティの判断に任せよう。

 「・・・どうする?エスティ。」

 「仲間を置いて行けるわけ無いじゃない!行きましょう、エリボスへ!」

 エスティの決断でエリボスへ向かうことに決まった。しかし、そうした場合、この薬草はどうするべきだろう?レスドゥには薬草の到着を待っている患者がたくさんいる。エリボスでゴーレムの対応をしている場合、レスドゥへ戻る時間が大幅に遅れる可能性がある。

 その話を切り出したのはブルグレイだった。

 「この薬草はどうします?」

 「ブルグレイよろしく~」

 「わ、私ですか?」

 「レスドゥには薬草を待っている人たちがたくさんいるのよ!つべこべ言わずに行ってらっしゃい!」

 エスティの鶴の一言で私たちの行動は決まった。まずはエリボスに戻り、ブルグレイは馬車ではなく騎馬で一足先にレスドゥに戻る。

 この場合は馬車よりも騎馬の方が移動は早い。幸い持っていく薬草類は多少重いもの騎馬に載せるには十分な量だったし、お金はブルグレイがたくさん貯蓄があったため全く問題は無かった。

 ブルグレイは最後までエスティ達と行動を共にしてゴーレム達と戦いたかったようだが、「ここで薬草を持って帰ればやっぱりブルグレイってすごいなー!えらいなー!ってみんなに感謝されるよ。」とエスティが必死におだてる事で何とか納得してくれた。


 ブルグレイと別れた後、私たちはエリボス王都の中央にある王城へと向かう。

 「ねぇ、どうして王城なの?今からならリスデンの砦向かって応戦することもできると思うけど?」

 エスティがラーディスに質問をぶつける。

 「それって、私の錬金術でゴーレムを倒せと言っています?」

 「だって、グリスデルのゴーレムだってそうだったじゃない。」

 グリスデルでラーディスを牢獄から救出したとき、あのときと同じようなことをリスデンの砦でもやったらどうだということを言っているのだろう。

 「私にだって限界があります。あんな数を私一人で相手できるわけがないでしょう。私の魔力にだって限界はありますし。正直言ってリスデンの砦は保たないでしょう。でも、ゴーレム達に対応できる対策はちゃんと考えてあります。まずはエリボスの国王に会いましょう。」

 「そう簡単に国王に会えるの?」

 今度は私はラーディスに質問をぶつける。

 「私を誰だと思っているのです?大陸一の錬金術士ですよ?」




 エリボスの王都は比較的落ち着いているようだった。行き交う人々を見てみると特に慌てている様子はない。何でも無い日常生活を送っているように見える。

 しかし、王城に近づくにつれて様子は変わっていった。

 兵士達が慌ただしく動く。城外から城内へ次々へと兵士が駆け込む。状況報告のためだろうか。とにかく緊迫している雰囲気は感じ取った。

 そして、私たちはエリボスの王城前にたどり着いた。

 「エリボス国王に合わせて頂きたいのですが。」

 ラーディスは門番の兵士に話しかける。

 「国王はただいま取り込み中でお会いすることはできません。」

 「錬金術師ラーディスが訪ねてきたとお伝えください。そして、ゴーレム部隊に対応する策も用意できているとも伝えてください。」

 「少々お待ちを。」

 そう伝えると門番の兵士は城内の中へ消えていった。

 「本当に大丈夫なの?」

 「大丈夫ですよ。エリボス国王が愚か者で無ければね。」

 「エスティ、こう見えてもこいつは意外と名の知れた凄い人なのよ。その点は安心していいと思うわ。」

 「へー。」

 こいつ・・・ラーディスは私にとってはただのセクハラ親父だが、一部の王族、貴族、騎士の中ではかなり有名だ。その名声はラングノート国内だけにとどまらず、周辺の国にも及んでいる。

 ゴーレムに対する策も用意してある。それがあればエリボス国王は会わずにはいられないだろう。

 思った通り、城内から兵士が戻ってきてこう告げてきた。

 「国王がお会いになるそうです。どうぞこちらへ。」




 私たちは兵士に案内され、王城の会議室らしき場所へと案内された。

 その部屋の中央には円形の大きなテーブルが備え付けられ、その周りには大臣、将軍などと思われる、少々年増のように見える10人程度の人物が座ってこちらを見ている。そして、私たちが入ってきた入り口と正反対側に座っている人物が立ち上がり話しかけてきた。

