第1話 彗星の贈り物は迷惑です。
「君の口唇は美しい。真っ赤な血のようだ。食べてしまいたい」
また、こんの男は、はぁ
「あんた、前から言ってるでしょ!そうやって歯の浮くような台詞を吐くんじゃあなぁーい!!」
どすぅっ!
「はう?!さ、流石、僕の奥さん。見事にミゾオチに入れるとは…ぐはっ」
「誰が奥さんだ、誰がぁ!」
私は馬鹿な事を言うボケ男を蹴り飛ばす。
男は私の蹴りに壁にめり込んだ。
あ、やり過ぎた。
またコイツ、全治3ヶ月やん!
「ふ、流石、我が婚約者。殺ることがハンパない」
「お前も、勝手に人を《婚約者》にするなぁ?!それに殺ってなぁい!!」
ドカァッ
「ぐはぁっ、良いパンチだっ!そして今日も君のパンチラは白でステキだ~っ」
「ぎゃっ、いつの間に見た、この変態?!」
男は私のパンチで飛んで行きなから、私の個人情報をオープンにしやがった。
この変態、いい加減にして!
「はあっ」
最近はこうやって溜息の出る毎日。
どーして、こうなっちゃったかな。
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私の名前は、愛川 萌。
23歳。
都内の中堅商社に勤める、ただのOLよ。
幼馴染みの彼氏がいる。
中学、高校と一緒。
遠距離恋愛中。
『ああ、萌。そっちは変わりない?俺の方も大丈夫だ。また、じゃが芋と玉ねぎ、最高のものが出来たから送るよ。6月には一度、そっちに行くから待っていてくれ。それじゃ、また掛けるよ。愛してる。おやすみ』
「おやすみなさい、一樹」
私の彼氏、遠藤一樹。
高校卒業後、北海道の実家の農家を継いだ。
私は卒業と同時に都内の大学に進学し、そのままこっちで就職した。
隣農場近所で幼なじみの一樹。
彼とは高校時代から付き合っていて、大学を卒業したら地元に戻るつもりだったけど、其れなりの大学を出たので一度は其れなりの企業に勤めたいと彼を説得。
都内の某中堅商社に就職したのだ。
まあ、大学を出た私の意地かな。
ある程度結果が残せたら地元に戻るつもり。
それに今の会社でも北海道支社がありインターン制度もある。
来年には応募するつもりだし。
そう、思っていたんだよね………。
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「やあ、僕は財閥の御曹司、眉墨 光太郎だよ。こうちゃんって呼んで。萌えちゃん」
「は、はあ?」
初対面でいきなり自身の愛称呼びを要求?
って、いうか普通、自分で自分の事を財閥の御曹司って言わないよね?!
この馴れ馴れしいのは、社会勉強と称して私の同期として入社した文字通り自称、眉墨財閥の御曹司、眉墨 光太郎。
新人研修から事あるごとに、やたら接してくるウザい奴。
髪の毛は茶髪ロング、服装は上下別の超ブランドブレザーを着ていてめちゃくちゃチャラい。
「私は田岡正信という。君の一つ先輩になる。宜しく頼む」
「判りました田岡先輩。その、近いです。もう少し下がって下さい」
この人は一期先輩で新人研修の講師を勤め、私が入社した田岡物産(株)の会長さんの長男にして次期社長、田岡 正信さん。
ビシッとしたブランドビジネススーツ、オールバックで細メガネ。
一見、礼儀正しいのだが、やたら密着スキンシップをとる真性のセクハラ男だ。
「ふむ、いいだろう。次回の楽しみに取っておこう」
「何を取って置くのか知りませんが、冷凍庫に忘れて後で捨てて下さい」
「あ~っ田岡先輩、萌ちゃんに近い近い。間に僕が入れないじゃない」
田岡さんと話していると、自称御曹司の光太郎が間に入ってくる。
私は最近、こうして二人に挟まれる事が日課になってしまった。
しかも二人とも部署が違うのに、毎日私の部署に入り浸っている。
だけど誰も指摘出来ない。
何故なら二人共、前段で説明したように財閥の息子と次期社長なのだ。
普通の社員が何か言える訳がない。
直属の課長が新聞に二つ穴を空け、私に何とかしろ、って無言の圧を掛け続ける。
いや、私にどうしろと?
