第4話
◆15年後現在
萌 視点
東京都内のマンション
ピピッピピッピピッピピッ
ガバッ
「!!?」
ピピッピピッピ、
ガチャンッ
シーン
「まったく………」
夢見が悪くてベッドから飛び起きた。
ボサボサになった髪の毛を上げ、鳴り響く目覚まし時計の頭を叩く。
「はあっ」
つい、ため息が出てしまう。
久しぶりに見た祖父とのある日の夢。
つい最近まで思い出す事は無かったけど、夢を見てまで思い出すなんてね。
まあ、見た理由は分かるけど……。
数日前に突然連絡を寄越したのは、何と10年前に死んだはずの祖父だった。
結局祖父は家族や親戚縁者を騙し、死んだ振りをしていただけだったという事実だ。
自身の秘密を隠す為に。
「当時子供だから判ってなかったけど、今冷静に考えればあの光景は異常だよね。やっぱりおじいちゃんが一族の能力を使ったんだわ」
そう、当時の祖父の背後にあったのはヒグマの頭部だった。
それの虚ろな瞳は、今だ私のトラウマになっているみたいだ。
その時祖父は、恐らく襲ってきたヒグマを返り討ちにしたのだろう。
そして10年前の祖父の葬儀。
死を偽装した祖父は、家族にも内緒で自分の母国トランシルバニア公国に帰っていた。
向こうに別の家族を作って?
そうして隠とんしてた祖父。
なんだけど、今回私に再会した理由が自身の秘密である一族の血が私に発現した事に気づいた為に急遽現れたという事実だ。
一族の詳細を伝え、今後の生き方を私に覚悟させる為に。
「はあ、だったら、もっと早くに言ってよ……」
ジャーッカチャカチャ
「萌ちゃ~ん。卵焼き出来たよ~。甘く甘く作ったからね~」
「馬鹿か、お前は?萌は甘いものは嫌いなんだ。まだ、判らんのか?」
「何だよーっ先輩。また、しょっぱい味噌汁作ったでしょ!塩分取りすぎなんだよー」
「馬鹿め、味噌汁は昔からしょっぱいのが定番って決まっている」
「……………」
賃貸ワンルームマンションの窮屈なキッチン。
そこで大柄な男が二人、朝食を作りながら言い合いをしてる。
この二人、勝手に私のマンションに住み着いたばかりか、私の婚約者気取りでスッカリ居座ってしまった。
もちろん、その理由は判ってる。
全ては私の血のせいなのだ。
❇❇❇❇❇❇❇
「おじいちゃんは死んだんじゃ無くて皆んなを騙してた?それで私は彗星の波動で身体が変化してるって???それに気づいたおじいちゃんがわざわざ教えに来たって話、それで合ってる?」
「だいだいはそうじゃの」
「な、んなのよ、それ⋯⋯⋯⋯」
喫茶店のテーブルに頭を抱えて突っ伏した私は多分マトモな方だろう。
喚き散らかさないだけマシというものだ。
喫茶店マスターから軽蔑の眼差しを感じたが、死んだと思っていた祖父からの衝撃的告白に平常心を保とうと必死に努力しているのだ。
多少の無作法は許して欲しい。
「そんな物語に出てくるような生き物、現実に居るわけ無いわ」
「非常に言いにくいが今の萌がそうじゃ」
「言いにくいどころかストレートだよね?そんな物語に出てくる生き物に私がなったって、そう今言い切ったよね?!」
「思い当たる事があったようじゃな」
「⋯⋯⋯!!」
思い当たる事と言えば先日のアレだ。
未だに夢を見てると思いたいが目撃者が二人もいるし、実際に折れ曲ったベッドは使い物にならない。
だけど世の中には《火事場のクソ力》って言葉もあるし、図々しい変態二人に私がブチ切れて潜在能力を披露したとも言えないだろうか?
おじいちゃんの話はあまりに荒唐無稽だし、むしろ《火事場のクソ力》云々の方が説得力があるような気がする。
ただ、どうしてもスルー出来ないのは目の前の祖父の存在だ。
改めて見たら目の前のおじいちゃんは亡くなる直前の十年前より若い感じがする。
特殊メイクをしてたという事なら理解出来るが、解せないのは十年前時点での祖父の年齢だ。
おじいちゃんは十年前で115歳だったはず。
110歳までスーパーカブで近所を走り回って、どんだけ元気な百歳だよって騒がれてた時期もあったくらい。
だけと目の前の祖父はとてもそんな年齢には見えない。
むしろ若返ったと言ってもおかしくないだろう。
客観的に見ると明らかに同一人物には見えないのだが、それなのに私は何故か目の前の人物を受け入れてしまっているのも不思議だ。
何故変に思わなかったのか?
