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レスドゥ防衛戦

 私たちが仮眠から起きてギルドのロビーへ降りてくると、ギルドマスターともう一人、見知らぬ男がカウンターに立っていた。

 「お久しぶりです。イークレイン将軍。」

 「久しぶりだな。ブルグレイ。」

 イークレイン将軍と呼ばれた男はブルグレイとは知り合いのようだ。将軍ということはこのイリスティア王国の軍人だろうか?とりあえず敵ではなさそうだ。

 「自己紹介が遅れました。私はイリスティア王国所属のイークレインと申します。今日はレスドゥを危機から救って頂いた英雄にお願いがあってこちらに参りました。単刀直入に申し上げます。ガストール帝国に対抗するために我々は傭兵を集めております。皆様方にも傭兵として戦いに参加して頂きたい。」

 「えっ?傭兵?」

 エスティが聞き直す。

 「その通りです。ガストール帝国がこのレスドゥ攻略のため兵を動かしているという情報を耳にしました。しかし、いまのレスドゥはこの有様です。我々イリスティア王国の正規軍も昨日の騒動でかなりの負傷者が出てしまいました。このままではガストール軍に敗北するのは必至です。そこで、我々はそれに対抗するために冒険者を傭兵として雇って戦力として補おうと考えています。是非、あなた方レスドゥの英雄にも参加して頂ければ我々としても非常に頼もしい限りなのですが。」

 「ちょっとまって!相手は軍でしょ!?私たち3人が入ったところで戦局が変わるわけがないでしょ!」

 当然だ。今回は「冒険」ではなく「戦争」だ。大規模な人数が交わる大規模な戦闘が繰り広げられる。英雄と言われた私たち3人が加わったところで戦局がひっくりかえる訳では無い。

 それだけではない。私はエスティを守るという使命も帯びている。この戦いの中でエスティを守りきれるかどうかが不安で仕方がない。どちらかと言えば、この戦争に参加するのは反対だ。

 「だがな、軍も、市民もあんた達に期待しているのは確かだ。」

 「ちょっと・・・考えさせて・・・。」

 エスティは間を置いてそう答えた。

 「して、帝国は今どのような状況で?」

 「すでに軍隊をこちらに向けて移動している。レスドゥに到着までは1週間程度と言ったところだ。」

 一週間。ガストール帝国が攻めてくるにしては準備が早すぎる。もしかしたら、帝国軍は今回のドラゴンの騒動も予測していたのではないかと疑ってしまう。いや、もし、今回の騒動が、帝国がレスドゥ攻略のために仕組んだ事だとしたら。

 どちらにしても猶予は1週間しかない。レスドゥに残って戦争に参加するか、それともレスドゥの町から避難するか。私たちは二階の自室に戻り、三人で話し合うことにした。

 「私は絶対反対よ!いい?戦争よ!今までの冒険者のクエストとは全然違うのよ!エスティをこんな危険なことに関わらせるのは反対だわ!」

 私は声を荒らげてエスティに話す。

 「エスティは身分に縛られるのが嫌で、帝国と関わるのが嫌で冒険者に道を選んだ訳じゃ無いの!?」

 「確かにその通りなんだけど・・・。みんな私たちに期待をしている・・・。」

 エスティはまだ判断に迷っているようだ。

 「そんなこと気にする必要は無いわ。たかがあんな事ぐらいで、火竜事件を解決させたくらいで英雄扱いだなんて!」

 「ブルグレイはどう思う?」

 「こういう考え方もできます。ここで帝国を叩いて戦力を削いでおけば、帝国はしばらく何も行動はできなくなるでしょう。私は今後のためにも参加し戦うべきだと思います。」

 「ブルグレイ、あなたって人は・・・!」

 完全に意見が分かれてしまった。お互いににらみ合う私とブルグレイ。

 「止めてよ!」

 エスティの声に我に返る私とブルグレイ。

 「決めるのは私よ!まだ・・・時間があるわ・・・もうちょっと・・・考えさせて・・・。」

 今更という訳でもないが、今の私たちのパーティーのリーダーはエスティだ。多少意見を言ったり、かなりの頻度で行動に反発したりもするが、最終的にはエスティの判断に従い、私たちはそれについて行動する。そして、私はエスティの身を守るために戦う。これは私たちが冒険者になるために決めた事だ。ここで私たちがいがみ合っていても仕方がない。ここはエスティに任せることにしよう。