 「このようなタイミング、お力を貸して頂けるとは、感謝いたしますぞ。」

 おそらくこの人がエリボス国王だろう。

 「しかし、ラーディス殿は帝国領グリスデルにお住まいのご様子。まさか、我々を罠にはめるために来たのではありませんかな?」

 将軍と思われる重装の鎧を身につけた初老の男が話しかける。その会話を言い終わる途端。

 「ちょっと!」

 エスティが言いかけるところで私はエスティの口を塞ぐ。そして小声でささやく。

 「エスティ、気持ちは分かるけど、ここはラーディスに任せよう。」

 そして静かにラーディスは話を続ける。

 「私の今の身分は一人の冒険者。帝国とは全くの無関係です。それでももし私が帝国の差し金と主張するならば、この場で処刑しても構いません。・・・何の解決にもなりませんがね。」

 その後しばらくの沈黙。この言葉に反論できる物はいないようだ。さすがラーディス。

 国王を目の前にラーディスは話を続ける。

 「帝国のゴーレム部隊はまもなくリスデンの砦にて交戦状態に入るでしょう。しかし、今の戦力では敗北は確実です。しかし、私の策があればゴーレム部隊を撃退する事が可能でしょう。」

 「うむ、では早速ゴーレム部隊への対策案をお聞かせ願えますか?」

 「この国にはミスリルが豊富にあると聞きます。そこのミスリルでゴーレムを作って帝国のゴーレム部隊にぶつければ侵攻を防ぐことができます。帝国のゴーレムと言っても所詮は土人形か石人形。1体作れば十分でしょう。」

 ざわめく室内。もはや誰が何を言っているのかは分からない。

 そんな事はお構いなしにエスティは私に話しかける。

 「そうか!ゴーレム自体が錬金術で作られたものだから、ラーディスぐらいの錬金術士だったらミスリルでゴーレムを作る事なんて簡単よね!でもこの国にそんな鉱山があったなんて知らなかったなぁ。」

 「そう?私たちにとっては一般常識なんだけど?」

 「・・・悪かったわね。世間知らずで。」

 しかし、この室内のざわめきは何だろう?すんなり話が通りそうな気がしない。ざわめきが収まったと思ったらエリボス国王が口を開く。

 「ミスリル鉱山は今は使われておらん。鉱山にアースワームが住み着いてしまってな、今は誰も入れないようにしているのだ。」

 アースワーム。

 主に岩などに存在する昆虫や生物をエサとして生きている、は虫類系の虫ではあるが、捕食のために岩ごと口に入れ、不要物を排出する。大きさは大小あるが、大体10センチの小さい物から1メートルを超える大きさのものもいる。主に鉱山や洞窟などに生息し、多少の数ならば何でも無いものだが、数が多くなると鉱山の中は穴だらけとなり構造がもろくなることもある。鉱山関係で働く人間にとっては迷惑この上ない害虫だ。そのため、アースワーム退治の依頼がギルドに入ってくることもしばしばだ。

 「では、ミスリルのストックは残ってないのですか?」

 ミスリルを生産していた国家だ。多少の加工前のミスリルが残っているとも思えるが・・・。

 「うむ、もうほとんど残っておらん。全て前線基地の装備に加工してしまった。」

 「ふむ、アースワームさえなんとかすればミスリルは手に入るのですね。では、私たちがミスリル鉱山に向かいましょう。しかし、その場合はリスデンの砦は確実に落ちますでしょうね。」

 再びざわめく室内。リスデンの砦が落ちる。それが彼らにとって許されない事態だ。なぜならばそれが帝国との最終防衛ラインとも言える重要な要所だからだ。ここが落ちれば王都まで敵の侵攻を防ぐ物は何も無い。

 しかし、ラーディスは話を続ける。

 「しかし、リスデンの砦で時間を稼いでて頂ければエリボス王都の防衛は可能だと思います。それまでにミスリルゴーレムを用意し王都の防衛に当たらせればよいのですから。さぁ、時間がありません。ご決断を。」

