火竜の腕輪
私たちは山賊の襲撃以来野獣との遭遇もなく、無事にレスドゥの町に帰ってきた。そして、少し休息を取ったあと、再び次のクエストを探す。私たちは今金欠の状態だ。今後の生活費のためにもお金を稼がなければならない。
そんな中、エスティが一つのクエストを見つける。
「ねー、リース、ブルグレイ、次のクエストはこれにしようよ。」
「ん?」
私たちはエスティが見つけたクエストの内容を確認する。
「んー。遺跡を探索して『火竜の腕輪』を探すのかー。今の私たちじゃちょっと難しいんじゃないの?」
「でも、これ、報酬がものすごいんだよ。」
依頼書に書かれている報酬金額を確認する。そこには10万レーベルと書かれていた。えっ、10万!?それだけあれば4、5年は遊んで暮らせる金額だ。このような依頼には必ず裏がある。ここは慎重になって避けるべきだと思うが・・・。
「ほら、今、私たちって、金欠じゃない?」
「それは、さっきのクエストで余計なもの買いすぎたからでしょ。」
私はエスティの頭をたたく。
「痛っ!」
金欠の原因その1。前のクエストでエスティが余計な物を買いすぎたためだ。そのほとんどは、荷物になるという理由でヴィクトの町に全て捨ててきた。
「そういうリースだってこないだ私の命令を無視してお酒飲んでたじゃない!」
「うっ、でも飲み代なんてたいした額じゃないじゃない!」
「たしか、あのときは酒場で大暴れしていたな。酒場から損害賠償が来ていたぞ。まぁ、俺が立て替えてやったがな。後でちゃんと返してもらうぞ。」
金欠の原因その2。私はこの間、再びお酒を飲んで大暴れしていたらしい。らしい、というのは、私はそのことを全く覚えていないからだ。どうやら多額の修繕費が必要なくらい暴れていた、というのがブルグレイの証言だ。というか、エスティの忠告を無視して私に酒を勧めてきたブルグレイも同罪だと思うが。
幸いにもブルグレイは意外なほどお金を持っていた。きっと彼はかなりの倹約家なのだろう。通りで未だに結婚できないわけだ。
その2点から勘定して、私の中でしぶしぶ決断する。
「うっ・・・、うぅ・・・わかったわよ、やれば良いんでしょ!」
「決まりね!」
私はこのクエストを引き受けることにした。
私たちは今回のクエストの依頼主、ヴァルデの屋敷へやってきた。ヴェルデの屋敷はレスドゥの町の少し外れにある。その屋敷は私たちがいつも寝泊まりするギルドからも見え非常に目立つ屋敷だ。おそらくレスドゥの町で一番大きな屋敷だろう。あらためて近くで見るとやっぱりでかい。
屋敷の門をくぐるとそこには広大な庭があった。庭には色とりどりの花が咲き誇り、庭師と思われる人物が手入れをしている最中だった。
彼が私たちの姿を確認すると、「少々お待ち下さい」と話し、屋敷の中へ消えていった。庭の花を眺めながら待っていると、屋敷の中から男性と一人のメイドが現れた。男性の方が今回の依頼者ヴェルデだろう。見た目は小太りな中年男性といった感じだ。首回りや腕に、いかにも高そうな貴金属をたくさん身につけている。メイドの方は若い20代の清楚な女性といった感じだ。私もつい見とれてしまいそうな綺麗な女性だ。
「あ、あなた方が私のクエストを引き受けて下さるのですね。お、お待ちしていましたよ。わ、私が今回のクエストを依頼したヴェルデです。」
中年男性が自己紹介をした。私たちも簡単に自己紹介を済ませ、私たちは詳しいクエストの話を聞くため、豪華すぎる屋敷の中に入った。
外見も豪華だったが、内装も豪華だ。
エントランスには巨大な絵が飾られていた。誰が書いた物だか私には分からない。だが、エスティには違うようだ。目をキラキラさせて眺めている。私が興味なさそうにしていると「なんでこの絵の価値が分からないの!」と怒られる有様だ。残念だがそっち系の事に関しては全く興味がない。
ヴェルデはそんなエスティの反応にとても喜んでいるようだ。メイドがその姿を見て、淡々そした口調で話す。
「これはですね。50万レーベルいたしました。」
「へぇ~そんなもんかぁ~」
・・・私にとっては今回のクエストの報酬10万レーベルでもかなり高額だとおもうのだが、王宮育ちのエスティにとっては50万レーベルなんてたいした額ではないのだろう。エスティの反応に固まるヴェルデとメイド。
そんなことはお構いなしに屋敷を見回すエスティ。そんなエスティの目にとまったのは、屋敷の窓から入る光にキラキラと輝いて反射する、美しい模様が刻まれた甲冑だ。これならば私にもわかる。実戦向きではない、飾り物の甲冑とはいえ、あれだけの模様が入っていれば相当な金額となるものだろう。
「え、エスティ様、か、かなりの目利きと見ました。こ、この甲冑はですね、100万レーベルもしたんですよ。」
「へ~安い物ね~」
・・・もうエスティの金銭感覚は分からない。彼女に一人で買い物に行かせるのは止めておこう。
