第29章 禁じられた真実
仁誠会本部。
重厚な会議室の中央に、真田浩一が立っていた。
白衣の下に覗く痩せた身体は、長い潜伏生活の苦しみを物語っている。
神宮寺、鷹村、蓮をはじめ幹部が居並ぶ前で、真田は机に図面を広げた。
「……強化兵の実態をお話ししましょう」
その言葉に空気が張り詰める。
「強化兵の正体は、人間に“神経増幅薬”と“外骨格ナノ装置”を投与し、肉体を強制的に進化させた存在です。
筋力・反射神経は通常の五倍。銃弾を弾く皮膚は、ナノ装置の自己修復によるもの……」
蓮は拳を握りしめた。
「……つまり、あれは兵器として造られた“人間”なんですね」
真田は深くうなずく。
「ですが欠点もある。――神経増幅の負荷で、必ず“脳の崩壊”が始まるのです」
幹部たちがざわめいた。
鷹村が低く呟く。
「……バケモノにしやがって、使い潰すつもりか」
真田は悔恨を込めて続ける。
「弟もそのひとり……。私は止めようとしたが、政府は聞き入れなかった」
蓮が身を乗り出す。
「じゃあ、あいつらに勝つ方法は?」
真田はファイルを指差した。
「彼らを制御しているのは“神経同調チップ”。脳幹に埋め込まれたそれが、外部からの命令信号を受けている。
逆に言えば――そのチップを無力化すれば、強化兵は動けなくなる」
神宮寺が腕を組み、低く問う。
「……無力化する方法はあるのか」
真田は静かに頷いた。
「妨害信号を発する装置を作ればいい。ただし、膨大な電力と精密な調整が必要です。研究設備と時間を……」
会議室に重苦しい沈黙が落ちた。
蓮が口を開く。
「設備なら俺たちが手に入れる。……時間は、俺が稼ぐ」
鷹村が笑う。
「へっ、若ぇのが言いやがる。だが――俺も付き合ってやるぜ」
神宮寺が立ち上がり、力強く宣言した。
「仁誠会はここに誓う。科学の知恵をもって、この国を守る。真田浩一、全力で支援しよう」
その夜。
真田は仁誠会本部の一室に研究設備を運び込み、妨害装置の設計を始めた。
蓮は扉の前で見守り、静かに誓う。
(……絶対に完成させる。俺はその間、どんな地獄でも戦ってみせる)
仁誠会はついに“科学の力”を取り込み、政府の怪物に挑む準備を始めたのだった。




