第31章 試作の光
雨の戦闘が終わった本部は、血と瓦礫にまみれていた。
組員たちの負傷は甚大。蓮も肩に深い傷を負いながら、研究室の扉を押し開けた。
中で真田博士が震える手で装置を掲げていた。
「……見てくれ。妨害装置の試作一号機だ!」
机の上に鎮座するのは、金属フレームに覆われた重厚な機械。
幾本ものケーブルが蛇のように絡み、中央には青白い光を放つコアが脈動している。
博士は誇らしげに説明した。
「これを起動すれば、半径五百メートル以内の“神経同調チップ”に干渉し、強化兵を麻痺させられるはずだ。ただし、まだ出力は安定していない……実戦で使えば暴走の恐れもある」
神宮寺は腕を組み、険しい表情を浮かべた。
「危険は承知だ。だが、切り札になる」
その時――
「敵影接近!影の部隊、再び来襲!」
外の哨戒から悲鳴混じりの報告が入った。
幹部たちの顔色が変わる。
「畜生、連中諦めねぇのか!」
「この傷だらけの状態でまた戦えってのかよ……!」
蓮は血に濡れた肩を押さえながらも、迷いなく博士に向き直った。
「――博士、今使うんだ。その装置を」
博士は目を見開いた。
「だが、まだ調整が……!失敗すれば、こちらの人間の神経にすら干渉して……」
「構わねぇ!」
蓮は木刀を握り直し、叫んだ。
「このままじゃ全員やられる!博打でもいい、使わせてくれ!」
影の部隊が本部の外壁を破壊し、黒い人影が雪崩れ込んでくる。
その瞬間、真田博士は決意したようにスイッチを押し込んだ。
ゴォォォォッ……!
低い振動が地を揺らし、装置のコアが青白い閃光を放つ。
空気が歪み、耳鳴りが走った。
「ぐっ……頭が……!」
蓮も組員たちも一瞬ふらついたが、すぐに持ち直す。
だが――影の部隊の強化兵は違った。
「……っ!?体が……動か、ねぇ……!」
次々に崩れ落ちる影たち。
電流に痙攣するようにのたうち、戦闘不能に陥っていく。
組員たちから歓声が上がった。
「やった……効いてるぞ!」
「これなら勝てる!」
だが、博士の顔は青ざめていた。
「まだ不安定だ……!このままでは出力が暴走して――!」
その警告と同時に、装置のコアが不気味な赤光を放ち始めた。
警報音が鳴り響き、ケーブルから火花が散る。
蓮は歯を食いしばり、仲間に叫んだ。
「全員、下がれッ!!」
妨害装置の試作一号機は、まるで生き物のように脈動しながら制御不能へと傾いていく――。




