第4章 任侠の誓い
その夜、仁誠会の事務所には十数名の組員が集まっていた。
中心に座るのは神宮寺剛。背筋を伸ばし、眼光鋭く一同を見渡す。
「……皆、よくやってくれている」
低く響く声に、部屋の空気が引き締まった。
「俺たちは裏の人間だ。だが、それは人を喰らうためじゃない。護るためにある」
神宮寺は拳を軽く握りしめ、膝の上に置いた。
「弱き者を守り、悪しき者を討つ。それが“任侠”の道だ。どんなに時代が変わろうと、我らが背負う誓いに変わりはない」
蓮はその言葉を胸に刻んだ。
ここに来るまで、ヤクザという存在を誤解していた。
だが、仁誠会が掲げる旗は、確かに正義の匂いを帯びていた。
――その一方で。
翌朝、蓮は街角のテレビに映るニュースに足を止めた。
『政府の補助金事業で新たな不正が発覚しました。大手ゼネコンと議員の癒着が――』
『またかよ……』周囲のサラリーマンたちが呟く。
『税金はどこに消えてんだか』
画面に映るスーツ姿の政治家は、笑みを浮かべながら否定を繰り返す。
その目の奥には、まるで国民を見下しているかのような冷たい光があった。
蓮は拳を握りしめた。
仁誠会が汗を流し、血を流してでも守ろうとしている人々を――、
表の権力者たちは平然と踏みつけにしている。
「……なんだよ、これ」
怒りとやるせなさが胸の奥に渦巻いた。
そのとき、背後から声がかかる。
「苛立つ気持ちは分かる」
振り返ると、若頭の鷹村が立っていた。
「坊主、この国はもう腐っちまってる。だがな、俺らはまだ動ける。仁誠会は人を護るためにある。忘れんな」
蓮は深くうなずいた。
その瞬間、胸の奥に小さな炎が灯った気がした。




