表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼は血の気が多い!(手直し連載版)  作者: 無限飛行


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

第3話












◆15年前

北海道旭川



地平線が見えるかと思われるほど広いジャガイモ畑の左手、雑木林がある一角。

其処に向かう人影が二つ。


麦わら帽子のを被る老人。

そして老人が繋ぐ手の先には、赤いワンピースの小さな女の子の姿がある。

どうやら、その雑木林に向かっているようだ。



「じいちゃん、どこまでいくの?」

「はっはっはっはっ。実はな、これから行く場所はワシが皆に秘密にしとる場所じゃ」

「秘密の場所?」

「ああ、いつか萌にプレゼントしようと思っての。密かに開墾した果樹園があるんじゃ。じゃから今日、特別に萌に見せる。まだ他の皆にはナイショじゃぞ。いいか?」

「うん」



ガサガサガサッ



「わあああ?!」


二人が雑木林を抜けると、その先にあるのは小さな広場いっぱいに広がる果樹園。

女の子は雑木林の先の光景に思わず声を上げた。


林檎にブルーベリー、梨や柿にサクランボ。

キュウイフルーツに蜜柑、グレープフルーツに葡萄まで。

それは全く不思議な光景だった。


季節は初夏。

およそ果樹と云われるものは全部あり、収穫時期に違いがある筈のものが皆一通りの実を付けていて、広場は様々な匂いていっぱいだった。


それは伝説の桃源郷の様。

異常気象が常態化した昨今であるが、だからこそ全ての果実が実るこの地の異常さは特に際立っているともいえた。



「どうじゃ、凄かろう?」

「うん、素敵!」

「素敵か。はっはっはっはっ。そうじゃろう、そうじゃろう。ここはな、萌、お前さんのもんじゃ」

「あたし、の、もの?」

「そうじゃ。それとな、ここにはワシと萌、あと、お前のお父さんしか来れん」

「どうして?お母さんは?」

「おお、言い方が間違いじゃな。お母さんは萌と一緒なら大丈夫じゃ」

「良かった。お母さんにもここを見せたかったから」

「はっはっはっはっ、萌はお母さん、大好きじゃな」

「大好きだよ。お父さんも、そしてお爺さんも」

「そうかそうか。嬉しいいのぉ。わっはっはっはっ。なら、お母さんにお土産じゃ。好きなだけ、籠に取ってきなさい」

「わあぁーい!」


タッタッタッタッタッ



お爺さんの許可に喜び果樹園へ駆け出す少女。

ブルーベリーを皮切りに次々に採取していく。

籠は僅かな時間で一杯になった。

子供は置き籠で採取したようで、山ほど入った籠を必死に持ち上げようとするが上がらないようだ。


「お爺さーん、重ーい!」


両手で必死に籠を持ち、お爺さんを呼ぶ女の子。

女の子は手に届く果実を採取したのだが、簡単に取れる位置にある果実が多かった。

その為、子供でも短時間で籠を一杯に出来た様である。



お爺さんは孫と思われる女の子に近づくと、その籠を片手で軽々と持ち上げた。


幼い子供が集めたとはいえ、地面に置き籠して入るだけの果実を入れた籠だ。

いかに大人でも持ち上げには一苦労するレベルである。

それを見るからに高齢な年寄が、しかも片手で持ち上げている。


その光景は極めて異質に見えたが、幼い女の子にソレ(異質)が解るわけもない。



「はっはっはっはっ、随分と頑張ったのぅ」

「お爺さん、力持ち?」

「大人は力持ちじゃ」

「凄ーい」

「はっはっはっ、チョチョイのチョイじゃ。萌、それじゃ帰ろうか。遅くなるとお母さんが心配するからの」

「はーい」



そして二人は帰路についた。


秘密の桃源郷。

その雑木林を後にして。


遠目に見える住宅街に意気揚々として帰っていく。





だが、その帰路でアクシデントが発生する。





ここは旭川市郊外の耕作地帯。

二人の居る場所はその外れにある雑木林だった。


この旭川市も長年の少子高齢化は市政に影響を及ぼすほどに達しており人口減が進んでいる。

一年前に政府が移民制度を決定したとはいえ、すぐに人口を増やす事は簡単ではない。

外国人移住者と現住民との付き合い方で、揉める事も少なくないからだ。


その為空き家が増えて《《獣が増えた》》。

つまり、獣と町の境が希薄になったのだ。



ガサガサッ



そして北海道と云えばヒグマである。

ヒグマ、クマ科では最大の体長を誇る。

また、日本に生息する獣としても最大級。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

成獣体重600 kg。

平均体長2・4メートル。

速度56km/h

食性、雑食性 。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


国内最大の獣、それがヒグマ。

一度対峙すれば、素手で人間が立ち向かえる訳もない。



ガサッガサガサッ


『ゴフッゴフッゴフッ』



突如現れたソレは焦げ茶色の巨体。

熊笹の中から現れ匂いを嗅いだ。

それは獣の大好きな匂い。

匂いの元を探り出す。


ふと見上げれば、その獣の目に映るのは、かなり先にいる二人の姿。

明らかに匂いの出所に違いなかった。



「むっ」

「お爺さん、どうしたの?」



突然、立ち止まったお爺さん、不思議がる少女にニッコリと笑った。



「なに、ネズミが現れたみたいじゃ。まあ、ワシが居るから大丈夫じゃよ」

「ネズミ?見たい!」

「今は駄目じゃ。遅くなるとお母さんに怒られるじゃろ」

「あ、うん」

「良い子じゃ。早く帰ろう」



老人は何かの存在に気づいている様だった。

だが、何故か脅威に感じていない。


そのまま後ろも振り返らず、家路を歩いて行く二人。



ダッダッダッダッダッ

『ガァウ!』



だが、その獣がご馳走(果実)を見逃す筈もない。

二人を全力で追って、その後ろ姿に飛び掛かった。


流石に背後の気配に気づく女の子。

彼女が後を見返す刹那、お爺さんの空いていた左手がブレた。


ブンッ

ドカァアッ


「ひっ??!」



何かが大きく弾かれる音がした。

女の子は何事が起きたのか判らず身を竦める。



「お、お爺さ、ん!?」

「何じゃ、萌?」

「い、今、凄い、音、が」

「ああ、何か飛んで来たから、お爺さんが吹っ飛ばしたんじゃ」

「っ、何を??」

「判らん。じゃが、危険はないからの」

「う、うん」




お爺さんの言葉に、何故か反論出来ない女の子。

本当は色々と聞きたい事があった。



でも、聞けなかった。



何故ならお爺さんの背後から、並々ならぬ雰囲気が伝わるからだ。



そう。

お爺さんの背後。

そのアスファルトにある赤い水溜まり。


その先に転がる、真っ赤なサッカーボール大の毛むくじゃらの何か。

しかもお爺さんは左手を隠しているつもりなのだが、僅かに見える手からは、赤い何かが滴り落ちていた。


それは少女の、これ迄歩んできた人生の中で初めて遭遇した、日常から逸脱した情景。


つまり少女が言葉を飲み込むのに、十分過ぎる状況だったと云えるからだ。



こうして二人は、何事もなく家路を帰った。





幼い少女に軽いトラウマを残して。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