 とは言っていても何もしない訳にはいかない。エスティが決断するまでレスドゥ防衛のための準備のお手伝い精を出した。具体的にはドラゴンに破壊された防壁の修理だ。破壊された規模からするととても1週間では完全に修復できる規模ではない。しかし、少しでも修復し、万全の準備をしなければレスドゥの町は守れない。幸いイリスティア正規軍の他にも、レスドゥの町にいる、ドラゴンの襲撃を受けても無事だった冒険者達も手伝って修復のペースは思いの外速かった。とは言っても完全に修復できる見込みは全くないが。

 そうやって時間を過ごして二日後。

 ブルグレイは朝からどこかに出かけているようだ。その姿はない。エスティはというとギルド入り口近くのテーブルに一人座り考え事をしている。まだ結論が出ていないのだろうか。そういえば昨日も一日中そうしていたような気もする。

 私はそんなエスティに話しかける。

 「エスティ・・・まだ悩んでいるようだけど・・・」

 「うん・・・。」

 「私はあなたがどんな選択をしても、私はあなたに付いていく。どんなときもあなたを守るから。」

 「リース・・・。」

 「でも今のエスティはまだ冒険者としての経験が浅い。無理をする必要は無いのよ。まずは自分の身を守ることを考えなさい。死んでしまっては意味がないのよ。」

 「うん。ありがとう。」

 エスティはまっすぐ私の目を見つめる。もう決心は付いたようだ。

 しかし、そこに二人の男がドアのベルをカランコロンと音を鳴らしてギルドに入ってきた。ブルグレイとイークレイン将軍だ。

 「エスティ様。お話がございます。」

 イークレイン将軍がエスティに話しかける。しかし、こないだ合ったときと口調が違うような気がするが?

 イークレイン将軍は話を続ける。

 「今回の帝国との戦い、是非、我が軍の力になって頂きたいと、必勝の策を用意して参りました。」

 「必勝の策?」

 「そうです。これはリース殿、ブルグレイの武力とエスティ様の魔法の力があってのこと。あなたたちの力がなければ、このイリスティアも帝国の手に落ちてしまうことでしょう。そして、これは信頼できる所からの情報ですが・・・。帝国も今回の戦いに全戦力の大半をつぎ込んで来るとのこと。今回の戦いで大打撃を与える事ができれば、しばらくは帝国が動き出すことはできないでしょう。これはエスティ様達にとってもメリットがあるのではないでしょうか?それにこの戦いで勝利できればエスティ様はレスドゥの英雄どころかイリスティア王国の英雄として代々語り告げられるでしょう。」

 「わーお!イリスティアの英雄!英雄なんてなんて響きの言い言葉!・・・あーえっと・・。・・・必ず勝利できる見込みはあるのですね?」

 「私とブルグレイを信用して下さい。」

 「わかりました。・・・ブルグレイはともかく、あなたを信用します。私もイリスティア王国軍の一員として参加いたします。」

 ブルグレイはがっくりと肩を落としているように見えるが気にしないでおこう。

 「賢明な判断を下していただけたこと、感謝いたします。では作戦内容については改めて後日、お話しいたしましょう。では。失礼いたします。」

 エスティが戦いに参加することを決断し、ホクホク顔でギルドを後にするブルグレイを捕まえる。

 「あなた・・・イークレイン将軍にエスティの正体をばらしたでしょ。」

 「な、何を言っているんだ、君は?」

 図星だろう。完全に目が泳いでいる。視線をこちらに向けようとしない。

 「エスティを危険な目に遭わせようとして、一体何が目的なの?」

 「変な疑いを持たないで欲しいな。俺は姫様の事を思って行動したまでのこと。たまたま私の、帝国打倒という本来の目的と一致しただけだ。そして、このまま姫様がグーリッシュの一員となり先頭に立って帝国と戦って頂ければそれでいい。」

