第2話
次の日、私は会社を休んだ。
新人研修後の歓迎会翌日に休む新人、使えないレッテルを貼られかねない案件だ。
真面目一筋できた私にとって、それは耐え難い苦痛だったが正直、今はそんなもの吹き飛んでしまった。
なんでこんな事になっているのか。
本当に誰か説明してほしい。
何でかって?
それは今私の目の前が、あり得ない状況にある、からだ。
ここは私の自室。
そして私は自分のベッドに、全裸で??寝て、いたようだ……???
私は普段パジャマを着て寝ている筈。
まして全裸で寝るなど到底考えられない事だ。
が、とりあえず自室のベッドだし、そこまでは《《よし》》としよう。
けどさぁ、何で私のベッドに全裸の男が二人、私を囲んで寝てるの?
全く理解できないんだけど!
おまけに私の首筋から胸のアチコチに二人の嚙み痕がある!?
あ、なんか腹が立ってきた。
「あんたら、とっとと起きんかい!」
バカァンッ
「「うわあああっ!?」」
へ?
ベッドを叩いたら、ベッドが真っ二つに割れたよ?
え、ええ?!
一体、何がどうなってるの?
「な、何?腐食でもしてたわけ?」
「萌ちゃん~っ、酷いよーっ」
「未来のダンナに酷い仕打ちだ」
酷くない。
酷いのはアンタラだ。
誰が誰の未来のダンナだ!
私は混乱する頭の中でシーツで身体を隠しながら二人の全裸男に対峙する。
たぶん今私は、真っ赤に震えながら怒っているだろう。
よくも私にこんな事を。
絶対に許さない。
「二人供!酷いです。私が酔って正体不明になったところを勢いで襲うなんてーっ!ぜーっ対に許さない!」
私の言葉に、何故かキョトンとしている二人。
はい?
人を襲っておきながら、その態度は何!?
自称御曹司のくそ野郎が頬を掻き、明後日の方向を見ながら口を開く。
「あ~っ、その、萌ちゃん?混乱してるとこ悪いけど、最初に襲ってきたの、萌ちゃんだから」
「はあ!?」
いうに事欠いて何言ってんだ、コイツ。
ふざけてんのか?
「あーっ確かに、最終的に君の好意を受け入れてしまったのは、その、すまない。だが、私は断じて君を襲ってはいない。あ、なんだな、やはり君に襲われた、というか……」
おい、オールバック、何言ってんだ!?
いや、今は寝癖グシャグシャ細メガネ。
「先輩、仮に私が二人を襲ったとして、大人の男性二人、女の身の私が襲えるとでも?」
「ああ、普通はそうなんだが、あの時の君は力が凄くてね。その、なんだ。抗う事が出来なくってね…⋯」
おい、そこのくそメガネ。
本気で言ってんのか。
あと何、乙女チックに身悶えてんだ。
そんな常識外れな事、あるわけ……ん?
「そうだよ萌ちゃん。さっきだって、ベッドを叩き割ったじゃない」
自称がなんか言ってるが、ベッド?
確かにベッドを叩いた事は認めるけど、あれは古くて腐ってたからじゃないの?
私は男どもをベッドから退かし、自身から離れる様に指示。
二人は慌てて床に散乱してた自分達の服を集め、身に纏い始める。
ちょっ、私の服まで集めてどーするのよ!?
「そこ!どさくさに私の下着や衣類まで集めない!ブラやショールは椅子に置く。それで隣の部屋に出て行って!」
私は二人を部屋から追い出すと、改めてベッドを見直した。
ベッドは見事にへし折れていたが、骨組みは木ではなく鋼鉄製。
その鋼鉄の骨組みが私が叩いたと思われるところから明らかに折れ曲がっている。
錆びて腐食してたから折れ曲がった??
と思ったが、改めて考えてみればベッドは最近買ったまっさらな新品。
先月の連休にイケヤで選んだ北欧デザインの優れものだ。
じゃあ何で?とよく見てみれば、折れ曲ってる箇所はツヤツヤの金属面。
明らかに有り得ない力により折れ曲っているー?
いやいや無い無い有り得ない。
マッチョ筋肉女なら僅かな可能性もあっただろうが、私はコピー用紙の束すらやっとこさのデビューしたてなオフィスレディ。
私は辺りを見回して、置いてあったステンレス製マグカップを片手に持った。
そして軽くマグカップを握ってみる。
パコンッ「きゃ!??」
マグカップは僅かな力にも関わらず簡単に潰れてしまった。
そう、まるで紙製みたいにぺったんこに⋯⋯。
その後に訪れる暫しの静寂。
私は唖然として、マグカップの成れの果てを見て立ち尽くす。
ふと、人の気配に無意識に視線を移すと、いつの間にか部屋に戻っていた二人の男。
彼らも目を見開き、口を開けたままフリーズだ。
「な、にが、起きて、るの?」
ペタンッ
私はシーツを纏った状態で、その場に座り込んでしまった。
二人が頷きあって、私に上着を掛けてくれたけど訳が判らない。
数分ぐらいだろうか?
私が我に返ると、二人はずっと側にいてくれたようで、左右に一緒にしゃがんで待っていた。
「ご、御免なさい、二人とも。今日は帰ってくれる?」
私はなんとか声を絞り出して言った。
二人はお互いを見合せると、頷き合って出て行った。
そして再び訪れる静寂。
訳が分からない。
私は夢でも見ているのだろうか。
プルプル、プルプル、プルプル
びくっ
突然の音に肩が跳ねてビックリする。
スマホの着信音だった。
うう、今は出たくないと思ったけど、この着信音は家族指定。
それも懐かしの着メロだ。
でも、おかしい。
あり得ない。
だってこの着信音は大好きだったあの人の好きな曲⋯⋯⋯。
恐る恐るスマホを取る。
震える指で画面を押した。
ピッ
「⋯⋯⋯⋯も、もしもし?、え、は?!?」
❇❇❇❇❇❇
翌日。
ここはとある東京タワー近くの喫茶店。
私はここで、ある人と会う約束で来ていた。
チリンッチリンッ
「いらっしゃい」
「連れが先に来てるのでね。ああ、あの席だ」
その懐かしい人は、たった今店に入って来てマスターと会話していた。
懐かしい、とても懐かしい声が背後でする。
でも、あり得ないのに。
それでも私の気持ちは、何故かすんなりと其れを受け入れてしまえるくらい冷静だった。
「待たせたな、萌」
正面の座席に座ったその人は、私が最後に記憶している懐かしい姿のまま。
今まさに立っていた。
涙が止まらない。
「⋯⋯⋯おじいちゃん」
そう。
其処に立っていた人物は10年前に亡くなったはずの私の祖父、愛川源十郎その人だったのだ。




