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三.君が好きだ

 朝、教室に入ると一軍女子の瑠夏ちゃんが沈んだような顔をして座っていて、その周りを瑠夏ちゃんの友達が囲っていた。何かあったんだろう。

 瑠夏ちゃんはよく、彼氏の話をよくしてるから、彼氏と喧嘩した、とか別れたとか何だと思う。

 鞄を置いて、先に学校に着いていた麟夏の席に行った。

「麟夏〜瑠夏ちゃん何かあったの?」

「それがさ、驚くべき内容なの。美月覚悟して聞いてよ。」

 ゴクっと唾を飲み込み、頷いて、覚悟を決める。そんな覚悟を決めるほどの内容なのかな。

「瑠夏ちゃん、…陸斗君と付き合ってたみたいで、昨日振られたんだって。」

「えっ、まじっ...。」

 確かに驚きの内容だった。勝手に陸斗君は彼女なんていないと思っていた。

 陸斗君に彼女がいるかどうかとか、好きな人がいるかとかなんてクラスの誰かに聞けば分かるはずなのに、どうしてしなかったんだろう。

 もし、彼女いるって言われたら自分が病んじゃうくらいに落ち込むのが予想できたからかな。でももう別れたならチャンスはあるはず。

 陸斗君は瑠夏ちゃんみたいな、クラスの中心にいて可愛い女の子が好きってことなのかな。

 告白したのはどっちなんだろう。好きな人には、アタックする感じなのかな。

 告白されたから、まあとりあえず付き合ったって感じなのかな。

 彼女が欲しかったから付き合ったのかな、本当に両思いだったのかな。

 なんで別れたのかな。

 気になることがたくさん出てくる。瑠夏ちゃんと恋バナがしてみたい。でもそんな勇気もないし、でも陸斗君のことが知りたい。

「これは、チャンスだよ。頑張って!私も何でも協力するから。」

 電池の切れたおもちゃのように固まっていた私に、彼女は小さい声でそう言った。

「だよね。ありがと。麟夏も頑張ってよ。」

 私も小さい声でそう返す。なんだか今日の授業の内容は、頭に入る気がしない。


 一時間目は美術で移動教室だ。

 今日は、美術で席替えをするらしく、朝から美術を選択しているクラスメイトはワイワイとしていた。

 美術を選択しているのは、15人にも満たないくらいの人数だ。そしてその中には、麟夏や蒼真君に陸斗君がいる。今は出席番号順だから、席が遠いけど今回は近くなってほしい。少しぐらい喋りたい。

 神さま、神さま、と心の中で念じながらクジを引く。私はいつもテストだって頑張ってるし、お母さんやお父さんの手伝いもしてるよ。だからお願い。

 私は紙に書かれた番号に座ると、前の席には…陸斗君がいた。幸せだ。机の下で小さくガッツポーズをする。

 ばくばく、と鼓動が大きな音を鳴らす。後ろ姿をそっと見る。

 ツヤがある、真っ直ぐな黒髪。後ろからぎゅっと抱きしめたい。そのまま唇がくっついてしまって…なんて変な妄想をしてるんだろう。

 にやけてしまいそうな顔を抑えて、真顔を頑張って保つ。

 全員がクジを引き終わり、それぞれが新しい席に座った。

「じゃあ席替えで近くの人に挨拶しといて下さい。」

 担当の村山先生がそう言うと、教室がザワザワし始めた。その流れにのって、陸斗君が後ろを振り返った。

「あ、星野さん。始業式の時以来だね。よろしく。」

「うん。よろしく。また何か分からないとこあったら教えてね。」

 体の温度が上がる。きっと私の顔は真っ赤なんだろう。こんなにも顔が赤かったら好きだってバレちゃうよ。

「おっけい。任せて。」

「ありがとう。」

 きちんと声が出てるなんか分からないよ。でも少しでも席が近くなったならこれはチャンスだ。

「おーい、うるさいぞ。今から今日の放課後に荷物を運んでもらう男女2人を選んでもらうから、男女それぞれ別れて決めろー。」

 みんなが立ち上がり、教室の左側に女子、右側に男子が集まりじゃんけんが始まった。


 あいこが何度も何度も続き、負けたのは…私。早く帰りたかったのにと悔む。

 一緒に先生の手伝いをする男子は誰なんだろう。

「美月ー頑張ってね。私今日おばあちゃんの家行くから先帰るね。ごめん!」

 美月は手をパチっと手を合わせる。

「えーそっかー。頑張るねー男子の残る人は誰なの?」

「分かんないけど、もうすぐ分かると思うよ。」

 麟夏の目線の先に目を向けると、まだ数人でじゃんけんをしていた。

 少しすると、聞き覚えのあるえー、という声が聞こえた。この声は多分陸斗君。今日はおかしいほどに彼との接触が多すぎる。もしかして今年の運、全部使い切っちゃったかな...。


「じゃあ放課後、南雲と星野は美術室に来るように。忘れずにな。」

 放課後まで待ち切れないよ。


 6時間目の授業が終わり、HRが終わり、私たちは美術室に向かう。

「じゃあ2人にはこのダンボールを、校舎の外にある倉庫に移動して欲しいんだ。いけるか?」

「はい。」と陸斗が言い、私は小さく頷いた。

「じゃあ頼んだから。終わったら鍵閉めて職員室に返しといてくれ。じゃあ。」

 そう言い残して、村山先生は教室を出て行った。

「よし、頑張るか。」

 陸斗君はダンボールを持ち上げた。

「うん。」

 私もダンボールを持ち上げて、彼に続いて倉庫へと運ぶ。結構重い。

 倉庫の前に着いて、陸斗君がまずダンボールを置いて、その後に私がそれを渡す。

 その時、手と手が触れ合う。顔がいっきに熱くなる。

 私の顔が赤い理由は多分、夏の暑さのせいだよね、そう信じ込む。

 私たちは何もなかったように気にせず、また美術室に戻って作業を始める。


 いつの間にか全てが終わって、倉庫の横にあるベンチに腰を下ろした。

 生ぬるい風が吹き、校庭から野球部やサッカー部の声が聞こえる。青春だなと感じる。

 陸斗君と何でもない話が始まる。こんなにも話が続くなんて嬉しい。

 私は確信した、隣にいる彼が好き。絶対に。

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