 「ブルグレイ!あなたって人は!本当にエスティの事を考えて行動しているの!?」

 私は周りの目を気にせず、周りにも聞こえてしまえてしまうぐらいの大きな声で話してしまっていた。エスティは帝国と対決し打倒することなんて望んでいない。彼女が望んでいるのは冒険者としてワクワクドキドキしつつも平穏な生活を望んでいる。いままでずっと一緒に時間を共にしてきたから分かるのだ。それだけブルグレイの行動が許せなかった。

 「まぁ、もう姫様が決めた事だ。今はそのための準備をするべきだと思うが。」

 そう言い残してブルグレイはその場を立ち去った。

 「リース・・・」

 「エスティ・・・。」

 エスティはギルドのドアから心配そうにこちらを覗いている。私の声がギルドの中にまで聞こえてしまっていたようだ。

 「今回の私の判断、リースは怒ると思ってたけど。」

 「・・・もう仕方がないわよ。それがあなたの決断だったら。どんなことがあっても私はあなたを守る。さぁ、私たちも準備をしましょ。」

 「リース、本当にごめんね・・・。」

 私がギルドに入り、自分の部屋に帰ろうとしたとき、後ろからエスティの声が聞こえた。

 「私は、この町を守りたい。」




 それから3日が経過した。

 私は相変わらず町の防壁の修理に精を出していた。町の冒険者達も一緒だ。その中にはクエストの報酬を横取りしようとしていたギンスの姿もある。かつては敵同士だったが、現在は共にこの町を守りたいという思いで一致している。とはいっても現在の修復状況は50%にも満たない。帝国が攻めてきても完全に防ぎきる事は不可能だ。

 エスティはというと、ギルドの自室に籠もり魔法の習得に一生懸命だ。たまに町外れに出ては覚え立ての魔法を試している。万が一のこともあるので、その練習には私も同行していた。ともあれ非常に短期間だ。できることにも限りがある。新しい魔法の習得は無理だったが、今まで使用できていた魔法の完成度と威力を高めることには成功したようだ。実際の戦争に使えるかどうかは分からないが、彼女は彼女なりに努力を重ねている。王宮にいたエリスティーナ王女時代とは大違いだ。

 ブルグレイはというと、たびたびイークレイン将軍の元へと赴いているようだ。帝国軍との戦いについての作戦会議でもしているのだろうか。はっきり言って彼の行動にはいちいち関知していない。逆にこれから先も彼を信用して良いのかも疑問に感じている。なにせ、この戦いに巻き込もうとした張本人だ。彼がイークレイン将軍に怪しい情報を吹き込んでエスティを参戦させようとしたのだろう。まぁ、今となっては戦いに参加すると決まった以上、やるべき事をやるしかないのだが。

 そして、さらに2日が経過した。

 私たちはイークレイン将軍の司令室で待機していた。この部屋には将軍とブルグレイ、私とエスティがいる。なぜ私たちがこの部屋にいるのかというと、この戦いを有利に進めるための重要な役割を与えられるため、と聞いている。まだ具体的な話は何も聞いていないが。

 まもなく敵が攻めてくる。

 「・・・で、防壁の修復状況はどれくらいでしょうか?」

 「およそ70%程度と言ったところだろうか。」

 「・・・これでは敵の攻撃は防ぎきれませんな。」

 「敵の戦力とこちらの戦力はどれくらいなのでしょうか?」

 「敵はおよそ1万と聞いている。こちらは正規軍が5千、さらに傭兵を合わせて2千と言ったところだ。」

 「圧倒敵にこちらが不利ですね。」

 司令室に重苦しい空気が流れる。

 そして、司令室の扉が大きな音を立てて開いた。

 「ガストール軍の姿が確認されました!」

 兵士が息を切らして報告する。

 それを聞いたイークレイン将軍は椅子から立ち上がり指示を出す。

 「よし、総員、レスドゥの門前にて待機せよ!帝国軍が攻撃を仕掛けるまで動くなよ!」

 直前に聞いたイークレイン将軍の作戦はこうだ。

 敵は数に物を言わせて全力でレスドゥの町に攻めてくるだろう。従って、敵の戦力の大半はレスドゥの町の城壁の前で敵と交戦する事になるだろう。そうすれば、敵の本陣の防衛は手薄になるはずだ。そこで別働隊を編成し、戦場の東側で待機させる。幸い、そこには戦場を広く見渡せる高台がある。交戦が開始したらそこから一気に本陣へ奇襲をかける。これに成功すれば敵の指揮系統は混乱し、敵は烏合の衆となるはずだ。

