第28章 亡命者の条件
夜の裏路地。
雨に濡れたネオンの下を、蓮と数名の組員が歩いていた。
目指すは篠田が示した潜伏先――都心から外れた廃病院だった。
「……こんな場所に科学者が?」
組員の一人が訝しげに呟く。
蓮は目を細めた。
「政府に追われりゃ、どこにでも隠れるしかねぇだろ」
廃病院の内部は埃にまみれ、壁には落書きが走っていた。
懐中電灯の光に照らされ、影が伸びる。
「……おい、気配がするぞ」
その瞬間、天井裏から閃光弾が投げ込まれた。
光と轟音。
組員たちが目を潰されて倒れる。
「侵入者か!」
床を転がって現れたのは、痩せた白衣の男。
手には改造された小型銃器。
「近寄るな!私は政府の犬にも、裏社会の犬にもならん!」
蓮が両手を広げ、叫んだ。
「待ってくれ!俺たちは政府の人間じゃねぇ!仁誠会だ!」
白衣の男が目を細める。
「……仁誠会……?あのヤクザが、なぜ私を探す」
篠田の名を出すと、男の表情が一瞬だけ揺らいだ。
「篠田が……まだ生きているのか」
銃口がわずかに下がる。
蓮は続けた。
「強化兵に勝つためだ。あんたの知恵が必要なんだ!」
男はしばし沈黙し、やがて銃を下ろした。
「……私は、真田浩一。元・防衛研究所の主任研究員だ」
組員たちが安堵の息をつく。
だが真田は冷たい声で告げた。
「協力する条件がある」
蓮が息を呑む。
「条件……?」
「私の研究は政府に奪われ、多くの被験者が犠牲になった。その中には――私の弟も含まれている」
蓮の胸に衝撃が走る。
「弟を……!」
真田は苦しげに続ける。
「彼は“実験体のひとり”として影の部隊に組み込まれた……。
もし私が協力するなら――必ず、彼を取り戻してくれ」
蓮は迷わず答えた。
「必ず助け出す。……その約束で、俺たちと共に戦ってくれ!」
真田の目に一瞬、涙が滲む。
「……いいだろう。仁誠会に力を貸そう」
その夜、廃病院を後にする蓮たち。
蓮の胸には新たな使命が刻まれていた。
(強化兵に立ち向かうだけじゃない……弟を救い出す。それが、真田さんの希望なんだ)
暗い夜道を歩きながら、蓮の瞳は鋭く輝いていた。
仁誠会は新たな仲間を得て、さらに大きな戦いへと進んでいく――。