隣のヴェルデからこんな声が聞こえた。
「うっ、そ、相当奮発して買ったのに「安い物ね」なんて!」
そんなヴェルデはお構いなしのエスティ。もうやりたい放題だ。
「こら、エスティ!ベタベタ触らないの!」
「うわ~!こ、これ以上傷つけないでくれ~!」
「え、エスティ様、おやめ下さい!」
エスティの行動に慌てるヴェルデとそのメイド。
「し、しかし、これだけの豪邸ですが・・・ヴェルデ殿はどのようなお仕事を成されているので?」
気を取り直してブルグレイがヴェルデに質問する。よくぞ聞いて下さいました、とばかりに話し始めるヴェルデ。
「わ、我がヴァルデ家は代々貿易業をやっておりまして、そ、それでも業界では小規模な方ではありますが・・・。わ、私たちは他の貿易商とは違い、独自の流通ルートを作りまして・・・」
しかし、その顔は引きつったままだ。
私はいまだに豪華な甲冑にベタベタ触るエスティの腕を掴み甲冑から引き離した。そして屋敷の奥へと案内するヴェルデの後に付いていった。
案内された場所は応接室と思われる部屋だ。部屋の中央には豪華なテーブルがあり、その周りにはふかふかのソファーが置かれている。グーリッシュの物よりも見た目にも豪華で座り心地も良さそうだ。これが商売で成功した人たちの豪邸か、と感じさせる。
「ま、まぁおかけになってください。そ、それにしても、みなさん強そうなお方ですね。ど、どこかの王宮の騎士みたいです。
「そ、そうですか?」
ちょっとどきっとした。私たちが元ラングノート王家の人間とその騎士だということを知っている人間だったのか?
「え、えぇ。私が出会った冒険者は数多くいますが、そ、その中でも一番気品があり、実力も備わっているとお見受けします。」
まぁ、実際に王宮で暮らしていたので、気品も実力も備わっている・・・はずだ。そんなことを考えながら私たちはメイドが用意した紅茶に口をつける。さっき無理矢理甲冑から引き離したせいだろうか、エスティの顔が不機嫌そうだ。
一息ついたところでブルグレイが口を開く。
「早速なんですが、クエストに書かれてあった『火竜の腕輪』の件について伺いたいのですが。」
「あ、は、はい。ヴァルデ家に代々伝わる品物なのですが、その『火竜の腕輪』を売って、そのお金で事業を拡大したいと思っているのです。しかし、問題はその『火竜の腕輪』の保管場所でして、こ、ここから半日ほど馬車で行った所に先祖の墓があり、その地下に保管されているというのですが、そ、その地下に入っていった者は誰一人戻っては来ないのです。」
「その、『火竜の腕輪』というものは、どのような物なのでしょう?」
「わ、私もよくわからないのですが、先祖が相当大事にされていた物と聞いています。お、お墓にまで持って行くぐらいのものですから、相当綺麗で美術的価値のあるものだと思います。」
「なるほど、そこで我々冒険者の出番というわけですな。」
「これまでも数人の冒険者が向かいましたが、生還した方はいらっしゃいません」
おそらく、強力な野獣が住み着いているか、強力なトラップが仕掛けられているのだろう。長らく放置された場所には人が寄りつかなくなり、野生の野獣が住処として使用することはよくある話だ。あまりにも強力な野獣が住み着いてしまうと、非常に危険だと言うことで我々冒険者に討伐の依頼が来る。
今回はさらに人為的に作られた場所だ。特に、奥に大事な物が保管されているとするならば、トラップが設置されていることが予想される。安易に宝物が持ち出されないようにするための防衛的処置だ。この手の依頼にしてもよくあることだ。
しかし、どちらにしても命に関わる難易度の高い依頼だ。これまでも何人もの冒険者がこのクエストに挑み命を落としてきたのだろう。本当ならば、このような危険なクエストは避けたかったのだが・・・。
「こ、ここまできたら、報酬は惜しみません。是非『火竜の腕輪』を持ってくるよう、お願いいたします。」
ヴェルデは深々と頭を下げる。それと同じタイミングでメイドも頭を下げる。
我々も金銭的に厳しい状態にある。背に腹は変えられない。「報酬は惜しまない」というのであれば危険手当として報酬をがっぽりもらってやろう。フフ・・・。
「わかりました。私たちに任せて下さい」
「あ、ありがとうございます!移動に使う馬車はこちらで用意します。あ、明日またこちらにお越し下さい。」
私たちはヴェルデとメイドに見送られ、ヴェルデの豪邸を後にした。とりあえずギルドに戻り明日の準備をしなければ。しかし、何かが引っかかる。
「どうしたの?そんな難しい顔をして」
エスティが私の顔を見て聞いてくる。
「うーん、報酬は惜しまないって言ってたけど、それで『火竜の腕輪』を売って儲けはあるのかしらね?」
そこまでして欲しがる『火竜の腕輪』という物はなんだろうか?