 ブルグレイとイークレイン将軍であらゆる作戦を考えたが、これが一番有効ではないかという結論に達した。

 「・・・いよいよね。」

 「エスティ、怖い?」

 「怖いよ。戦争だもん。」

 「あなたは私のそばにいればいいから。私が守ってあげる。何があっても。」

 「・・・うん。」

 「ブルグレイ。君はエスティ様達と100人の兵を連れて戦場の東側の高台で待機しろ。帝国軍と我々本隊が交戦を開始したらそこから敵本陣を奇襲してくれ。部隊の指揮は君に一任する。」

 「了解した。いくぞ、みんな!」

 「わかったわ。」

 「了解!」

 私たちはすぐに司令室を出て馬に乗り、戦場東側の高台へと移動した。付いてきた100人はイリスティア軍が率いる精鋭だ。実力には問題は無いだろう。

 高台から戦場を見渡す。

 「うわっ!敵の方がハンパ無く多いんだけど!」

 「しかも、敵は訓練を受けた正規軍に対して、こちらは実践経験の少ない寄せ集めの部隊が中心です。このままでは短い時間でこちらが敗れるでしょう。」

 今回の作戦のために雇用された傭兵は主にレスドゥの防壁前に配置されている。今回の作戦では敵を引きつけるだけで十分だ。もし負傷したとしても防壁の内側に逃げ込み治療を受けることもできる。できれば死人は出て欲しくないところだが。

 「それを逆転させる切り札が我々なのです。失敗は許されませんぞ。」

 「でも、ここから敵の本陣まで結構距離もあるし、思ったより敵の数の多いわ。どうするのこれ?」

 敵の布陣は予想通り、レスドゥ攻略の方に敵の戦力の大半を向かわせている。しかし、本陣の両側にもある程度の兵士も配置している。やはり側面からの奇襲を予測しているためだろうか。数としてはおよそ5百人から8百人程度だ。それでも100人の部隊では本陣に到達するには、敵の数は多すぎる。

 「大丈夫だよ。私に任せて。私の魔法で一掃してあげるから。」

 これまで訓練を繰り返したエスティの魔法の成果に期待するしかない。

 「む、味方と帝国軍が交戦を始めましたぞ。姫様、お願いします。」

 「了解!行くわよ!『ライトニングボルト』!」

 エスティは杖を目の前に翳し、叫ぶ。その瞬間杖から閃光が発せられ、その光は敵の本陣の側面に配置された敵兵たちへとまっすぐ一直線に飛んでいく。大きな稲妻の音と爆発音が聞こえた後には敵兵士達がその場に倒れ、敵本陣までの一本の道筋が現れた。

 「よし!このまま敵本陣へ突っ込むわよ!」

 「我々もリースに続くぞ!目標は敵本陣!敵の大将の首を取れ!他には目もくれるな!進め!」

 私とブルグレイの声が奇襲部隊に響く。

 「あ、ちょっと!私をおいていかないでよ!」

 「リース!お前は先陣を切って本陣へ突撃しろ!俺が姫様を連れて行く!」

 「了解!」

 私を先頭に騎馬に乗った兵士達が敵部隊、敵本陣への一本道へと突き進む。

 ブルグレイは愛用のロングスピアと大きな盾を背中に背負い、騎馬隊において行かれそうなエスティの服を乱暴に掴み自分の馬へと乗せようとする。

 「う、うわぁ!私の服を引っ張るなぁ!」

 「戦争というものは一分一秒が勝敗を分けるものです。さぁ、早く後ろに乗って!こっちに向かってくる敵を魔法で撃退して下さい!」

 エスティは必死にブルグレイの体にしがみつく。ブルグレイは背中のロングスピアを右手に持ち、騎馬の勢いをそのままに、迫ってくる敵兵士を撃退する。しかし、それだけでは敵の数は多すぎる。ブルグレイ率いる騎馬隊はもう少しで敵兵士に囲まれそうだ。エスティは体勢を整え、迫ってくる敵兵士に向かって魔法を唱える。