「ふ、貴様は命じられた仕事が終わってないだろう。半人前に萌に近づく権利はない」
「そんなもの僕に関係ないね。アンタこそ職権乱用じゃないの?萌ちゃん、嫌がってんだからどっか行ってよ」
田岡先輩は細メガネをクイッと上げると、自称御曹司の光太郎に言った。
対して御曹司は、しらっと職場放棄を公然と宣言して……?
は!?
何気にスルーしてたけど、御曹司がさっきから、ちゃん付けで私を名前呼びしてた?!
田岡先輩も使ってたよね?
私、名前を教えてないよね??
私の個人情報、只漏れなの???
「あの田岡先輩、眉墨さん、二人共勝手に私の名前呼びしないで下さい。何で知ってるんですか?!あと、先輩はもっと離れて!」
「大切な社員のプライベート空間は私が直接守ると決めている。これが我社の社訓だ」
「横暴だ!そんな社訓無かったよ。萌ちゃん、騙されちゃ駄目だ!」
思わず私は頭を抱えた。
二人共私の話を全く聞いてない。
それにそんな社訓があったら、完全にセクハラ会社じゃん?!
最初から就職なんかしないわよ。
あと御曹司、どさくさに腰を触らない!
これが最近の私の職場風景。
この二人のせいで私は、職場の全員に煙たがられる存在となってしまった。
これじゃあ昔の昼ドラみたいじゃない!
はあ、私のビジネスライフ、これからどうなっちゃうの?
◆◇◇◇
◇新入社員歓迎会当日
PM21時
職場の新入社員歓迎会は恙無く進み、予定時刻で閉会となった。
「ところで萌ちゃん、もしかしてハーフ?なんか目が赤いよね?肌もかなり色白だし」
「ああ、おじいさんがナーロッパのトランシルバニア公国出身なんです。親の代はあまり出なかったんですけど、隔世遺伝ってやつですかね」
「なるほど、だからこんなに美人なのか」
「いや普通ですけど。あの、先輩?また、近いです!」
この二人、新入社員歓迎会終了と同時に私を送ると言い出して、入居している独身寮までついてくると聞かず、三人でここまで歩いてきていた。
私を真ん中にして。
「あーっ、また先輩、僕の萌ちゃんにくっついてる。もっと離れなよ!」
「適切に距離を保っている。指摘される云われは無い」
「あの、先輩?ソレ、先輩の主観です」
いや、誰が《《僕の》》なの?!
肩をくっ付けておいて、適切に距離を保ってる?
駄目だわこの人達。
もう、はっきり言った方がいいわね!
「あの、私、北海道に彼氏がいるんです。来年には地元に戻るつもりなんで」
「そっか、じゃあ、あと一年もあるんだ」
光太郎は手のひらの指を折って何かを数え始める。おい自称御曹司、何数えてんだ?
「ふ、障害があれば燃えるものだしな」
おいセクハラ先輩、何を燃やしてんだ?
駄目だコイツら。
私の話を理解できないのか、各々自分勝手な事を考えてる。
何を言っても聞く耳が無いわ。
「はぁ……」
私は大きな溜め息をして、何気に空を仰いだ。
今夜の天気は曇り。
空には雨雲が立ち込め、月も星も見えない………っ筈なんだけど、あれ?
赤く尾を引く流れ星が見える………ん?
えっ、何あの赤い星??
流れ星にしてはちょっとデカイ???
ドクンッ
「え!?」
何?
急に身体が熱い?
「ああ、萌えちゃん。今夜は晴れてれば特別な夜だったんだけど、ちょっと残念だったよね。曇っちゃったから」
自称御曹司が私の真似して、夜空を見上げながら言った。
彗星?一体、なんの話しよ?
うっ、目眩がする。
今更酔いが回った?
「彗星、300年振りのブラットポップ彗星だったか」
先輩が何か言った。
300年前のポップコーン?
食える訳ないでしょ。
話しが見えない。
なんか苦しい。
喉が無性に渇くんだけど。
あれ?でも何かスッゴい美味しい匂いが辺りからする。
うわぁ、なんか私の好物の白い恋人クッキーかな?!
食べたい、食べたい!
「萌ちゃん、目が据わってない?突然どうしたの?」
「萌、急に、せ、積極的だな。うおっ!?」
「萌ちゃん??!!」
頂きマース!
ブシュッ