「うーむ、俺には商売とか難しいことはわからぬが・・・。」
「なんていうか、別の目的があって『火竜の腕輪』を手に入れたい、って言う感じがするのよね・・・。」
「考えすぎだよ。今私たちに必要なのはクエストをこなしてお金を稼ぐこと!」
「そ、そうよね。私たちは受けたクエストをこなすだけ!」
「おーっ!」
意気揚々のエスティ。しかし、最後の一言。
「でも屋敷で出された紅茶、すっごいまずかった!きっと安物よ、あれ!」
次の日、ギルドの前に馬車がやってきた。馬車にはヴェルデが私たちを待っていた。馬車の手綱を引いているのは昨日ヴェルデの屋敷の庭にいた庭師だ。
私たちは簡単に挨拶を済ませ、馬車に乗り込み、『火竜の腕輪』があるというヴェルデ先祖の墓に向かった。その墓の場所はレスドゥの町からそれほど離れた場所ではなかった。朝ギルドを出発し、昼前にはヴェルデの先祖の墓に到着した。
ヴェルデの先祖の墓自体は少し大きなモニュメントのようなものだった。形状は縦長の長方形で中央に大きな十字架の様な模様が描かれている。高さは5メートル程度はあるだろう。その足下には大きな扉がある。鍵が掛けられるようになっているが、今は鍵が開けられているようだ。そして、その扉の両脇には門番らしき、槍を持ち重装の鎧を着た人物が二人立っている。
「ふむ、以外と厳重な警備をしているのだな。」
「そ、それはもちろん、大事なものが保管している場所でもありますし、そ、その、関係無い人が迷い込んでしまわぬようにと。」
馬車は扉の前で止まった。ヴェルデが馬車を降りる。それに続いて私たちも馬車を降りた。
「これはヴェルデ様。」
「う、うむ。様子はどうだ?」
「はい、今のところは変わりありません。」
「せ、先日潜入した部隊はまだ戻ってこないのか?」
「はい。残念ながら。」
その会話の内容を聞いて、私たちの間に緊張が走る。私たちもここから無事に帰ってくることができるだろうか?
改めて扉を見る。
「ここが、『火竜の腕輪』が保管されているという先祖の墓の入り口かぁ。」
「うわ、薄気味悪い・・・。」
「実際に目の前にすると気味の悪い所ですな。」
扉には所々色あせていたり、錆が付いていたり、汚れが付いていたりしている。それを見ただけでもかなり気味が悪い。
「でもこれも冒険者としての役目。引き受けた以上、もう後には引けないわよ。」
「わかってるわよ。行きましょ。みんな。」
みんなの顔を見て頷く。
ギギギという不気味な音を立て門番が扉を開ける。中を見ると薄暗く、さらに不気味さが増す。
「で、では、よろしくお願いします。ぶ、無事に戻って来られることを祈っていますよ。」
私たちが扉をくぐると、扉は門番達によって閉じられた。鍵は掛かっていないのでいつでも外に出られることができる。
扉の向こうは地下へと続く階段が続く。墓の中は意外と明るかった。石を積み上げて作られた壁には、取り付けられたたいまつに火が灯されている。
「中は真っ暗かと思ったけど、明かりが付いているのね。」
「きっと前に潜入した部隊が付けた明かりね。」
一応暗闇対策のたいまつも用意してきたが、必要なさそうだ。
そのまま地下へと続く階段を下りていく。
30メートルぐらい降りたところだろうか。私たちの目の前に比較的広い空間が現れた。
「む?姫様、なんか変なにおいがしませんか?」
「確かに・・・。何なの、このにおい・・・。」
部屋の中に入った瞬間から、今までのものと明らかににおいが変わった。このにおいは腐敗臭だ。これまで入ってきた人たちの死体のだろうか?
