第27章 対抗の知恵
の胸には未だに強化兵の拳の衝撃が残っていた。
呼吸するたびに肺が痛む。
だがそれ以上に心を抉っていたのは――仲間を守れなかった無力感だった。
(……あのままじゃ、いくら戦っても犠牲が増えるだけだ)
本部の会議室。
幹部たちが集まり、神宮寺の前で意見をぶつけ合っていた。
「銃も刃も効かねぇ怪物相手に、どうしろってんだ!」
「軍隊みてぇな兵器を持ち込むしかねぇ!」
怒号が飛び交う中、蓮が拳を握り立ち上がる。
「……今のままじゃ勝てない。なら、違う手を探すしかねぇ!」
篠田が静かに口を開いた。
「……ひとり、紹介したい人物がいます」
全員の視線が集まる。
篠田は慎重に言葉を選びながら続けた。
「彼は元・防衛研究所の技術者で、政府の“人体強化計画”を担当させられていました。
ですが非人道的だと抗議し、研究所を追われた……。今は地下に潜んでいます」
神宮寺が目を細める。
「……その技術者なら、奴らの弱点を知っているかもしれん、というわけか」
篠田は頷く。
「彼は“強化兵を無力化できる手段”を模索していたと聞いています」
蓮の胸に火が灯る。
「……会わせてくれ。絶対に、その人の力が必要だ」
鷹村が苦笑混じりに煙草をくわえた。
「科学者に頼るヤクザなんざ聞いたことねぇが……背に腹は代えられねぇな」
神宮寺はゆっくりと立ち上がり、皆を見渡す。
「よかろう。仁誠会は“知恵”をも仲間とする。――その者を探し出せ」
会議後、蓮は篠田と並んで廊下を歩いた。
「……篠田さん。あんたが紹介してくれた人が鍵になるんだな」
篠田は苦笑し、だがその瞳は真剣だった。
「彼は政府に裏切られた科学者……だが、人としての誇りを失ってはいない。きっと、あなたたちと歩む道を選ぶでしょう」
蓮は頷く。
「……なら、必ず見つけ出す」
その夜、蓮は拳を固め、星の見えない空を仰いだ。
(人間を実験体にする政府……その狂気に対抗できるのは、人間の叡智と誇りだ)
仁誠会の戦いは、ついに“科学者”をも巻き込み、新たな局面へと進もうとしていた。




