第8章 本格的な包囲網
仁誠会と警察の衝突は、瞬く間に全国へ報じられた。
テレビのニュースは「暴力団と警察が衝突」と一方的に仁誠会を悪者に仕立て上げ、SNSでは真逆に「市民を守った仁誠会こそ正義」と拡散されていた。
――世論は真っ二つに割れていた。
だが、政府の動きは早かった。
「治安維持」の名のもとに、各地の警察署へ極秘命令が下る。
『仁誠会を徹底的に排除せよ。手段は問わない』
その結果、街では不審な取り締まりが横行し始めた。
仁誠会と関わった商店が突然閉鎖され、組員の家族が理不尽に職を失う。
さらには市民の中にスパイが潜り込み、事務所の出入りを逐一監視していた。
「奴ら……本気で潰しに来てやがる」
鷹村が煙草をもみ消し、机を叩いた。
「しかし、やり口が卑劣すぎます」
蓮は怒りを噛み殺しながら言った。
「市民を人質にするような真似まで……」
神宮寺は静かに目を閉じた。
「奴らは国を盾にしている。正面から戦えば、多くの民が巻き込まれるだろう」
沈黙の中で、重苦しい空気が事務所を覆う。
だが、その場にいた全員の胸には同じ思いがあった。
――守らなければならない。
その夜、仁誠会は独自の情報網を使い、政府の動きを探り始めた。
裏社会に顔の利く古参の組員、地方に散らばる新参勢力、市民たちの口コミ。
バラバラだった点が線となり、やがて一枚の地図の上に「政府の作戦網」が浮かび上がる。
「……こりゃ、徹底的だな」鷹村が唸る。
「都内の主要な拠点はすべて監視下。輸送ルートも押さえられてる。完全に包囲網だ」
蓮は拳を握りしめた。
「このままじゃ、いつか本当に潰されます」
神宮寺はゆっくりと立ち上がった。
「ならば、打って出るしかない」
彼の眼光が鋭く光った。
「敵の動きを逆手に取れ。奴らが網を張るなら、その隙を突き破る。……戦いは、もう始まっている」
組員たちが一斉に立ち上がる。
その姿は、もはや裏社会の徒党ではなかった。
国家権力に立ち向かう「革命軍」のような気配を帯びていた。