 相変わらずざわめいている室内。しかし、それを遮るようにエリボス国王が話し始める。

 「わかった。ここはラーディス殿の提案に乗ろう。しかし鉱山のアースワームはかなり数が多いぞ。大丈夫か?」

 「大丈夫です。我々がいれば問題ありません。私が保証します。」

 「わかった。ラーディス殿、頼みましたぞ。」

 「分かりました。エスティ、リース、すぐに鉱山へ向かいましょう。あとは時間との闘いです。」

 そう言って、私たちは会議室を出る。会議室の中ではまだ議論が続いているようだ。声が扉越しにも聞こえてくる。

 「ふぅ、エリボス国王が賢明な判断を下してくださってよかったです。あのまま周りの意見に流されていたらどうなっていた事やら。」

 ラーディスにはあのざわめきの中、誰が何を言っていたのか理解していたのだろうか?そう考えるとラーディスはやっぱり見かけによらずすごいと思う。

 「それにしても失礼な人が多いわね!ラーディスを敵使いするなんて!」

 「まぁ、私もあのような会議には何度か同席したことはあるけど・・・あまり良い思い出はないわね。」

 結局はああいう会議は自分達の主張を言い合う場である。そして、それらの意見に周りの人間が反論し合い、それが延々と繰り返される、そうした流れを聞いた上でリーダー、この場合は国王が決定を下す、というのが大抵の場合である。

 ラングノード王国でも同じような会議は行っていた。私も出席したことはあるが、正直言って私は出席したくはなかった。ちなみにエスティはサボっていたので余り出席していない。




 私たちは騎馬を借りて(ラーディスは一人乗り、エスティは私と二人乗りだ。エスティは一人では騎馬に乗れない。)エリボス国内のミスリル鉱山へとやってきた。ここまではおよそ2~3時間といったところだろうか。意外と近い。

 鉱山の入り口は意外とがっしり作られている。それも当然だ。国策でミスリルの発掘が行われていたのだから。途中で鉱山が崩壊など起こしたら大損害になるだろう。

 入り口の前に立った限りではアースワームがいるような、生き物がいる気配は全くしない。しかし、鉱山の中は真っ暗だ。しばらく使われていないため、途中に設置された照明用のオイルは全て枯渇してしまっているだろう。

 「...真っ暗だね。」

 「そうね、これでは敵に襲われても戦えないわ。」

 たいまつを使っても良いが、たいまつを持ちなながらでは十分な戦果は上げられない。そんな心配をしていると、ラーディスはエスティに話しかけた。

 「そうだ、エスティ。あなたに便利な魔法を教えてあげましょう。」

 「え?なになに?」

 「よく見ていてください。『トーチ』!」

 ラーディスはそう叫ぶと、ラーディスの持っている杖の先端から強い光が発せられた。 「うわ!杖の先から光が!」

 「しかも、これくらいの明かりなら十分だわ。敵がどこから襲ってきても戦える!」

 「ねぇ、ラーディス!もっといろんな魔法使えるんでしょ?」

 「んー、まあ、そうですが。」

 「私にもっと強力な魔法を教えてよ!」

 「いきなり強力な魔法は無理ですが、修行すれば使えるようになりますよ。いいでしょう。できる限りの魔法を教えて差し上げますよ」

 「やったぁ!」

 エスティは冒険者として確実に成長しようとしている。私も負けられない。


 鉱山の内部は意外と広い。大人数が往来できるために作られていたのだろう。幅も5、6人は余裕にすれ違える程度で、高さも十分にある。ジャンプしても天井に頭をぶつけることは無いだろう。これさならば、十分に剣を振り回すこともできる。

 私たちはラーディスの杖から発せさせる光を頼りにミスリル鉱山の中を進む。中は崩壊防止のための補強が成されているように見える。しかし、長年放置されてきたのか、所々補強がボロボロになっている箇所も見受けられる。風化だろうか。虫食いだろうか。どちらにしても長居はしない方が良いだろう。

 鉱山をさらに進んでいると、鉱山の壁の奥から何か音が聞こえてくる。その音は次第に大きくなってっくる。

 「来る!」

 「気をつけてください!」

 「え、どこ!?」

 背後の壁を大きな音を立てて突き破って現れたのは巨大なアースワームだ。

 「後ろっ!」

 私はその大きさに一瞬怯んだ。私が想像していたアースワームとは大きさが違いすぎる。

 しかし、私は持ち前の反射神経ですぐさまに剣を抜きアースワームに剣を振るう。アースワームは体液をまき散らしその場に倒れ、次第に動かなくなった。

 私の頭の中ではちょっと大きな芋虫程度のものを想像していたのだが、実際に背後に現れたアースワームは全長5メートルはあり、その口は人間ぐらいなら丸呑みにできるくらいの大きさだ。

