006話_ツンデレと接客対決
翌日。購買部の前。
カナデが腕を組んで立っていた。
「条件を言うわ」
「早いな」
カナデは電卓をカチカチ叩いて、数字を見せた。
【条件①:購買部の売上に影響を与えないこと】
【条件②:校舎内で"悩みの固形化"を発生させないこと】
【条件③:私に勝つこと】
「③が不穏すぎる!! 何で勝つんだよ!!」
カナデが不敵に笑う。
「接客よ」
「接客?」
「購買部と自販機マスター、どっちの接客が上か。生徒に判定してもらう」
校庭から自販機マスターの声が飛んでくる。
『受けて立つ』
「お前、校舎に入れないのにどうやって接客するんだよ!!」
『校庭で出張営業する。問題ない』
「問題しかない!!」
エルフの少女が黄昏ながら言う。
「接客対決……。青春っぽい」
「どこがだよ!」
マキが拳を突き上げた。
「接客は筋肉だ!!」
「筋肉じゃない!! 接客に筋肉は要らない!!」
ソウタが震えながら手を挙げた。
「あの……僕、どっちの味方にもなれないんですけど……」
「中立宣言するな!! この状況で一番難しいポジションだぞそれ!!」
——
昼休み。校庭。
自販機マスターが校庭の真ん中に陣取った。エプロンをぱりっと整えている。
対する購買部は、校舎の入り口にカナデが特設カウンターを設置。焼きたてパンの匂いが漂ってくる。
「匂いが強い!! これは購買部が有利だろ!!」
自販機マスターが冷静に言う。
『匂いで客を釣るのは三流。一流は"悩み"で客を呼ぶ』
「どっちも問題ある商売だよ!!」
生徒たちがぞろぞろと集まってきた。
「ねえ、なんか校庭で対決してるっぽいよ」
「自販機と購買部? なにそれ」
「面白そう」
審判役はソウタが押しつけられた。
「な、なんで僕……」
「お前が一番中立だからだよ!」
ソウタは震える手で旗を持たされた。エルフが渡したのは白旗。
「白旗は降参の旗だろ!! 別の色にしろ!!」
——
第一ラウンド:挨拶。
カナデが笑顔で言う。
「いらっしゃいませ! 購買部へようこそ! 本日のおすすめは焼きたてカレーパンです!」
パーフェクト。笑顔、声量、情報量、全てが完璧。
生徒たちがざわつく。
「さすが購買部部長……」
「安心感がすごい」
自販機マスターのターン。
『いらっしゃいませ。学園非公式・移動型福利厚生施設、"自販機マスター"です。本日のおすすめ——"昼休みの虚無感ラテ"』
「ネーミング!! 初手から攻めすぎ!!」
生徒たちが動揺する。
「虚無感……?」
「……ちょっと気になる」
「え、なんか当たってる」
「第一ラウンドは……」ソウタが震えながら旗を上げた。「引き分け……?」
「判定が弱い!!」
——
第二ラウンド:おすすめ商品。
カナデがカレーパンを高々と掲げた。
「このカレーパン、中のルーは購買部オリジナルレシピ! スパイスから手作り!」
パンを割ると、中から湯気とカレーの香り。
生徒たちが「おおー」と歓声を上げる。
自販機マスターがガチャコン。
『こちらのおすすめ。"5限目が怖いカプチーノ"』
「ピンポイントすぎる!!」
カップのラテアートに【5限:歴史】と書かれている。
ある男子生徒がびくっとした。
「え、なんで俺の時間割知ってんの……」
『盗聴ではない』
「今それ言うから怖いんだよ!!」
生徒たちがざわつく。
「なんか……悩みを見透かされてる感じ……」
「怖いけど気になる」
カナデが眉をひそめた。
「……ずるくない? 悩みで釣るの」
『ずるいのではない。潜在ニーズに応えているだけだ』
「潜在ニーズ!! 自販機がマーケティング用語使ってる!!」
ソウタが判定する。
「第二ラウンドも……引き分け……」
「お前の判定、全部引き分けになるだろ!!」
——
第三ラウンド:実演。
カナデが宣言した。
