第5話
北ナーロッパに位置するトランシルバニア公国の北西部には、吸血鬼の一族が住まう領域があるという。
祖父は元々その一族の出で、たまたまトランシルバニア公国に訪れていた祖母と恋仲になり日本で暮らす事にしたらしい。
ただ、その吸血鬼の能力は伝説上のモンスター的なものとは異なり、随分と人間寄りのものみたい。
まあそうでなければ、実家でジャガイモ農家をやってられるわけもないからね。
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◉トランシルバニア公国の吸血鬼は伝説にある吸血鬼と違い、太陽の光に耐性があるらしい。
ただ日本人より日焼けしやすい程度との事。
だからラテンになるのか。
それでマラカスが好きになる、とか?(意味不明)
◉吸血行為については嗜好的な部分があるだけで、恒常的な吸血行為を必要としない。
待ってよ、嗜好的って何?
◉力は人間より強くなる。
でも意識的にコントロールは可能。
火事場の糞力とは違うの?
◉寿命が人間の倍以上ある。
(長さに個人差もあるみたい)
亡くなる時は短期間に老化。
亡くなる一年前まで知力体力は衰えない。
外見も細胞レベルで20代を維持するらしい。
いや、それって生物学的に反則でしょ?!
その為祖父は、ある時から変装して顔を年寄りに見せていたようだ。
ヤバっ、世間の若見え美容美顔エステが全滅じゃん。
なんかズルいわ、吸血族。
あ、私もか?
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そんな事もあり本人は祖母亡き後、家族で話し合って戸籍は死んだ事にした。
それから母国に帰っていたそだ。
私については父が吸血鬼の能力に目覚めず、また吸血鬼が劣性遺伝でもあり、混血に発現しにくい特性があったので大丈夫だと思っていたらしい。
そして私に発現した力はやはり吸血鬼の力。
隔世遺伝って奴?
けど何故、劣性遺伝でありながら隔世遺伝で私に発現したのか。
そしてその事を祖父が何故、知る事が出来たのか。
その理由を祖父は次のように語った。
「今、ブラットポップ彗星が300年振りに地球に接近しとるじゃろ?あれは吸血鬼の血を活性化させる波動を地球に送っておるんじゃ。だから血の弱い混血の間で吸血鬼の血に目覚める事例が相次いでおる。それで家族が心配になって電話をしたんじゃよ」
「そうだったの。お父さんは大丈夫だったのかな?」
「ああ、真っ先に電話したが、発現はしておらんかったよ」
「良かった」
私が安堵した表情をすると祖父は、寂しそうな顔で私を見る。
「吸血鬼も悪い事ばかりではないんじゃ。生涯の伴侶を間違いなく捜せるしの」
「生涯の伴侶?」
んん?
生涯の伴侶を捜せるって、何?
気になるワードが出たので私がジッと祖父を見つめると、彼は何故か頬を染めつつ、その内容について語り出した。
それは、とんでもない話しだった。
「吸血行為が生涯の伴侶を見つける行為なんじゃ」
「吸血行為が?それはどういう?」
吸血鬼が適齢期になると、その能力として伴侶の血の匂いを見つける事が出来るらしい。
まるで蜜蜂みたいに……?
そして生涯の伴侶を見つけた時、その匂いはもっとも好物の匂いになり、本能的に吸血行為に及、ぶ??
また、伴侶となる側の人間も吸血族が出す波動に引き寄せられるらしく、その吸血族に執着するようになる、ら、しい???
花に誘われる蝶々とか藪蚊みたいなもんだとか。
何だ、その迷惑な設定!?
「え?其れってまさか、お菓子の匂いとかも?意識が飛んだり?え、ええ?!」
「すでに覚えがあるのかの?それは目出度い事じゃ。なっはっはっはっはっはっ」
大笑いする祖父。
付け髭が斜めになるほどの黄門笑いだ。
その笑顔に一瞬殺意を感じた私は悪くない。
更に吸血行為は、お互いの血の受け渡しに続くもの。
吸血された伴侶は、吸血族の血を求めるようになり逆吸血行為に及ぶ。
そして吸血族の血を受け入れた人間は、多少の寿命延命と病気に強い生命力を手に入れるのだとか。
そういえば祖母は享年105歳だった。
因みに父は6人兄弟の末っ子……え、祖母は父を何歳で生んだの!?