 「なんて大きさなの!?」

 これは想像以上に厳しいかもしれない。しかし、そんな余裕は私たちに与えてはくれない。また別の方向から、壁の中からこちらに迫ってくる音が聞こえてくる。

 「気をつけて!まだ来るわ!」

 大きな音を立てて壁を突き破ってまた巨大なアースワームが現れる。今度はラーディスの背後だ。

 「ふん!」

 ラーディスもその音に素早く反応し、手に持っている杖を手にかけている部分から引き抜く。ラーディスの杖は仕込み杖になっていて、そこには鋭い刃物が用意されている。おそらく護身用だと思われるが、錬金術士のラーディスのことだ。通常の武器とはまた違う素材で作られているのだろう。

 ラーディスはアースワームを素早い動きで2,3回切りつける。本当に錬金術士なのかと疑ってしまうくらいの素早い動きだ。そして、ラーディスの背後に現れたアースワームも体液をまき散らしながら次第に動かなくなっていき絶命した。

 「二人ともすごい!あんなでかいの一瞬で倒しちゃうなんて!」

 「エスティ!後ろ!」

 「え?」

 今度はエスティの背後にアースワームが出現した。エスティは突然の出来事に体が反応できなく、いや、反応できても対抗できる術は持っていない。エスティはそのままアースワームに飲み込まれようとしている。

 「きゃああ!」

 「まずい、エスティを助けないと!」

 私はすぐさまエスティを飲み込もうとするアースワームに接近し、アースワームの体に、手に持っていた剣を突き刺す。体液を吹き出し痛みで暴れ出すアースワーム。その隙にエスティの体をアースワームの口の中から引きずり出す。そしてその間にラーディスがアースワームにとどめを刺す。私は安全を確認したところで自分の剣をアースワームから引き抜いた。

 「た、助かったぁ。あーん、体中がベトベトする~。」

 「そんな悠長なこと言ってられないわよ。」

 「そうですね。想像以上にアースワームの数が多すぎます。」

 ラーディスの言うとおり、ここまで倒したアースワーム三体以外にもこちらに接近するアースワームと思われる生物の近づく音があちらこちらから聞こえる。

 鉱山の奥の方を見てみると、さらに複数のアースワーム、目視できる範囲で5、6体ほどこちらに向かってくるところが確認できる。

 「こうなったらエスティ、例のアレ、早速やってみましょう。」

 「うん!『エンチャントウェポン』!」

 エスティが杖をかざし、私の剣に向かって叫ぶ。わずかだが私の剣が光を帯びる。持つ剣が軽い。

 そして私は剣を構え直し、アースワームの集団に体を向き直す。そして一言。 

 「よし、このまま奥まで突撃するわよ!」

 そう叫んで私はアースワームの集団の中へ突撃した。

 立ちふさがるアースワームを次々と切り刻み、鉱山の奥へと進んでいく。私の進んだ後には絶命し動かなくなったアースワームの死骸が残る。

 明らかに剣の威力が違う。それは剣の軽さだけでは無い。切れ味も段違いだ。まるで鋭利な刃物で薄い紙を切り裂くような感覚だ。これが精霊銀の持つ特殊な力なのか。この剣があれば私は無敵かもしれない。そんな気がしてきた。

 「さすがラーディスね。今までとは全然切れ味が違う!」

 「さぁ、我々もリースに続きましょう。」

 「うん!」

 そう叫び私の後に続こうとするエスティとラーディス。その直後、横の壁を突き破って新たなアースワームが出現した。一体だけでは無い。体は小さいが4体のアースワームだ。

 「くっ、また横から!?」

 「ラーディス!」

 「『ボルカノン』!」

 ラーディスが杖をかざし叫ぶ。その瞬間、アースワームの足下から大きな火柱が立ち上がり4体のアースワームは炎に包まれる。炎に焼かれ絶命するアースワームの叫び声が聞こえる。

 「す、すごい火力!」

 「ふぅ、最後に大仕事が残っているので、あまり魔力は使いたくなかったのですがね。」

 ラーディスには最後に「ミスリルゴーレムを製造する」という大仕事が残っている。これができなければここに来た意味が無い。人間の持つ魔力も無限では無い。ラーディスの魔力は最後のために温存させなければならないのだ。