私たちは部屋の中央まで進んだ。部屋の中は明かりが付いているというものの、広い空間とあって少し薄暗い。部屋のあちこちからうめき声のようなものが聞こえる。その声は次第に近づいてくる。そして私たちがそのものが目で確認できる距離まで近づいてきた。
「こいつら・・・死体か?死体が動いているのか?」
それらは体がぼろぼろに朽ち果てた死体が歩いていた。中には肉が落ち、骨が見えるしたいもある。
気がつくと私たちは大量の死体に囲まれていた。その数は100体以上。それらはゆっくりではあるが確実に私たちの方へ近づいてくる。
「アンデットよ!まだそんなに腐敗していないものまで・・・」
きっと我々が潜入する前の部隊もこのアンデット達に殺され、アンデットの仲間にされてしまったのだろう。
後ろを振り向くとすでに帰り道はアンデット達に塞がれてしまっていた。
「どうする?このままじゃ戻ることもできないわよ!」
「こうなったら奥に逃げるしかあるまい!向こうに扉がある!そこに逃げよう!」
ブルグレイが指さした方向には大きく黒ずんだ金属の扉がある。幸いそちらの方はアンデットの数が少ない。確かにそちらに逃げた方が得策だ。
「わかったわ!いくわよ!エスティ!」
「う、うん!」
「くそっ、じゃまな奴らめ!」
ブルグレイが立ちふさがるアンデットを手にしているロングスピアでなぎ払い、扉までの道を切り開こうとする。しかし、いくら比較的手薄といっても数が多すぎる。
「くそっ、この数じゃ扉にたどり着く前にこちらがやられるぞ!」
「私にまかせて!『ファイアボール』!」
エスティが杖を目の前にかざし叫ぶ。エスティの目の前に顔の大きさぐらいの火の塊が現れ、アンデットの群れに向かって飛んでいく。そこで日の塊は飛び散り周りのアンデット達を焼き尽くす。
「わぉ!よく燃える!」
「喜んでいる場合じゃ無いわよ!」
そして、その火が消えた後にはアンデット達の姿はなく、扉までの道ができていた。
「今よ!一気に扉まで走るわよ!」
「おう!」
私たちは扉に向かって全速力で走る。後ろのアンデット達も追いかけてくる。扉の前まで来ると私は扉を開けようとするが、非常に重い。エスティ、ブルグレイも一緒になって扉を押し開ける。鈍い音を立て、扉が少しずつ開いた。
人一人通れるぐらいまで扉が開いたところで、扉の中に逃げ込み、また3人の力で扉を閉じる。アンデット達はすでに目の前まで来ていた。アンデット達も扉の中に入ろうとするが、それより先に扉を閉じる事ができた。これくらいの重い扉ならば、アンデット達の力では開かないだろう。実際、扉の向こうからガサゴソという音が聞こえるが、扉が開いてしまうような気配はない。
私とエスティは扉を背にしてその場に座り込んだ。
「ふぅ。何とか助かったわ・・・。」
ここから先は誰もたどり着けなかったのだろう。明かりが無く真っ暗だ。私は今回のクエストのために用意していたたいまつに火をつける。
今いる部屋は持っているたいまつの明かりで十分見渡せる程度の広さの部屋だ。その部屋の中には私とエスティ、ブルグレイの三人だけだ。その奥には闇の中にうっすらと扉が見える。
「でもこのままじゃ帰るにも帰れまい。どうすれば・・・。」
確かに入り口はアンデット達に完全に塞がれてしまった。帰り道は無い。
ブルグレイは部屋の中を調べ始めた。
「・・・アンデットがいるっていうことは、それを操るネクロマンサーがいるはずよ。そいつを倒すことが出来れば・・・。」
アンデットは自らの意志で動くことはできない。彼らがいると言うことは彼らを操る者がいて、そのものの意志で動かされている。ということは、その操る者を倒せばいい。しかし。
「でも、この墓の主は死んでいるはずだから、ここには私たち以外誰もいないはずよ。どうやってアンデットを操っているの?」
「ネクロマンサーは人、じゃなくて、それに相当する『何か』がこの中にあると思う。きっと墓の主が『火竜の腕輪』を守るために、死ぬ前にネクロマンサー役を『何か』に宿したんじゃないかしら。」
その『何か』は何なのか分からないが、それを破壊しない限りここから出ることはできないと言うことだ。まぁ、普通に考えればここの一番奥、おそらく『火竜の腕輪』と一緒に保管されていると考えて間違いないだろう。
「姫様、こちらの奥にも扉があります。でも何かしらの仕掛けがあるようで、開きません。」
ブルグレイが扉の前に立ち、話しかける。
私は扉の横にある水晶のような丸い小さなものがあることに気がついた。
「ねぇ、これ、何かしら?