 「『ファイアーボール』!」

 エスティの発した巨大な炎の塊は右手側から向かってくる敵兵士に向かって飛んでいった。その炎に焼き尽くされる敵兵士の断末魔に似た叫び声が聞こえてくる。その威力は今までとは比べものにはならないくらい大きい。訓練の成果は出ているようだ。

 「もういっちょ!『ファイアーボール』!」

 さらにエスティは魔法を唱える。今度は左手側に向けられた。

 「お見事です!さぁ、先行するリースの元へ急ぎましょう!」




 私は奇襲部隊から先行して敵部隊の中を突き進んだ。邪魔な敵兵士もいたが、私の敵ではない。勢いはそのままに、手にしていた剣で敵の鎧ごと切り裂き、敵本陣まで突き進んだ。そしてついに私は敵本陣へと到着した。

 私はすぐに馬から飛び降り、叫ぶ。

 「大将は何処!?覚悟しなさい!」

 「ふん、どこかで聞いた声かと思えば。お前か。リース。」

 どこかで聞いたことのある声。しかも私の名前を知っている。私はその声のする方へ顔を向ける。そこには見覚えのある顔があった。私はその顔に驚きを隠せない。

 「なっ!?あなたは・・・アーヴィン将軍!?なぜ帝国軍に!?」

 「帝国が私の力を評価して使ってくれている・・・それだけのこと。」

 「あなたは!ラングノートの将軍としての誇りを、ラングノートへの忠誠を、失ってしまったのですか!」

 「フン、すでに存在しない国に忠誠を誓ってどうなるというのだ?それより、私を倒さねば勝利はないぞ?」

 ・・・確かに、ここまで来たら撤退は許されない。正直言って勝てる自信はない。今までのラングノートの騎士のだった時代、一対一の勝負にも一度も勝利したことはない。しかし、やらないわけにはいかない。私は覚悟を決める。

 「ならばここで勝負をつける!覚悟しろ!」

 私はその声と同時に剣を大きく振りかぶり、まっすぐに一太刀を加える。

 「ふん、そんな攻撃!」

 将軍はその攻撃を愛用のハルバードで簡単に受け止める。しかし、私の攻撃もこれだけでは終わらない。続けて二太刀、三太刀と攻撃を続ける。

 「くっ!まだまだっ!」

 「ふん!甘いわっ!」

 しかし、その攻撃も全てハルバードで受け止められた。その隙をついて将軍のハルバードによる攻撃を加えてきた。私はすぐさま体を後ろに引き、その攻撃をかわす。続けて将軍の攻撃。ハルバートを上から振り下ろしてきた。私は手にしている剣でその攻撃を受け止める。なんという力だ。以前から将軍のパワーは体感し知っていが、それよりも遙かに超越している。

 「以前より腕が落ちているようだな!リース!」

 「なっ!?そんなはずは!」

 私はアーヴィン将軍のパワーに負け、そのまま後ろに突き飛ばされる。そこに将軍の追撃。ジャンプしてハルバートの切っ先で私を突き刺そうとした。私は間一髪のところで体を横に転がしその攻撃をかわす。それと同時に立ち上がり体勢を立て直し剣を身構える。

 状況は圧倒敵に不利だ。このままでは勝てない。どうすれば相手に勝てるだろうか?しかし、そんな思考の暇もなく将軍はこちらに襲いかかってくる。私はその攻撃の直撃を避けるだけで精一杯だった。私の右腕から熱いものが流れるのを感じた。血だ。将軍のハルバートの切っ先が私の腕を切り裂いた。

 「くっ!!」

 「これで最後だ!」

 そしてさらに将軍の一撃。ハルバートを大きく振りかぶり、私の頭上に振り下ろされる。私は持てる力を振り絞って手にしている剣で受け止めようとする。

 将軍のハルバートと私の剣がぶつかったとき、私の腕に大きな衝撃と、大きな、何かが壊れたような金属音が聞こえた。その衝撃と一緒に私の体は後ろにはじき飛ばされる。将軍の攻撃はその衝撃のせいか、私の体から外れた。

 一体何が起こったのだろう?