 ラーディスの魔法で消し炭になったことを確認し、改めて私の後を追いかけるラーディスとエスティ。

 「さて、そろそろ一番奥にたどり着くと思うのですが。」

 二人が私に追いついた。そこは今までの鉱山の通路とは違い、巨大な空間ができあがっている。ここでミスリルの発掘を行っていたように見える。私はそこで見た光景に思わず立ちすくんでしまった。

 「な、なんなのよこれ...」

 「どうしたの、リース。」

 追いついたエスティが私の前に身を乗り出す。そして目の前に広がる光景に思わず絶叫する。

 「って、なに、何なのよこいつ!」

 そこには今まで戦ってきたアースワームの10倍ぐらいの大きさのアースワームがいた。そのアースワームはこちらをにらんでいる。

 「でかすぎる!他のアースワームの10倍ぐらい大きいよぉ!」

 「おそらくここはアースワームの巣になっていたようですね。そして、こいつはアースワーム達のマザーっていったところですか。」

 そして、その周りには数え切れない無数のアースワームがこちらを向いていた。

 「くっ、ザコがこっちに集まり始めたわ。」

 「私はここで魔力を消費する訳にはいきません。ザコは私たちが引き受けますから、エスティは魔法でマザーを焼き尽くしてください!」

 「りょ、了解!」

 私とラーディスは近づいてきた雑魚のアースワームを次々と切り刻む。一方エスティはマザーに向かって杖をかざし叫ぶ。

 「いくわよ!『ファイアーボール』!」

 エスティの目の前に現れた巨大な炎の塊がマザーに向かって飛んでいき、マザーを焼き尽くそうとする。しかし、いくら巨大な火の玉といえどもマザーを包み込ませることができる大きさでは無い。マザーの体は少し焦げたものの、その姿はいまだ健在だ。

 「だめ!この魔法じゃ火力が足りない!」

 「火力が足りなくても連続してぶつければ!」

 雑魚を仕込み杖で切り刻みながらラーディスが叫ぶ。

 「それじゃ、みんなのほうが持たないよ!こうなったら、見よう見まねだけど!『ボルカノン』!」

 エスティは杖を目の前にかざし叫ぶ。マザーの足下から火柱があがり、マザーを焼き尽くそうとする。しかし、その大きさはラーディスと比較にならないくらい小さい。むしろ、さっきのファイヤーボールの方が効果的にダメージを与えているようにも見える。

 「無理です!そんな簡単に使える魔法では!」

 「まだよ!もう一回!『ボルカノン』!」

 それでもエスティはあきらめず、再び杖をかざし叫ぶ。

 二回、三回、四回、五回。

 次第に火力は上がっているように見える。だが、ラーディスの放った魔法に比べるとまだ火力は十分ではない。当然マザーもまだ健在だ。

 「確実に火力は上がっている!あともうちょっと!」

 六回、七回、八回。エスティはあきらめずに叫び続ける。

 その火力はラーディスの魔法に匹敵するものに近くなってきた。マザーも苦痛の鳴き声を叫び始める。魔法が効き始めているようだ。

 だが。

 「こっちは限界よ!もう雑魚を押さえきれない!」

 「こっちも限界です!」

 すでに帰り道は数多くのアースワームによって塞がれた。

 ラーディスの顔にも疲労の色が見える。私も剣を握る手に力が入らない。呼吸が荒くなり動きも鈍くなってきている。これ以上はもう持たない。

 「次で決める!『ボルガノン』!」

 エスティが叫ぶ。マザーの足下から巨大な火柱が上がる。その火柱はこの巨大な空間の天井に届くくらいの巨大な火柱だ。そして、マザーが苦痛の鳴き声をあげる。今までの聞いたことの無い絶叫だ。

 「で、できた!効いてる!このまま連続してぶつけるよ!『ボルガノン』!」

 さらにエスティは叫び続ける。その魔法が生み出す巨大な火柱はマザーだけで無く周りのアースワームをも燃やし尽くしていた。すでにラーディスが放つ魔法よりも威力を超えているかもしれない。

 「もう一息です!」

 「よしもういっちょ!『ボルガノン』!」

 エスティが放った巨大な火柱はマザーを焼き尽くし、マザーは悲鳴に似た鳴き声を上げ、大きな音を立ててその場に倒れた。周りのアースワームはマザーがやられたのを悟ったのか、周りから逃げるように去って行った。