「これは・・・見たことがあるわ。『紅水晶』ね・・・。あっ!もしかして!みんなちょっと下がってて。」
「は、はい。」
「わかったわ。」
エスティはこれが何か分かっているようだ。私はエスティに言われた通りにエスティの後ろに下がる。
「いくわよー。『ファイアボール』!
エスティは杖をかざし叫んだ。エスティの目の前に生み出された炎の塊は『紅水晶』と呼ばれた小さな玉に向かって飛んでいく。炎の勢いが強すぎたためか、炎は周りに飛び散り私たちの足下にまで火の破片が飛んできた。
「うわっ!あちちっ!」
「熱ッ!ちょっと、いきなり何するのよ!?」
「フフン♪この水晶は火の熱に反応してエネルギーが流れるようになっているの。よく何かしらの仕掛けのスイッチとして使われることが多いわ。だからこれで何か変化が起こるはずなんだけど・・・。」
私たちの声はエスティには届かなかったようだが、要するに『紅水晶』が扉を開く鍵となっているのだろう。
改めて私たちは扉を押してみる。が、びくともしない。
「・・・ちょっと、・・・開かないわよ」
「わ、私に言われたって、知らないよ・・・」
「待て、何か音がする!」
天井の方から、何かが動いた音がする。
何が起こるんだろうと、天井を見上げた瞬間、天井から骨が落ちてきた。人間の骨だ。
「骨!?」
「いや、何かおかしい!」
その骨はカタカタと音を立て動いている。そして骨と骨が組み合わさり、一体の人間型を作り上げた。その右手にはサーベルのような片刃の剣を持っている。そしてゆっくりとこちらに向かってくる。
「えっ?骸骨!?」
「こっちに向かってくるぞ!」
その骸骨は手にしているサーベルを振り上げ私たちに向かって斬りかかってきた。思ったより素早い動きだ。私はエスティの肩を掴み右へと避ける。ブルグレイは左に避けた。
「エスティ!なんてことしてくれるのよ!」
「し、知らないわよ!」
「とにかく!こいつを何とかするぞ!てやっ!」
ブルグレイは体勢を立て直し、手にしたロングスピアで骸骨の頭部を突き刺した。ブルグレイのロングスピアは骸骨の頭部を貫通し、頭部は砕け、その衝撃で骸骨は大きな音を立てて後ろに倒れた。
「よしっ!倒した!」
しかし、骸骨はゆっくりと起き上がり、またこちらに向かってくる。
「くっ、こいつ、また立ち上がって動いている!」
「だったら!うおぉぉっ!」
私は手にしている剣で骸骨に斬りかかった。私の剣は骸骨の左腕を砕き、大きな音を立てて地面に落ちた。
「腕をやったっ!」
「リース危ない!奴の剣がっ!」
「えっ!?」
私が骸骨の方を見ると骸骨の右手に持っていた剣を振り上げ、今にも振り下ろそうとしている。私はすぐに回避行動を取るが間に合わない!