それは多分目の前のおじいちゃんの姿が、私が幼い頃に一番長く接していた時の姿に近いからかも知れない。
私は幼い頃おじいちゃん子だった。
母が臥せりがちで、私の面倒の殆どをおじいちゃんが担っていた時期があったのだ。
でもそれも私が中学に入ると両親は旭川から札幌に移り、おじいちゃんとは疎遠になっていった。
そして高校から寄宿舎のある仙台の学校に入ってエスカレーター式に東京の大学に入ると、実家に帰るのも年に数回になって、尚更おじいちゃんに会うのも少なくなっていたのだ。
その後の印象は会うたびに老け込んで見えたし、最後は腰が曲ってマトモな姿勢は取れ無かったように記憶している。
それがどうだろう。
今私が認識している祖父はスラッと背が伸びていて自分の幼い頃に接してくれた当時のまま。
ううん、違うな。
むしろ若返っているー?!
格好も昔のおじいちゃんらしくなく派手。
白のシルクハットに杖。
白手袋に上下白のブランド物スーツでキメていて、何処ぞの富豪な老紳士にしか見えない。
麦わら帽子の田舎ラテンおじいちゃんが、ダンディチョイ悪ジジィになって帰ってきた感じだ。
待て待て!?
この人を私の知っているおじいちゃんだとしたら、過去に見せていた姿や素振りは演技だった事になる。
全て演技だったとすれば、それは私達やおばあちゃんに対してどうなのだろう?
「アナタは本当に私のおじいちゃんかな?何か受け入れておいておかしな事だけど、年齢と見た目にかなりのギャップがあるんだけど」
「ほっほっほっほっ、どこから見てもわしは萌のおじいさんじゃよ。ただ年齢を偽っていただけじゃがな」
「年齢を偽っていた?私達と暮らしてた時から全て偽っていたのじゃなく?」
「どうやら誤解があるようじゃが、わしが特殊な一族だという事は信子さんも進次郎も皆んな知っとたぞ」
「は、い?」
今の二人は間違いなく私の両親。
信子母さんに進次郎父さんだ。
おじいちゃんの実子は父さんだが、その名前を知っているなら祖父で間違いない⋯⋯。
ええっ、もしかして知らぬは私だったとか?!
「もちろん美代子もそうじゃ。ちゃんと教えとったわい」
「ええっ、おばあちゃんも知ってたの?!」
11年前に亡くなった私の美代子おばあちゃん。
大変仲が良かったから1年後におじいちゃんが亡くなったと聞いた時、おばあちゃんの後を追いかけて亡くなったんじゃんて、家族で話したこともあったっけ。
「とにかくじゃ。わしの話を信じるしかないぞ。さもなければ萌のこれからの人生、波乱万丈になるやもしれぬからの」
「何か私、祖父から脅されてる?」
「脅してはおらん。現実を見よと言いたいだけじゃ。わしの話をまだ信じてはおらんじゃろ?」
「作り話だよ。今は昼間で日差しがサンサンと照りつけてる。その種族は日の光を受けると灰になるはずでしょ?なのに私やおじいちゃんは平気じゃない。第一おじいちゃん、実家でこれでもかって日焼けしてラテン系だったじゃん」
そうなのだ。
元々ナーロッパにルーツを持ってたおじいちゃん。
深い彫りに黒く焼けた肌は、麦わら帽子が似合うラテン系だった。
今は色白で北欧系が強過ぎるくらいか。
その変わり身の見事さは賞賛に値すると思う。
あれ?
こんなに違うのに私、おじいちゃんだと何故認識出来てるんだろう。
冷静に振り返ると不思議でならないわ。
「仕方ないのぅ。更に時間をかけて孫を説得せんとならんかの」
それから祖父から聞いた話は、とても信じられない事だった。
つまり結論から言おう。
祖父は吸血鬼の一族だったのだ。