 「やった!倒したよ!」

 「はぁ、はぁ・・・あ、危なかった・・・」

 「・・・しかし、見よう見まねで魔法をマスターしてしまうなんて。信じられません。」

 ラーディスが驚きのまなざしでエスティを見つめる。聞いた話では、本来ならば、魔法の習得には時間をかけて、何度も修練を重ねて習得するものらしい。しかし、今のエスティは、ついさっき見た魔法を見よう見まねで、しかも短時間で習得したのだ。魔法に疎い私にはよくわからないが。

 「ふっふっふ。私って天才かも?」

 「こら、調子に乗るんじゃないわよ。」

 と、私はエスティの頭をこづく。

 「いや、それ以上に、これだけの魔法を使ったら普通は息切れするものなのですが、そんな様子もない。これはかなり魔法の才能はあるのではないでしょうか?フフフ、将来が楽しみです。」

 「ラーディス、そんなこといったら調子に乗るから・・・」

 「うふふ~私って天才~♪」

 すでに手遅れだった・・・。

 「それよりラーディス、ゴーレムを。」

 「あぁ、そうでした。さて、ミスリルはどこですかね。」

 広間をよく見ると、さらに奥に続く通路を見つけた。広間に入ってきたときにはマザーの陰となって見えなかった場所だ。私とラーディスはその通路の方へ行ってみる。

 「うふふ~私って天才~♪」

 「こら、置いていくわよ!まったく・・・」




 「ありました。これですね。」

 広間から進んだ通路の先に、明らかに他の箇所とは色が違う場所を見つけた。それを見たラーディスはすぐにそれがミスリルであることを確認した。さすが錬金術師。材料に関しては詳しい。

 「これだけの量があれば十分強力なゴーレムを作れますよ。」

 そう言ってラーディスはミスリルに手を当て力を込める。手のひらから光が放たれ、その光が消えたと同時に、何かが崩れるような大きな音が聞こえた。

 一瞬この鉱山が崩れるのかとも思ったがそうでは無いらしい。音はミスリルの方からのみ聞こえる。そして、ミスリルの壁が崩れ、そこには大きな、高さは私たちとあまり変わらない一体のミスリルでできた人形があった。

 「ふう、できました。」

 「思ったより大きくないね。」

 「大きすぎたら、この鉱山から出られないでしょう?」

 まぁ、確かにラーディスの言うとおりである。この鉱山からこのゴーレムが出られないというならば、元も子もない。

 「でも、この大きさでも敵のゴーレムには十分対抗できますよ。さぁ、時間がありません。早くエリボスへ戻りましょう。」




 私たちはミスリルゴーレムを一緒にエリボスの王都へと戻ってきた。

 「な、なんですか、これは!?」

 「やっほー♪」

 王都の入り口に立っている門番の兵士が私たち、というか、ミスリルでできた人形を見て驚く。まぁ、驚くのも無理は無いと思う。私たちはミスリルゴーレムの頭と肩に乗って、鉱山から王都まで移動してきたのだ。

 「実際乗ってみると意外と楽ちんね。乗り心地は最悪だけど。」

 「贅沢言わないでください。さ、ここで降りてください。これから重要な仕事が待ってますから。」

 そう、これからが本番だ。帝国のゴーレムとの戦いが待っている。まぁ、私はゴーレムに乗って移動してきたので十分に休息できた。エスティやラーディスも同様だろう。万が一の時には私たちも戦うことができる。

 そして、私たちがそのために最初にやるべきこと。

 「いま敵のゴーレム部隊の状況はどうなってます?」

 「リスデンの砦はすでに突破されました。敵部隊はまもなく目前にやってくるでしょう。」

 「そうですか。ぎりぎり間に合いましたね。」

 「ところで、ゴーレムの数はどうなっているの?」

 「すべて健在とのことです。」

 まぁ、それは予想通りというべきだろう。並大抵の武器では立ち向かえる相手ではない。

 「こちらの被害は?」

 「負傷者が何人かいますが、死者はいない模様です。」

 その言葉を聞いて私たちはホッとした。ゴーレム相手に死者が出なかったのはさすがだ。指揮官が非常に優秀だったのだろう。これは素直に喜ぶべきことである。

 私たちは配置につく。私たちは見通しの良い城壁の上。主に敵が攻め込んできたときに弓兵達が配置される場所だ。ここならば、線上全体を見渡すことができるし、現場の人間にもラーディスの指示が聞こえる。万が一の時は私がここから城壁を飛び降り戦いに参加する。