そのとき、ブルグレイが私と骸骨の間に割り込み、手にしているロングスピアの柄で骸骨のサーベルを受け止めた。
「っ!?」
「何をしている!油断するな!」
「ブルグレイ!」
「・・・くっ、こいつ、なんて力だっ・・・」
「リース!脊髄を狙うの!脊髄を破壊すれば姿勢を保てなくなるわ!」
「脊髄ね。解ったわ!」
私は姿勢を立て直しブルグレイと競り合っている骸骨に向けて、脊髄を狙って剣を振るう。骸骨の体は真っ二つに分断され、その場に崩れ去った。
「なんとかやったわね・・・」
それでも骸骨を構成していた骨はカタカタと音を立て震えている。
「まだ動こうとしているのがちょっと気持ち悪いがな・・・」
後ろから大きな、何かが動く音が聞こえた。振り返ると今まで閉ざされていた扉が開こうとしていた。
「扉が開いたわ!きっとこいつが奥への扉の門番だったのよ!」
「・・・ま、結果オーライって事にしておきますか・・・。」
開いた扉からさらに奥に進む私たち。
やがて目の前に大きな広間が現れた。その向こうには祭壇のようなものがあり、その上に腕輪のような物が置かれている。
「ねぇ、あれが『火竜の腕輪』じゃない?」
「ふぅ、やっとここまで来たのね。」
「じゃあ、とっとと持って帰ろう!」
エスティは祭壇の方へと駆けだした。
「あっ、待ちなさい!」
と叫んだ瞬間。
エスティの足下の床が崩れだした。
「え!?」
「エスティ!危ない!」
「リース!」
私はすぐにエスティの元に飛び込み、間一髪のところで穴に落ちていくエスティの腕を右手で掴む。しかし、その勢いで私も落とし穴の中に落ちた。私はすかさず左手で落とし穴の縁を掴み何とか落下は防いだ。
私は落とし穴の底を見る。そこには切っ先を上に向けられている槍が無数に敷き詰められていた。このまま落ちれば全身がその槍によって串刺しになっていただろう。考えただけで冷や汗が出てくる。
「姫様、ご無事ですか!?」
「な、何とか・・・。」
「ちょっと!私はどうでもいいの!?」
「そんな文句が言えるということは無事な証拠だ。引き上げるぞ、リース。ふんっ!」 ブルグレイは私の左腕を掴み、そのまま引き上げる。私の体が落とし穴の上に戻ったところでブルグレイト一緒にエスティの体を引き上げる。何とか全身串刺しの危機からは脱出した。
「た、助かったぁ・・・。」
「ふぅ、さすがにここに落とし穴があるとは思わなかったわ。」
「さすがにトラップはこれで最後よね。さぁ、今度こそ『火竜の腕輪』を取ってくるわよ。」
私たちは念のため慎重に足下を確かめながら『火竜の腕輪』の元へと近づいた。幸運にも落とし穴はあの一箇所だけだったようだ。
エスティは祭壇の上にある『火竜の腕輪』を手にする。ヴェルデが言っていたような装飾の美しさは全く感じられず、全体が黒ずんでいるように見える。とても美術的価値があるとは思えない。むしろ、その腕輪の存在自体に恐怖を覚える。
「・・・なんか見た目が怖いんだけど。これってもしかして呪われていたりしないわよね?」
このエスティの一言がその場にいる私たち全員の率直な感想だろう。
エスティは『火竜の腕輪』が置かれていた祭壇の裏に水晶のような球体が設置されている事に気がついた。
「・・・これ、かすかに魔力を感じる・・・。!もしかしたらこれが?だったらこれを破壊すればっ!えいっ!」
エスティはその球体を手にしている杖で叩き、粉々に破壊した。
「ちょっと、何やってるのよ!また変なトラップが作動したらどうするの!?」
「大丈夫よ。」
エスティは私たちの方を見てにっこり微笑む。
「ん?中の様子が変わったな。魔物というか、殺伐とした気配が無くなったぞ。」
「たぶんこいつがネクロマンサーの役割を果たしていたのよ。だから、こいつを破壊すればこの中のアンデット達も活動を停止するはず。」
「・・・ということはこれで無事に帰ることができるのね。グッジョブよ。エスティ!」
「ふむ。ならば、ここに長居は無用だな。さっさと帰ろう。」
エスティの言うとおり、アンデット達の活動は完全に停止したようだった。
我々を襲ってきた骸骨も動きを止め、ただの屍と化している。入り口近くの大量のアンデット達も動きを止め、その場で倒れたまま動き出す気配はない。ただ不快な腐敗臭がその広い空間に漂っていた。
こんな場所は早く出て外の空気を吸いたい。
そう考え、ダッシュでヴェルデ先祖の墓の外に脱出した。
「お、おぉ、無事に戻られたのですね!さすがです!」
入り口の扉が開き、私たちの姿を確認すると、ヴェルデは今までに見せたことがない笑顔で私たちを迎えてくれた。