 将軍の怒濤の攻撃が収まったところで状況の確認をする。右手を怪我している以外は私は無事のようだ。しかし、私の剣が無い。どこかにはじき飛ばされたようだ。すぐさま周囲を確認し、私の剣を探す。そして四つん這いのままその剣の方へを向かう。その後ろからアーヴィン将軍の声が聞こえる。

 「残念だがここまで剣の腕が落ちてしまっていたとはな。親衛隊時代の方がまだ手応えがあったぞ。」

 アーヴィン将軍はラングノート陥落後もガストール軍の軍人として修行を続けていたのだろう。だが私の方はどうだ。ほとんどが人外との戦いだ。人外は動きが単純のため行動が読みやすい。対人間戦といってもほとんどがゴロツキレベルで簡単に倒せてしまう、私の敵ではなかった。

 つまりはここに差が生じてしまっていたのだ。

 それでもここで死ぬわけにはいかない。私は必死の、生き残る思いで剣と手にしようとする。

 「ここでさらばだな。リース。」

 「『ファイアーボール』!」

 後ろから炎の塊がぶつかったような音が聞こえた。私は思わず後ろを振り返る。そこには炎に包まれたアーヴィン将軍の姿があった。しかし、すぐに将軍にまとわりついていた炎は消えた。

 「そんな、魔法が効かない!?」

 「ふむ、さすがガストール帝国製の鎧。この程度の炎ならば防いでくれるようだ。しかし、こんなところにエリスティーナ王女がご健在とはな・・・」

 そこには杖をかざすエスティの姿があった。そして、私と将軍の間にもブルグレイの姿が。

 「リース!奇襲は失敗だ!すぐに退却するぞ!」

 さすがに作戦の失敗はリースも感づいていた。一番の想定外は敵の大将があのアーヴィン将軍だったことだ。しかし、共に奇襲部隊に参加した兵士達も大半を失ってしまった。今更退却としてもすでに敵兵に囲まれていて退路はふさがれている。

 「貴様も邪魔する気か!リースと一緒に息の根を止めてくれる!」

 「黙れ!裏切り者!」

 私は覚悟を決めた。せめてこの男だけでも倒してみせる!そう思い、私は愛用の剣を手に取った。しかし、その剣を見た瞬間、すべては絶望に変わった。剣が真っ二つに折れていたのだ。

 今までの戦いで剣に負担がかかってしまっていたのか。それともアーヴィン将軍のパワーによって剣が折れてしまったのか、かわからない。

 「リース!何をしている!」

 ブルグレイとアーヴィンが私の目の前で戦っている。エスティも私の姿を確認して、近くまで寄ってきている。そして、彼女の魔法で近づいてくる兵士達を撃退している。しかし、それでも兵士達の勢いが収まる気配はない。ブルグレイもアーヴィンに押され気味だ。

 「もう・・・無理よ・・・。私たちは・・・。」

 「何言っているのよ!リースがあきらめたら、私たちは・・・」

 エスティがこのまま言葉を叫び続けようとするが、それを遮るように敵兵士の声が聞こえる。

 「き、奇襲だー!」

 「なに!どこからだ!?」

 ブルグレイと距離をとり、報告を聞くアーヴィング将軍。

 「アーヴィン将軍!戦場の西側から敵の奇襲です!敵の数はおよそ300!」

 「それくらいの数食い止めろ!」

 「それが西側には位置した我が軍は本陣で戦闘中で、しかも敵は精鋭のようで、敵の勢いはまったく衰えません!このままでは我が軍は崩壊です!ここもまもなく危険です!すぐに撤退を!」

 「くっ...全軍に伝えろ!直ちに撤退を開始する!...フン、貴様ら、命拾いしたな。」

 そう言い残してアーヴィン将軍は後ろに用意していた騎馬に跨がり、撤退を開始した。周りの敵兵士達もそれに続けて撤退を開始する。私たち、エスティも、ブルグレイも、その様子を呆然として見ていた。

 「な、なんか知らないけど、助かったの...?」

 「えぇ、勝利かどうかはわかりませんが、何とか。」

 しかし、このタイミングに戦場西側からの奇襲部隊とはなんだろうか?これも作戦に含まれていたのだろうか?