「じゃあ最終ラウンド。実際に生徒の悩みを解決してみましょう。購買部は"パンで元気にする"。自販機は"ドリンクで悩みを処理する"。どっちが効くか」
『面白い提案だ。受ける』
その瞬間、観客の中から一人の生徒が前に出た。
男子生徒。髪がボサボサで目の下にクマがある。
「あの……俺、どっちでもいいんで助けてほしいんすけど……」
「どうした?」
「明日、学園祭の実行委員の発表があって……俺、立候補したんすけど、誰にも期待されてなくて……」
「期待されてないって自分で言うな!」
「だって誰も応援してくれないし……」
ぬるっ。
男子生徒の足元から、灰色のゼリーが湧き出した。
「出た!! 校庭で固形化!!」
ゼリーは"透明人間"みたいに薄く、存在感がない。
『"存在感ゼロゼリー"。自己評価の低さが物質化したもの』
「名前がつらい!!」
カナデが叫んだ。
「ちょ、ちょっと!! 校庭で固形化しないって条件——」
「条件②を言ってる場合じゃねえ!!」
存在感ゼロゼリーが広がり、男子生徒がどんどん透けていく。
「え、俺消えてる!?」
「消えるな!! 物理的に消えるな!!」
カナデがパンを差し出す。
「は、はい! カレーパン! 食べて元気出して!!」
男子生徒がカレーパンを受け取るが、手が透けてパンが落ちた。
「持てない!!」
「カレーパンを持てないほどの存在感のなさ!!」
自販機マスターがガチャコン。
『"存在感リカバリーココア"。飲め』
「でも持てないんじゃ——」
俺は男子生徒に向かって叫んだ。
「"透明"って言うな!! お前は"透き通ってる"んだ!! 綺麗ってことだろ!!」
——ボン!!
存在感ゼロゼリーが、キラキラ光り始めた。
「え……光ってる……?」
「そうだ!! 透明じゃなくて透き通ってるんだ!! 存在感がないんじゃない、お前は"邪魔しない優しさ"を持ってるんだよ!!」
——ボンボン!!
ゼリーが宝石みたいに輝いて、男子生徒の体が元に戻っていく。
「戻ってる!!」
男子生徒が自分の手を見て、目を見開いた。
「俺……見える……」
「最初から見えてるわ!!」
自販機マスターがココアを排出する。今度は男子生徒がちゃんと受け取れた。
一口飲んで、男子生徒が笑った。
「……あったかい。俺、明日の発表、頑張ってみます」
「おう。頑張れ」
カナデが呆然としている。
「……パンじゃ、無理だった」
俺はカナデに言った。
「パンで元気にはなれる。でも悩みは消えない。——両方あった方がよくないか?」
カナデは黙った。
エルフの少女がぽつりと言った。
「パンとドリンク。セットメニューだね」
「エルフ、たまに天才だな」
自販機マスターが校庭から告げた。
『提案。購買部と自販機マスターの"コラボ営業"。売上は折半。悩み対応は当方が担当。パンは購買部が担当。共存共栄』
カナデが電卓を叩いた。カチカチカチ……。
「……売上、折半?」
『フェアだろう』
カナデは長い沈黙の後、ため息をついた。
『交渉成立』
「まだ成立してない!! 勝手に握手するな!! 手ないけど!!」
カナデがぼそっと言った。
「……あんたのツッコミ、ちょっとだけ面白かった」
「……っ、……そ、そうかよ」
エルフの少女が隣でぼそっと呟いた。
「……ツンデレだ」
「違ぇよ!!」
自販機マスターのパネルが光った。
【フクリコポイント獲得:+2】
【対人交渉・組織間連携】
【フクリコレベル:Lv.3に上昇】
【行動範囲:校舎一階(購買部前) 解放】
「レベルアップ!! 校舎に入れる!!」
エルフの少女が拍手した。
「おめでとう。自販機の入学式だね」
「入学はしてない!!」
自販機マスターが告げた。
『次の目標:二階——職員室前』
「職員室!? ハードル上がりすぎ!!」
俺の会員証が、校舎の入り口で誇らしげに光った。
最悪だ。