 他にも1000人以上の兵士が城壁の裏で待機している。これが今行動できるエリボス王国内の全兵力なのだろう。

 さらに城壁の裏側には6機の大型の投石機が用意されている。これはシーソーのような構造になっており、片方にはかなり巨大な重しが設置されており、その反対側、もう片方にはカゴが設置されている。当然重い方が下になるのでそうならないようにカゴ側にはロープで固定されている。実際に使うときには、投石に使う石をカゴの上に設置し、ロープを切断する。そうするとテコの原理で重しの方が下、カゴの方が上の方に移動するので、その勢いでカゴの上の石が飛んでいくという仕組みだ。

 ゴーレムに対抗できるのはこれくらいの強力な破壊力を持つ兵器くらいだろう。しかし、その名中度はかなり低い。しかも相手が30体程度のゴーレムとならば、投石を当てるのは至難の業であろう。この機械があるのは気休め程度でしかならない。

 そして、今回の作戦の切り札ミスリルゴーレム1体。全てはこの一体にかかっている。

 やがて見張りの兵士の視界に敵ゴーレムの姿が確認される。ラーディスもその報告を受ける。私たちの視界にもゴーレムの姿が確認できた。その後ろには帝国軍の兵士が待機している。およそ500人ぐらいだろうか。一国を攻略するには兵士の数は少ない。それだけゴーレムの戦力に期待していると言うことだろう。だが、逆に考えれば、ゴーレム部隊さえ撃退できれば我々の勝利と言うことだ。

 「そろそろ敵が来たようですね。ミスリルゴーレムを出撃させましょう。」

 城門が開き、ミスリルゴーレムが動きだし城壁の外に出る。

 「大丈夫かしら。」

 「ラーディスだから大丈夫よ。こういうときだけは頼りになるんだから。」

 やがて敵ゴーレムは城門前まで迫ってくる。

 城門裏からは投石機による攻撃を開始する。しかし、案の定その攻撃は敵ゴーレムには全く当たらない。

 そしてミスリルゴーレムとの交戦状態に入った。

 「敵は所詮岩でできたアースゴーレム。」

 ミスリルゴーレムは大きな音と共に敵ゴーレムの強烈なパンチを受ける。しかし、ミスリルゴーレムはびくともしない。逆に敵ゴーレムの腕がボロボロと崩れ落ちる。

 「敵の攻撃は一切受け付けず。」

 当然と言えば当然だ。相手は岩。こちらはミスリル。強度が全然違う。

 そして、こちらのミスリルゴーレムの反撃。ミスリルゴーレムのパンチが敵ゴーレムにヒットする。大きな音と共に敵のゴーレムは粉々に崩れ去った。

 「こちらの攻撃は一撃で敵を粉砕する。ふふふ。完璧です。」

 そのままミスリルゴーレムは近くにいる敵ゴーレムを次々と粉砕していく。

 その直後だった。

 「ラーディス!敵の動きがおかしいよ!」

 そう叫んだのはエスティだった。敵ゴーレムはミスリルゴーレムに敵わないと思ったのだろうか。ミスリルゴーレムを避けるようにエリボス城壁へ向かうように行動を変えた。

 ミスリルゴーレムを避けてきた敵ゴーレムはエリボス王都の城壁にとりつき、城壁の破壊を始めようとしていた。エリボスの兵士達も城壁の上に昇りその行動を阻止しようと奮闘する。

 無視された形になったミスリルゴーレムはその背後から敵ゴーレムの破壊を試みる。しかし、このままでは全ての敵ゴーレムを破壊する前に城壁がやられてしまう可能性が高い。この状況を打開するには・・・。

