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4話 小鳥遊と小花④

「何ボケっとしてんのよっ」

「あだっ!?」


 惚けていた朔は、母の祐奈に背中を引っぱたかれた衝撃で前によろけ、困惑するように振り返る。

 母さんはふんすと腕組をしたまま、まるでやることやんなさいという言わんばかりの圧を向けてきていた。


(んなこと言われても――どうしろと!?)


 そもそもここに彼女がいることを飲み込むのにも手一杯なのに、その本人から奢ります宣言までされて頭ん中がちんぷんかんぷんだ。


「小花さんー、ご注文通り朔のことは連れてきたから遠慮せず借りてっちゃってね。長居しても全然おっけーだから」

「は、はいっ……ありがとうございます!」


 そう言ってうちの母に小花さんが頭を下げると、母さんは軽く手を振って俺に一瞥を向けてきた。

 にこりともせず、ただ見てきただけなのだが。


 ……これ、逃げたら終わるやつだ。


 それだけははっきりと理解できて、背筋が凍るような感覚を身体がびくっとさせた。

 朔は冷や汗を額に滲ませながらキッチンの方に戻っていく母さんを視線で見送ったあと。

 気まずさを抱えたまま、横目で小花さんを見た。

 下げた頭は既に上がっていたがどこか表情が強張っているように見え、目もなんだか泳いでいた。

 そして偶然互いの視線が合った時、俺も小花さんも反射的に目を逸らして、互いの間に数秒の沈黙が流れた。

 教室であれだけのもめ事を起こしたその数時間後にこの状況。

 しかも今日に限っては逃げるように帰ってるし、周りの人間はともかく当事者の小花さんからすれば失礼な態度を取られたと思っていても不思議じゃない。


(なのに――なんでこの人は、ここに来たんだ?)

(普通に考えて、俺なんかに近づかない方がいいはずなのに――)


「どうして……ここに?」


 気づけば無意識にその言葉を発していて、慌てて手で口元を塞いだ。

 でもそれは遅すぎて、横目で見た彼女はその声に反応してこっちを向いていた。

 そして少しの沈黙のあと、彼女は息を整えるように小さく胸を上下させて――


「会いに来たんです。小鳥遊くんに」


 彼女は真っ直ぐな視線を向けたまま、


「少し、お話しませんか?」


 ただ笑って、そう提案してきたのだった。

 




短めながらの更新です。

次話は長めになりますので更新少し遅めです。

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