伴侶の生命力も凄過ぎだよ!
嘗てはその寿命延命と病知らずの生命力を得る為、吸血族をめぐり人間同士の争いもあったとか。
血の受け渡しは伴侶でなくとも出来たからだそうだ。
元々劣性遺伝な吸血鬼覚醒。
その絶対数は限りなく少なく、希少性は計り知れない。
吸血鬼の奪い合いなんて想像来ないわ。
人間の欲望ってハンパない。
じゃ、なくて!
「いや、おじいさん。とんでもない事になってます。それと、その生涯の伴侶は一人とは限らないって事、あります?」
「そうさのう。確か公国では妻を二人、三人連れとる者もおったかのう。まさに両手に花かの。羨ましい限りじゃわい。ああ実はワシ、再婚したんじゃ。婆さん?十分尽くしたし結婚時にワシの寿命が長い事を伝えておったからの。万が一の時は再婚も構わないって一筆もらっとったよ。はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
クソじじい!
私は震える拳でこの能天気ジジィを殴りたかったが喫茶店内の為、さすがに踏みとどまった。
ただ、確認する事はもう一つある。
「その他に、吸血行為に及んだ相手に対しての効果は何かあるんですか?」
「ふむ、吸血された人間は吸血族を大事に思う気持ちが強くなる。まあ、浮気は出来んようになるのぉ。つまり一度血を交わした人間はその吸血族以外と結ばれる事は出来んという事じゃ。《吸血族の伴侶は愛が重い》という事じゃな。はっはっはっはっ」
ガタッ
「なんですって?!」
思わず席を立ち上がった私は、またマスターの暗黙な抗議を受けたがそれどころではない。
ジジィは最後にトンデモな爆弾を私に投げつけてきやがったのだ。
じゃあ何?
あの二人は今後、私以外の女性と結ばれる事が出来ないって事?
それって一生私は、あの二人に付き纏われるって事じゃない?!
「これで萌も逆ハーでウハウハじゃな。わしも今からハーレムを目指すのも良いかもじゃ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
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喫茶店を出た直後、私は思わずジジィをぶん殴っていた。
けどジジィは流石に吸血鬼。
吹っ飛ばしたが頑丈で、ニコニコと何食わぬ顔で横浜中華街に向かって行った。
土産に豚まんを買って帰るらしい。
因みにニンニクは大好物だそうだ。
変な吸血鬼だ。
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そして、冒頭に戻る。
「はぁ、このしつこさ、どうにもならないの?」
うう、でも私の吸血で二人は、こうなった訳だし、責任はとらなきゃいけないかも知れないけど日本は重婚は認められてないのよ?!
いや、その前に私の貞操感が崩壊しそう。
どうしたらいいのよ!!
プルルルル、プルルルル
「はい、萌です。あ?か、一樹?ん、元気よ。はい、え?東京に出て来てる?今日、会いたい?!いや、ま、待ってよ。部屋は散らかってるの。え?もう東京駅!?ちょ」
「はーい、第二夫の光太郎です。よろしく」
「私が第一夫の正信だ。君は第三夫になる」
「あんたら、うるさい!え?今の男の声は何?え、えーと、その」
「自称、未来のダンナ2号」
「ふ、私が1号だな」
「……………」
最悪だ。
完全に修羅場じゃない!
プルルルル
あ、別に着信?
好都合!
「ゴメン、一樹。キャッチ入ったからまた此方から掛けるね。ん、ん、後で説明する。じゃ、切るね!カチッ、はい?え、おじいちゃん??まだ日本に居るの?何か用?え、公国なら重婚は合法?!いらんわ、そんな説明!!」プツンっ
「萌ちゃ~ん、結婚しよ~」
「うむ、公国で家庭を築くのもいい。早速移住の許可を申請をしよう。明日は大使館だ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
もはや混沌を通り過ぎ私の未来は暗雲しかない。
普通に仕事をして、普通に恋をして、普通に田舎で晩年を過ごす予定が⋯⋯⋯。
「萌ちゃ〜ん」
「萌」
「…………もう、誰か、助けて~っ!!」
fin