 「まずいですね。」

 ラーディスはそうつぶやく。しかし、このような場合も想定済みだったのだろう。ラーディスからすぐさま私に向かって叫ぶ。

 「リース、あなたの手番です!あなたの剣ならばアースゴーレムなど簡単に切れるはずです!」

 「了解!エスティ!」

 「うん!『エンチャントウェポン』!」

 エスティの魔法で私の剣はわずかな光を纏う。

 「いくわよ、それっ!」

 そして、剣を構え、城壁の上から敵ゴーレムの真上へと飛び降りる。そのままの勢いで敵ゴーレムの右腕を切り落とし地面に着地する。

 切れ味は抜群だ。アースワームの時と比べても多少手応えはあるけれども、それでも紙が木に変わった程度のものだ。これらならばゴーレムに十分対抗できる。

 敵ゴーレムはミスリルゴーレムより少々大きいサイズだった。近くで見るとかなり大きい。

 「リース!危ない!後ろ!」

 エスティの声が聞こえる。それと同時に、私の着地した位置の少し後ろで大きな音がする。切断された敵ゴーレムの右腕が地面に落ちた音だ。右腕だけでも私の身長ぐらいはある大きさだ。直撃したらひとたまりもなかっただろう。私は運がよかった。

 しかし、敵ゴーレムは残った左腕で城壁の破壊をつづける。一体どうすれば・・・。

 「リース!足よ!足を切り落とすの!」

 エスティの声が聞こえる。

 「えっ?わかった!」

 私はエスティの言うとおりに敵ゴーレムの足を切断する。足を切断されたゴーレムはそのままバランスを崩し、地面に倒れ、そのまま動かなくなってしまった。

 人間は一本足で立ち続ける事は非常に難しい。二本足で立つことで体のバランスを保つことができるのだ。同じ事がゴーレムにも言える。一方の足を切断されたゴーレムはバランスを保つことができず行動不能となるのだ。

 「なるほど!エスティにしては頭が良いじゃない!」

 そのままゴーレムがいる戦場を駆け続け、足を切断していく。

 「下敷きにならないようにね!」

 「そんなヘマしないわよ!・・・ってうわぁ!」

 私の目の前に、バランスを崩した、片足を失ったゴーレムが倒れてきた。

 「ほら言わんこっちゃない!気をつけてよ!」

 「チッ、遠くからみているだけのくせに...」




 ミスリルゴーレムのと私の活躍で敵のゴーレムは次々と撃破されていく。そして最後の一体となったゴーレムをミスリルゴーレムが強烈なパンチを浴びせ崩壊させていく。

 そして、見張りの兵士からラーディスの元に報告が入る。

 「ラーディス様!敵が撤退を開始しました。我々の勝利です!」

 「ゴーレム部隊が全滅したのです。さすがにこれ以上は無理だと判断したのでしょう。」

 「やったね!ラーディス!」

 「こら、あんたは見てるだけでなにもやってないでしょう!」

 私は倒れたゴーレムが転がっている中、そのうちの一つに腰をかけてエスティに文句を言う。それでも勝利は勝利だ。私はこの勝利の余韻に浸っていた。

 「ところで、何か忘れているような気がするんだけど・・・」

 「・・・ブルグレイ!」

 思い出したように私は叫び出す。

 「あーっ!」

 「そうですね。我々もそろそろ本来の仕事に戻りましょうか。敵の脅威は去ったのですからね。」

 ラーディスの元にエリボスの将軍と思われる人物は近づき話しかける。

 「今回は王都防衛に力を貸して頂きましてありがとうございます。国王からも感謝を伝えるように伺っております。ところで、我々はこのままリスデンの砦奪還に向かうつもりです。できればラーディス様のお力をお借りしたかったのですが。」

 「でしたらこのミスリルゴーレムをお使いください。」

 「このゴーレムを見ただけで敵は逃げ出しそうね。」

 私はミスリルゴーレムを見上げてつぶやく。

 「それだけではありません。このゴーレムがいれば帝国はエリボスに攻め入ることはできなくなるでしょう。」

 「ところでさ、このゴーレムって寿命ってあるの?」

 エスティがラーディスに訪ねる。帝国が二度とエリボス侵攻を行わないかどうかを心配しているのだと思う。ゴーレムに寿命があり、それが終わった途端に再び侵攻されたとならば再びラーディスの力が必要になるかもしれない。

 「それはほぼ永久っていったところでしょうか。術者が命を落とすまで、ですね。」

 「へぇ、それじゃあ迂闊にとどめを刺すことができなくなるのね。」

 私はラーディスをにらんで冗談交じりにつぶやく。

 「リース、その発言はちょっと怖いですよ。こ、こっちを見ないでください」

 「だったら、セクハラを止める事ね。フフフ」

 そう言って私は一人不気味に笑い出した・・・。

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