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転生したらオジエモン!?〜異世界で困っている人を全部"業務改善"で救ってみた〜

作者: アーヴィン
掲載日:2025/12/04

気がつくと、俺は小さな青い着ぐるみ……いや、本物のオジエモンになっていた。

 丸い耳。太い尻尾。妙にもちもちした手足。

 そして、目の前には泣きそうな少年。


「オ、オジエモン……? たすけて……! ギルドが……!」


 なんだこの流れ。いや、わかるぞ。俺は察しがいい。


「まずは状況を整理しようか、坊や」


 少年が涙目で語るには、冒険者ギルドで依頼が滞留しすぎて、

 受付のお姉さんが机に突っ伏し、

 冒険者はみんな「今日の仕事ないのかよ!」と怒っているらしい。


 ──うん、それ完全に業務フローの崩壊だ。



 ギルドに到着すると、そこはカオスだった。

 依頼票が山積み。棚は崩壊。受付嬢のライラさんは

「もう無理……紙が……紙がにじんで見える……」

 と魂を抜かれている。


「任せて。俺はこう見えて、前職では“書類と戦い続けた男”なんだ」


 そう、俺は元サラリーマン。

 異世界に来てチート能力なんぞないが──


書類整理・業務改善なら負ける気がしない。



「まず、依頼票は“危険度別”に分類。次に期限順に並べて……」


 もちもちの指で器用に紙を動かすオジエモン。

 周囲の冒険者はぽかん。


「おいあいつ……モンスターより書類を倒すの得意なんじゃねえか?」


「すげぇ……青い……青い業務改善妖精だ……!」


「妖精じゃなくてオジエモンです」


 30分後。


「……終わった。あとはこの順で処理すれば今日中に片付くよ」


「は、早すぎる!!」


 ライラさんが机から跳ね起きた。


「な、なにこの見やすさ……! 依頼の流れが……理解できる……!」


「ついでに、“冒険者の適性”と“依頼内容”をマッピングしておいた。

 これで無駄な組み合わせも減るよ」


「どこのコンサルですかあなたは!?」


「いや、ただの元サラリーマンのオジエモンです」



 その結果、冒険者たちは大満足。

 ギルドは今日一日で通常の三倍の仕事を処理し、

 ライラさんは感極まって俺の頭をなで回した。


「オジエモンさん……うちで働きませんか……? 月給は……ほぼ出ませんけど!」


「報酬激安!? ブラックの匂いがするんだが!?」


 だが、少年は笑っていた。


「オジエモン、ありがとう! ギルド、明日からちゃんと動くね!」


「任せろ。困ったらまた呼んでくれ」


 こうして俺は異世界の町の平和を守った。

 戦闘力はゼロだが、業務改善なら無限大のオジエモンとして。


◇数時間後


「この依頼票、難易度順に並べておいたから、あとは冒険者ごとに配るだけ」


「……え?」


「こっちは期限が近いもの。これは危険度高めでベテラン向け。

 で、このへんが素材集め系。お得意の常連さんに回せるよ」


「……え?」


「“え?”じゃなくて、“ありがとう”でいいよ?」


 ライラさんは呆然と紙の束と俺を見比べた。


「え……だ、だって……この量、一日じゃ終わらないはず……」


「書類ってね、最初の整理さえできれば八割片付いたようなものなんだよ」


「なにその名言……」


 周囲の冒険者たちもざわざわしていた。


「あの青いやつ……やばくね?」

「紙さばきの速度が尋常じゃないぞ……」

「魔法使いより魔法っぽい仕事してるじゃねえか!」


 俺は手を止めずにふせんを貼り続ける。


 ――しかし、仕事は整理だけじゃ終わらない。


「さてと。次は“適任者”を探さないとね」


 俺は《タスク見えるメガネ》を上げ、冒険者たちを眺めた。


 頭上の吹き出しが一斉に浮かぶ。


『今日は軽い依頼で稼ぎたい』

『デートの時間があるから早く終わらせたい』

『体力には自信ある!』

『魔法でド派手に戦いたい!』

『税金払ってない(2回目)』


(……税金関係の吹き出し多くない?)