「これが目的の『火竜の腕輪』だと思うんですが。」
エスティは黒く色あせた腕輪をヴェルデに差し出す。
「こ、これが『火竜の腕輪』ですか!噂に聞いていた物と違うようですが・・・」
「でもそれらしき物はこれだけだったわよ。これが『火竜の腕輪』じゃないかしら。」
「ま、まぁ、一旦屋敷に戻りましょう。今回の件での報酬をお渡しします。」
「やったぁ!」
「これで一段落だな。」
「そうね。お疲れ様。」
私たちはお互いの苦労をねぎらい、馬車に乗ってヴェルデの屋敷へと向かった。
私たちはヴェルデからの報酬を受け取り、ギルドに戻る途中だ。日はすでに傾きかけている。
回収した腕輪の見た目が期待外れだったためか、最初に提示された金額そのままを渡してきたが、大金を手にしたことでみんなホクホク顔だ。
「さーて、お金もたくさんもらったし、何に使おうかな~」
「そうですな、私も久しぶりに酒場で一杯やりたい気分ですな。」
「私もお酒飲もうかしらー。」
「「ダメ!絶対!」」
二人して即答。
「えーっ!?そんなぁ!」
「そういえば、貴様、俺に貸しがあっただろう?ちゃんと返してもらうぞ。」
「えっ?あ、そういえば・・・」
今回の私の手取り分からブルグレイからの借金分を差し引いてみる。・・・ほとんど手元に残らない・・・。
「私、もう帰って寝る・・・。」
「私はおいしいもの食べに行く~♪」
「姫様、私もお供いたしますぞ♪」
あまり遅くならないでよ、と言い残し、私はギルドの二階にある自室に戻っていった。
その日の夜。
「姫様、起きて下さい!リース、起きろ!」
私は部屋のドアが激しく叩く音で起こされた。時間は午前0時を過ぎた頃だろうか。
なにやら外が騒がしい。私は眠い目をこすりながら外から聞こえる声を聞いていた。その声は悲鳴にも聞こえる。何か嫌な予感がした。
エスティの方を見る。すやすやと寝息をたてて眠っている。今日は美味しい物をたくさん食べられたのだろうか。その表情は幸せそうだ。
「むにゃむにゃ・・・やあぁん、リースぅ、そんなところ舐めないで・・・」
一体どんな夢を見ているのだろう・・・
しかし、今はそんな状況ではない。私はすぐにエスティを起こす。
「・・・・ん?何なのよ、今何時だと・・・!?なんなのこの感じ!?」
エスティも外の様子の異常さに気がついたようだ。私は部屋のドアを開けブルグレイに状況を確認した。
「一体何が起きているの!?」
「ど、ドラゴンが現れて街を破壊している!」
「え・・・ドラゴン!?」
ドラゴンといえば、昔話の中でしか聞いたことがない生物だ。皮膚は鉄よりも固い鱗に覆われていて、その力はとてつもなく強い。そして口からは火を吐き、あらゆる物を焼き尽くすという。実際にそんな生き物がいるとはとうてい信じられない。
しかし、窓から外を見ていたエスティが叫ぶ。
「うわ、何なのあれ!ドラゴン!?うわ、火吹いた!」
私も窓から外を見る。レスドゥの町を構成する建物よりも頭一つ大きい、見たことも無い生き物が巨大な手で建物を破壊し、口から炎を吐いて建物を燃やしている。昔話で見たことのあるドラゴンそのものの姿がそこにあった。すでに町のあちこちからは火の手が上がっている。ドラゴンの炎によって焼かれたのだろう。
「ここは危険です!すぐに逃げましょう!」
「で、でも!このままじゃこの町が!」
「私たちじゃあんな化け物は倒せないわ。残念だけど、今は生き残るのが大事。すぐにこの町から脱出しましょう。さ、早く!」
「う、うん!」
ブルグレイを先頭に、私はエスティの手を引いてギルドから大急ぎで脱出する。階段を駆け下りギルドの入り口のドアを勢いよく開け外に出る。
そんな私たちのそばに巨大な陰が現れる。見上げると、ついさっき窓から見ていた、巨大なドラゴンが私たちの目の前にあった。
「ドラゴン!」
「もうこんな所に来ているし!」
ドラゴンは身の毛もよだつ鳴き声を放ち、ドラゴンの巨大な爪が私たちを襲う。私はすぐにエスティをかばい地面に押し倒す。後ろから大きな金属音がした。ドラゴンと私たちの間に立っていたのはブルグレイだった。ブルグレイの持つ大きな盾でドラゴンの爪を防いで立っていた。しかし、ドラゴンの力はとても強く、その衝撃でブルグレイは後ろにはじき飛ばされた。
「ブルグレイ!」
「ぐっ!姫様は俺が守るっ!今のうちに、逃げて下さい!」
「で、でもっ!」
ドラゴンは大きく息を吸いはじめた。間違いない。次は口から炎を吐き出そうとしている。今のままではブルグレイどころか私たちの身も危ない。
