表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

幕間-1 澪と蛍①


『夜遅くにごめんね。明日、時間作れないかな?』


 澪は電車を待つ合間に、蛍に向けて一通のメッセージを送った。

 場当たりの勢いではあったものの、どうにか朔と話すことが出来て謝ることもちゃんとできた澪には、まだ清算しなければならないことがあった。


(蛍にも今日のこと――ちゃんと謝らないと)


 それは――朔に会いに行く前に起きてしまった、ささやかな亀裂。

 多分初めて、私が蛍を否定してしまったことを。





 ――時は少し戻り、放課後のこと。


「……はあ」


 クラスの子たちとの談笑を早々と切り上げて、荷物を取りに戻った私は、机に手をついたままため息をついた。


(小鳥遊くん……また、おんなじこと言ってたな)


 全部自分のせいだとか、誤解させてしまったとか。

 ああいう言葉を彼の口から聞いたのは、今日が初めてのことじゃない。

 まだ入学して一か月ほどだけれど、既に三回は似たようなことがあった。


 一回目は入学初日。

 二回目はそれから数日後。

 そして――三回目は学年集会で。


 どれも彼が特段、何かしたわけじゃない。

 でも――見た目や人相だけで不良だと決めつけられていた彼の印象は、どんどん悪くなっていった。

 妙な噂が流れれば真っ先に疑われ、みんなの目の前で先生たちに呼びつけられることも多かった。

 そして――彼のイメージが『問題児』に定着するまで、そう時間はかからなかった。


 周りと少し違う、ただそれだけの理由で悪意が集まってしまう。

 私にはそれが、酷く歪で気持ち悪いものだと思った。

 大して知りもしない人のことを――それもクラスメイトを、どうしてそんな風に思ってしまうのかが、私にはわからなかった。


 でも――それ以上に分からなかったのは、否定しないでそれを受け入れている小鳥遊くんだ。

 なんで言われっぱなしでいるのか。

 どうして平気な顔で、辛い道を選んでしまうのか。

 私はそれがたまらなく気になった。

 そして――私は、時々彼に話しかけるようになった。


 彼が優しい人なのは、声ですぐにわかった。

 そして同時に――彼が何かに怯え、一線を引いていることもなんとなく気づいた。

 だから今日の彼の反応は、不謹慎だとわかってるけど嬉しかった。

 

 それ故に。

 彼に同じことを言わせてしまった私をどうしても許せない。

 半日経っても罪悪感が薄れることはない。

 ため息をついたところで結果は変わらない。

 私は、彼を傷つけてしまったのだ。


「でも、どうしたらいいんだろう……」


 小鳥遊くんがどう思っているかに関わらず、今日のことは謝るべきなのはわかっているけど。

 それが返って逆効果になってしまうかもと考えると、謝ることが最善には思えなかった。

 でも――今のままで過ごすのは、絶対に無理。

 絶対に気になっちゃうし、なんとなく気まずいから。


「うーっ、でもなぁ……でもぉ……」


 考えれば考えるほど最善ではないと思う一方で、それでも謝りたいという意思も消えるわけじゃないから余計にもやもやしてしまう。

 頭が痛くなってきて、必死に答えを出そうと私が頭を抱えて悶えていると。


「澪……? どうしたの?」


 机で悶える私のそばに、蛍ちゃんが来て声をかけてきた。


「蛍ちゃん……? 先生に呼ばれてたんじゃなかった?」

「ええ、でももう片付いたわ」

「そうなんだ。――今日、塾はあるの?」

「ううん、今日は休校日だからオフなの。だから澪と帰ろうかなって思って声をかけたのだけれど、何かあった?」

「えっ、な、なんでわかったの!?」


 私がびっくりした反応をすると、蛍は少しだけ悩むそぶりをした。

 なんでだろうと私が首を傾げてしばらくすると、蛍はまあいいかという顔をして。


「澪は頭を抱えながら、小鳥遊くんの机で悶えてたから」

「………………へっ?」


 蛍からの言葉に、私は素っ頓狂な声を出した。

 そんなことあるわけがないと思っていたからだ。だってここは私の席で――

 そう思ってよく凝視すると。

 目の前には机が一つ。視界の左には何もなく、逆に右には見慣れた肌色のカバンが机に置かれて。

 そしてそこにそれを置いたのは、まぎれもない私で――


「わあぁっ!?」


 そこでようやく、自分がどこで悶えていたのかを認識した。

 あろうことに小鳥遊くんの席で、小鳥遊くんが普段ご飯を食べたりしているところに自分の顔をうずめていたなんて――そんな、そんなの!?


「澪、間違いは誰にだってあると思うわ」

「ほ、蛍ちゃん!」


 いつも優しく声をかけてくれる蛍の言葉は、この時だけはナイフで刺されたと思うくらい痛い!

 たまらず声を上げてしまうと、蛍は小さく笑ってごめんと私の頭を撫でた。

 ご機嫌を取られているみたいだと思って、少しむすっとしたけれど自業自得と言われてしまえばそれまで。

 私はその撫でを不服ながらに受け入れた。


「それで? 何があったの?」

「大したことじゃないの。ただ、小鳥遊くんに謝るべきかを悩んでて」


 蛍の言葉に頷きながら、私は帰りの身支度を始めた。

 このもやもやを吐き出してしまえば、少しは楽になるかもしれない――そう思って、口を開こうとした、そのとき。


 視線を感じた。


 顔を上げると、蛍がこちらを見ていた。

 さっきまでと同じはずなのに、どこか違う。


「……? どうかしたの?」


 聞くと、蛍はすぐには答えなかった。

 右手で、左腕をそっとさする。


 癖、というより――落ち着かせているみたいな、仕草。


 言いにくいことがあるときの、蛍の沈黙だ。


「……蛍ちゃん?」


 もう一度呼ぶと、蛍は小さく息を吐いた。

 それから、まっすぐ私を見る。


 逃げないように、確かめるみたいに。


「ねえ、澪」


 一拍。

 ほんの少しの間なのに、やけに長く感じた。


「彼に関わろうとするのは――」


 そこで、言葉が途切れる。

 迷ってる。

 少なくとも私にはそう見えて。

 それでも、言うべきだと自分に言い聞かせているみたいだった。


 これは、聞くべきじゃない。

 聞いてしまったら最後、何かが崩れる気がする。

 私がそう思った瞬間と同時に。


「もう、やめた方がいいわ」


 静かな声だった。

 強くもなく、冷たくもなく。

 でも――否定の余地がないくらい、はっきりしていた。


(……ぁ)


 胸の奥が、ひどくざわつく。


「……え?」


 思わず、間の抜けた声が出る。

 意味はわかる。

 でも――理解したくなくて、頭が追いつかない。


「どうして――」


 無意識に言いかけて、止まる。

 蛍の表情が、とても辛そうだったから。

 今にも目を背けそうな顔でありながら、私から視線を逸らさない。

 

 いつだって正しくて、憧れだった彼女は。

 

 ただ静かに、私を見ていた。

更新頻度は遅くて申し訳ございません。(ちょくちょく全体の修正したりはしてたので許して……)


今回は幕間、すなわち『澪』視点です。

幕間-1というタイトルでお察しかと思いますが、これ数話ほど続きます。


なんでこの形にしたのかというと

7話を書くのはむず過ぎて土台がないと無理だこりゃとなったからです。

詰め込み過ぎ、良くない。

一歩一歩進んでいくことの大事さを痛感しましたね、、、小説は難しい。


頻度は頑張りますが、仕事がバタついているので気長に待ってくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