「よし、最適配分いきます」


 俺は一人ずつ名前を呼んだ。


「バルドさん、この“低難易度の採集依頼”があなたにピッタリ」

「ハンナさん、『レア素材』狙いの依頼いくつか。期限は緩め」

「ボラス君、筋肉自慢ならこの高難易度の討伐ね」


「お、おお……」


 冒険者たちは驚いたように依頼票を受け取る。


「なんでオレらの得意分野、そんなに把握してんだ……?」


「見ればわかるよ」


 メガネをちょこんと触る。

 冒険者たちの視線が一斉に集まった。


「そのメガネ……何なんだ……?」


「ひみつ道具。《タスク見えるメガネ》」


「ひ、ひみつ……道具……?」


「相手の“今一番やりたいこと”とか“得意分野”が見えるんだ。

 仕事の割り振りに便利でね」


 冒険者たちは感動したように息を呑んだ。


「すげぇ……」

「ギルド史上最強の補助スキルじゃねぇか……」

「魔王倒せるよりこっちのがありがたいぞ……!」


 ライラさんも仕事の山を前に震えていた。


「オジエモンさん……あなた、いったい……?」


「ただの元サラリーマン。書類と人間の扱いには慣れてる」


 俺がそう言って肩をすくめると、ライラさんが涙目になった。


「元……サラリーマン……?

 なんでそんなに……優しくて……有能で……青いんですか……?」


「青いのは偶然だよ」


 そう言いながら、俺は次のひみつ道具を取り出した。


 ポーチの中に手を突っ込むと、手触りのいいナイロン素材の箱が出てくる。


「さあ、次はこれ。《ワープ会議室》!」


「わ、ワープ……?」


「こういう混乱のときは、部署間のコミュニケーション不足が原因のことが多いんだ。

 だからまず話し合いの場を作る」


 俺が箱を床に置くと、箱はふわっと膨らみ、光の膜に包まれて、

 真ん中から“会議室”が出現した。


 異世界冒険者ギルドのど真ん中に、

 会議机と椅子が整った小さな会議室が出現したのだ。


「な、なんだこれ……!」

「部屋が……突然……?」

「ギルドに部屋生えたぞ!!」


 それを無視して俺は言った。


「じゃあ討伐班、採集班、護衛班の代表はここに入って。

 現場の問題点と要望を出し合おう。

 15分で終わらせるから」


「じゅ、15分で!?」


「会議は短さが命なんだよ」


 冒険者たちは戸惑いながらも会議室に入り、

 俺は《改善フィールド》というひみつ道具を床に置いて展開した。


 じわりと光が広がり、会議室全体を包む。


「な、なんだ……頭がスッキリして……」

「話が整理されていく……?」

「言いたいことが自然にまとまる……!」


「これで“話し合えば必ず改善点が見える空間”ができあがった」


 俺は会議室のドアを閉めて、外で腕を組んだ。


(さて、あとは冒険者たち自身が問題を解決するはず)


 異世界でも現場の人間の知恵は侮れない。

 彼らが自分で整理できれば、ギルドは立ち直る。


 俺は深呼吸し、事務的な作業を続けた。




 15分後。


 ドアが開いた。


「終わったぞオジエモン!」

「これまでのギルドの問題点、全部洗い出した!」

「改善案もまとまったぞ!」


「うん、いい感じだね。じゃあ実行しようか」


「いや……お前……何者だよ……!」


 冒険者たちは口々に言うが、俺は笑って肩を揺らした。


「ただの“働けるおじさん”だよ」


 そのひと言で、なぜか冒険者たちは神を見るような目をした。


「働けるおじさん……いた……!」

「やっぱ英雄っているんだな……」

「ギルドを救うのは勇者じゃなくて労働者なんだ……!」


(そんな感動のされ方はちょっとやめてほしい)


 しかし、俺が気にするより早く、

 ギルドは目に見えて片付いていった。

 冒険者が動き、ライラさんも書類を処理し、

 依頼票の山がどんどん消えていく。


 1時間もすれば、ギルドは見違えるように整然としていた。


「……本当に、片付いちゃった……」


 ギルドを見渡しながら、ライラさんは呆然とつぶやいた。


 依頼票は棚に整頓され、冒険者たちは明確な仕事を与えられ、

 皆が自分の役割を理解し、動いている。


「こんなの……ここ数年で一度もなかった……!」


「それなら、これからは“普通にある日常”にすればいいんだよ」


 俺は机の上の最後の書類を閉じながら言った。


「改善ってのは、仕組みを一度作れば、あとは回る。

 大事なのは“崩れたらすぐ直す”ことだからね」


「…………」


 ライラさんはしばらく俺を見つめていたが、

 急に目を潤ませて、ぽろりと涙をこぼした。


「あ、あああ……オジエモンさん……!

