1話 小鳥遊と小花①
「......小鳥遊くん?」
小鳥遊 朔が彼女――小花 澪に学校外で出くわしたのは、実家のケーキ屋で店番をしていた時だった。
今年高校一年生となり正式なアルバイトとして実家のケーキ屋の手伝いを始めた朔だが、高校では友達と呼べる友人はおろか、学年内で問題児のような扱いを受けていた。
その要因は、ロシア人である祖父の血の影響で日本人では珍しい金髪地毛であること。
普通であれば小学校から中学にかけて色変わりするのだが、どういうわけか俺の髪の色は未だに金髪のまま。
小学校、中学校のどちらでも黒染めするようにと言われた。
けれどその度に、ギリシャ方面の宗教を信奉している祖父が激怒した。
「知や力の象徴を手放せとはどういう了見だ」と。
宗教を引き合いに出されたことで学校側も強くは出られず。
結局、俺は黒染めもできないまま、友達を作ることも諦めて卒業した。
そして高校入学後。
当然、金髪である俺に近づいてくる人などいるはずもなく。
ひと月もしないうちにクラス内で完全なあぶれ者となった。
過去の騒動から、両親の提案で入学前に学校側に事情を話そうということになり、その迅速な行動のおかげと俺の小中の成績表や当時の先生たちからの評価を加味して、「家庭都合による特別措置」という形で成績や内申点に不当な影響は出ないようにしてもらえた。
無論、問題を起こせば内申点は削られるのは変わりないのだが、理解を得てもらえただけでも大きな進歩で、理解が得られなかった9年間に比べれば扱いは段違いである。
それでも、周囲からは不良という認識をされていて、席は隣接するクラスメートが最も少ない窓際の一番後ろの席に追いやられる形になっている。
これ自体に俺は特段の不満はなかったが、不安はとてもあった。
その不安の理由の一つに、俺の席に近くにいるのがどちらも女子ということ。
一人はクラス内で既に存在感と高い影響力をもつカリスマ力溢れる女の子。
クラス委員に自ら志願したことで、クラス内での信頼の厚い生徒。
名前は、夏沢 蛍。
巷では「猛犬のお目付け役」と呼ばれているらしいが、俺が近くにいなければそんな異名がつくこともなかったようで、関わらないにしてもかなり気まずい。
そしてもう一人は、正直よくわからないというのが第一印象の女の子。
名前は、小花澪。
長い黒髪をいつも緩いウェーブで巻いていて、最初はギャルっぽい人なのかと思ったがそれらしい小物とかは身に着けておらず、たまにしてくる髪留めも至って普通の目立たないものばかり。
俺ほど極端ではないが、クラスメートとも関わっていないようで席の近い夏沢さんと時々話しているのを見かけるくらいでどういう人なのかを今でも測りかねている。
そして――そんな彼女の一番わからない部分は、普通に俺に話しかけてくることがあることだ。
「小鳥遊くん、次の授業どこ教室でしたっけ?」
「小鳥遊くん、消しゴム貸してもらえないかな?」
という具合で、夏沢さんに聞けばいいことをわざわざクラスで浮いている危険人物に聞いてくるのだ。
なんでなんだろうと思いつつ、聞かれた以上は無視するわけにもいかず、なるべく失礼が無いように心がけながら受け答えをしている。
そんな彼女のことを――深く関わることはないだろうと思っていながら、少しだけ気になり始めていた矢先だった。
小花さんが、うちのケーキ屋に来たのは。
「...小鳥遊くん、だよね?」
いや、え、はあ? なんでここに小花さんが!?
突然のことに俺の脳内は、パニックした。
学校から家まではそれなりに離れている。
だから同じ高校の人に会うことなんて考えもしなかった。
しかもよりもよって、出くわしてしまったのが小花さんなのは――あまりに予想外だった。
(いや、まて。いったん落ち着くんだ)
疑問形で聞いてきたということは、まだ小花さんは俺だと完全に認識したわけじゃないかもしれない。
確証があればだよね、なんて聞き方はしてこないはずだし――
(とにかく、ここはどうにかしてやり過ごそう!)
(俺は小鳥遊くんじゃない、俺は小鳥遊くんじゃないぞ!!)
心の中でそう自分に言い聞かせて、目の前にいる小花さんに他のお客さんと変わらない態度で応対した。
「世の中広いですからね。似ている方も多いんでしょう」
「......そう、なんですか?」
首をかしげながらこちらを訝しむ様子に俺は内心びくびくしていた。
頼むから疑問のままで帰ってくれないですか、という気持ちで表情はなるべく保ったまま俺は接客を続ける。
「今日のケーキはお決まりですか?」
「......そう、ですね。とりあえず桃モンブランとそこのタルトをお願いします」
「かしこまりました。他にご注文はありませんか?」
そう聞くと小花さんは小さく頷いた。
俺は注文を受けたケーキをショーケースから取り出して、丁寧に箱の中に入れた。
袋は要りますかと聞くと、小花さんは大丈夫ですと答えたのでそのまま手渡しして会計作業を終えた。
「ありがとうございました。気を付けてお帰りください」
「はい、ありがとうございました」
俺も小花さんも軽く会釈して、俺は次のお客さんの対応へ。
小花さんはそのまま店外へ。
驚きはしたがうまくごまかせたのだろう。
途中から小花さん、敬語で話してたし。
一安心した俺は、動揺による小さいミスもしつつもいつも通りに手伝いを終えた。
そこからはもうご飯を食べて寝るだけで、明日になったら学校に行っていつも通り過ごすだけ。
過ごすだけ――のはずだったのに。
「ケーキ、美味しかったよ。また行っていい?」
席に着くや否や、朝の開口一番に小花さんにそう聞かれた俺の脳は。
二日に渡って、現実逃避のフリーズをすることになった。
主に、困惑と動揺による脳のオーバーヒートによって。
しっかりと構想を練りたい作品の裏でひっそりと思いついたものをその場のノリと勢いで書いてます。
仕事のついでに書いてますが多分週2くらいで更新します。
どれくらい書くかはわからないですが、温かい目で読んでください。
ラブコメ初挑戦なのでお手柔らかにお願いします
2026/02/03 追記
構成はそのまま。内容を大幅に修正しました。