 やがて、周りから敵兵士の姿は無くなり、それに入れ替わって西側から現れた奇襲部隊と思われる兵士達が現れた。

 その先頭に立っていたのは私の見覚えのある人物だった。

 その人物の名はサイフォンだった。




 帝国軍撤退後、エスティ達はイリスティア王国軍の司令室に集まっていた。その中には傭兵部隊グーリッシュのリーダー、サイフォンの姿もある。しかし、その中には私の姿はなかった。

 「ブルグレイ、ご苦労様。君のおかげで何とか勝利することができた。我々の被害も最小限に食い止めることができた。これで帝国もしばらくは行動を起こさないだろう。本当に感謝しているよ。」

 「いや、帝国が撤退を開始したのはグーリッシュが西側から奇襲を行ったため。我々だけでは奇襲は完全に失敗していた。一番の誤算は敵の大将が元ラングノートの猛将アーヴィンだったことだ。」

 「ふふ、実は保険としてグーリッシュにも参戦要請を出していたんだよ。」

 満面の笑みでイークレインは話し出す。まさにしてやったりの顔だ。

 「それにしても久しぶりだったね。こんな形で再会できるとは。」

 今回の作戦の最大の功労者、サイフォンも満面の笑みだ。

 「じゃ、私たちの奇襲部隊って、あんまり重要じゃなかったってこと?」

 「あ、いや、あくまでも保険であって、もちろんみなさんが奇襲に成功してくれればそれに超したことがないんですが。」

 「はぅ・・・」

 完全に落ち込むエスティ。

 「あ・・・」

 「ま、まぁこれくらい、姫様なら明日になりゃすぐに立ち直りますよ。」

 完全にエスティの性格を読んでいる。




 私は一人ギルドに戻っていた。そして、目の前には真っ二つに折れた、私が愛用していた剣が置かれている。

 そこにエスティとブルグレイが戻ってきた。なぜかサイフォンもいる。私の様子がおかしいと気がつき、様子を見にギルドへと寄ってきたのだろう。

 「あ、エスティ・・・。」

 「どうしたの!そんな元気の無いリースなんてリースらしくないよ!」

 もうすでにエスティは元気を取り戻しているようだ。やっぱりこの子の立ち直りは早い。

 しかし、そんな彼女も私の目の前にある折れてしまった剣には気がついたようだ。いつも隣で見ている、柄の部分にきれいな装飾が施された剣だ。一目でそれがリースの剣であると気がついた。それを見て言葉を詰まらせるエスティ。

 私はゆっくりと口を開く。

 「この剣は・・・私のために作られた特別な剣。この剣が折れてしまった・・・もう戦うことも・・・あなたを守ることもできない・・・。」

 「だったら、直せばいいじゃない!鍛冶屋だったらこの街にもあるでしょ?」

 「無理よ!この剣は普通の鍛冶屋では作れない。特殊な方法で作られた剣だから。」

 この剣は私のために特注で作ってもらった剣だ。しかも、その作り方は通常の鍛冶で作られたものではない。従って、どんな腕のよい鍛冶屋に持って行って修理を依頼しても修理できるはずがない。

 ではこの剣はどのようにして作られたのか?

 「なら、作った人に会いに行こうよ。」

 それは私の知り合いの錬金術師に作ってもらったのだ。世界に一本しかない、私だけの剣。しかし、それを作った錬金術師は・・・。

 「名前はラーディス。あいつは今グリスデルの街にいるわ。グリスデルの街は今は帝国の支配下よ。今私たちがそこに行くなんて自殺行為だわ。」

 「大丈夫。グリスデルには我々の仲間がいる。」

 「えっ?」

 私の驚きの声。

 「我々は彼らから帝国の内部情報を仕入れているんだ。あの街に侵入する方法ならいくらでもあるよ。我々も何度か進入したこともある。」

 「だったら!」

 「しかし、この人数は目立つね。行くのなら二人だけで行った方がいいだろう。グリスデル侵入の手配はこちらでやっておくよ。」

 「行こうよ!そのリースの剣を作った人に会いに!」

 「ならば俺はこの町で留守番だな。戻るまでレスドゥ修復に力を貸すとしようか。」

 彼らの言葉が私の背中を押した。剣を直せるならばまだ希望はある。そして、その剣を直す方法もあるとするならば。

 「・・・分かったわ。行きましょう。グリスデルへ。」

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