 私、本当に……今日辞める覚悟してたんです……!」


「辞めなくていいよ。あなたは優秀だよ。

 ただ、“仕事量”がおかしかっただけ」


「うう……そんな優しい言葉……ひさしぶり……」


 机に突っ伏していたときの姿とは違い、

 ライラさんの表情には、生気が戻っていた。


 冒険者たちも騒ぎながら、こちらに集まってくる。


「オジエモン! お前が来てからギルドが天国みたいだよ!」


「依頼の割り振り、めちゃくちゃ正確だぞ……!

 やっぱプロの技ってすげぇな!」


「今日のギルド、ぬるぬる動いてるぞ。何か魔法かけたのか?」


(ぬるぬる……? まあ、いいか)


 俺は小さく笑い、ぽふっと手を叩いた。


「さて。最後にもうひとつ、やることがある」


「最後……?」


 ライラさんが顔を上げる。


「ギルドがここまで混乱した“根本原因”。

 それを潰しておいたほうがいいと思ってね」


「根本……原因……?」


 俺は壁のカレンダーを指さした。


「慢性的な“人手不足”。

 それも、書類処理の担当が『ライラさん1人だけ』だったことが問題」


「うっ……そ、それは……」


「冒険者ギルドってのは、人と情報が流れる場所だろ?

 なのに“処理する入口”がひとつじゃ、詰まるのは当然なんだよ」


 ここまで言うと、周囲の冒険者たちがそろってうなずいた。


「確かに……」

「ライラさんにばかり頼ってた……」

「書類作業なんて女の子に任せて当然と思ってた……反省するわ……」


(性別で仕事押しつける文化は異世界でもあるのか……)


 俺はポーチから、大きめのふせんを取り出す。


「《一時増員チケット》」


「ちょ、ちょっと待ってください、それは何……!?」


「このふせんを掲示板に貼ると――

 “今のギルド業務に適した人物”が、一時的に応募してくるんだ」


「そんな魔法みたいな……!」


「ひみつ道具だからね」


 ぺたり、と貼った瞬間。


 ギルドの扉が、バンッと勢いよく開いた。


「すみません! 求人を見てきたんですが!」


 現れたのは、眼鏡をかけた青年。

 手にはびっしり文字の書かれたノート。


「ぼ、僕……事務仕事には自信があります!

 冒険は苦手なんですが、そのぶん数字と書類は得意で……!」


「採用」


「早っ!」


 冒険者たちも絶句した。


「いや、もうこの人、一番必要だからね。

 今日から“第二受付担当”に入ってもらうよ」


「よ、よろしくお願いします!」


 ライラさんは震えた。


「じ、助手が……! 私に助手が……!」


 その声は涙で震えていたが、明らかに希望の色があった。




 すべてが片付いた後。


 ギルドはいつになく静かで、穏やかな時間が流れていた。


「オジエモンさん……あなた、本当にすごいです……」


 ライラさんが深々と頭を下げた。


「いえいえ。俺はちょっとした改善をしただけ。

 働ける人が働ける環境を作っただけだよ」


「それが……魔王を倒すより難しいんですよ……」


「まあ、現場仕事は奥が深いからね」


 俺は笑いながら尻尾をゆらす。


 そのとき、少年が涙目で駆け寄ってきた。


「オジエモン! ありがとう!

 ギルド、お姉さんを助けてくれて……!」


「お礼ならほかの人にも言いなよ。

 俺がやったのは“スイッチを押した”だけ。

 動いたのは冒険者とギルドの人たちだから」


「……うん!」


 少年は力強くうなずいた。




 夕暮れのギルド。


 仕事を終えた冒険者たちが帰っていき、

 俺はひとり、受付のカウンターに腰かけた。


(異世界に来て最初の仕事が“書類整理”って……

 まあ、俺らしいといえば俺らしいか)


 青い体をつつきながら、しみじみと思う。


「オジエモンさん」


 ライラさんが優しく声をかけてきた。


「また……助けてくれますか?」


「もちろん」


 即答だった。


 たぶん、これからいろんな問題が起きるだろう。


 魔物の暴走、王都からの無茶な命令、予算カット、冒険者不足――

 どんな異世界でも、“現場”は大変だ。


 でも。


「難題ほど……やりがいがあるからね」


 俺は胸を張って言った。


「働けるおじさん、ここにあり。

 異世界でも仕事はきっちり仕上げるよ」


 ライラさんはふっと微笑んだ。


「……あなたが来てくれて、本当に良かった」


 夕陽の中で、その笑顔はやけに眩しくみえた。


 こうして俺、オジエモンは――

 異世界ギルドの最初の危機を救ったのだった。


(完)



短編ですが、評価等いただけると嬉しいです!

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