「炎のブレスが来るわ!」
しかし、今から逃げたとしても間に合わない。
私は両腕で顔を覆い、目をつむった。ドラゴンの炎のブレスが来る!その瞬間。
「『マジックシールド』!」
ドラゴンが炎を吐き出すその息の音は聞こえる。しかし、熱さは全く感じられない。私はそっと目を開いた。
私の目の前にはエスティが立っていて杖を前にかざし、その前には光の薄い膜が張られていた。その膜は完全に私たちを覆い、膜に沿ってドラゴンの吐いた炎は私たちから反れていく。
彼女の魔法でドラゴンの炎のブレスは防がれた。
「エスティ!?」
「もう嫌だ!私のために誰かが犠牲になるなんて!」
「でも、一体どうすれば・・・」
ドラゴンの炎は止まった。ドラゴンはずっとこちらをにらんでいる。すぐに行動を起こすようには見られない。様子見ているように見える。
「ねぇ、ドラゴンの腕にあるの・・・あれって『火竜の腕輪』じゃない?」
ドラゴンの左腕の方を見る。そこには見覚えがあるものがあった。今日発見し、ヴェルデに渡したはずの『火竜の腕輪』だ。ということは・・・。
「ドラゴンの正体はヴェルデってこと!?」
「ひょっとしたらだけど!『火竜の腕輪』を破壊することができれば!」
「でも、いったいどうすれば・・・。」
「俺が奴の攻撃を受け止める。動きが止まったところをリースの剣で狙え!」
「わ、わかった。やってみる!」
ブルグレイは体勢を立て直し、私たちの先頭に、ドラゴンの前に立ちはだかった。
「さぁ、ドラゴン!私はここだ!狙うなら俺を狙え!」
ドラゴンはその声に反応し、大きな叫び声を上げて左腕の爪でブルグレイに襲いかかる。ブルグレイはその攻撃を盾で受け止めた。盾はドラゴンの爪が貫通した。一部の爪はブルグレイの体にまで達している。全身強固な鎧で身を固めているブルグレイでもその顔が苦痛にゆがむ。鎧まで引き裂かれたようだ。
しかし、その行動によってドラゴンの左腕の動きは止まった。
「今だ!リース!」
「てやあぁぁぁっ!」
このチャンスを逃すわけにはいかない。私はすぐさまドラゴンの左腕に装着された『火竜の腕輪』めがけて手にしている剣を突き刺す。
『火竜の腕輪』はひびが入り、そのひびは『火竜の腕輪』全体に広がっていく。そして、粉々に砕け散った。
「やったっ!?」
その瞬間目の前のドラゴンは眩しい光に包まれた。直視できないほどの強い光だ。私たちは腕でその光を遮る。
「うわっ!」
「眩しいっ!」
そして、やがて光は収まった。
改めて腕を下ろし前を見る。そこには先ほどのドラゴンは存在していなかった。
「・・・・き、消えた?」
「なんとか・・・うまくいったみたいですな。」
しかし、ドラゴンの変わりにいたのはヴェルデだった。
「・・・ん?こ、ここはどこだ?わ、私はどうしたのだ?」
「ヴェルデさん?」
「きぁあああああっ!」
私はヴェルデを直視する。が、その顔はすぐに後ろに背けてしまった。ヴェルデは服を何も身につけていなかったのだ。後ろからエスティの悲鳴に似た絶叫が聞こえる。
「ん?え?ああぁぁぁっ!だ、誰か、私の服をっ!」
レスドゥの人々は負傷者の救護、火災の消火活動に忙しく動いている。私たちもヴェルデを保護した後、すぐに消化に参加していた。日はまもなく昇り始めようとしている。私たちは消化活動が一段落したところでギルドの前で町の様子を眺めていた。
「とりあえず、火は収まりましたな。しかし、あのドラゴンは・・・」
その横でブルグレイがつぶやく。
「たぶん、あの『火竜の腕輪』が原因だと思うわ。呪いか何かかしら。それをヴェルデさんが使っちゃったからヴェルデさんがドラゴンに変身し、暴れ出した・・・。」
そう考えるのが妥当だろう。私もそう思う。
「とんでもない仕事を受けちゃったのかしら。私たち。」
「いいや、お前達は冒険者としての仕事をこなしただけだ。そんなに自分達を攻める必要は無いぞ。それより昨日はご苦労だったな。」
いつの間にいたのだろうか。後ろでギルドマスターが話しかけてきた。
「ほんとに疲れた・・・ほとんど寝てないんだもん。あれから夜明けまで消火活動だもん。しんどいわぁ。」
「まぁ、本当にご苦労だった。お前達、この街ではちょっと有名人だぞ。」
「えへへ、そう言われるとちょっと嬉しいかも・・・・。」
「まずはゆっくり休んでくれ、と言いたい所なんだがな。もう一つ新しい仕事依頼が来ているんだ。」
何か嫌な予感がする。
私たちは少し仮眠を取った後、再びギルドのロビーに集合した。




