第26章 人を超えし影
翌夜。
篠田からの告白を受け、仁誠会は本部の防備を強化していた。
しかし敵はそれを上回る速さで動いていた。
郊外の工場跡地。
そこに潜伏していた仁誠会の偵察班が、無残な姿で発見された。
生存者は一人もいない。
「……チッ、やられたか」
鷹村が舌打ちし、蓮は歯を食いしばる。
その時、背後の闇が揺れた。
「来るぞッ!!」
黒装束――影の部隊が現れる。
だがその動きは、これまでの敵とは明らかに違っていた。
一人の影が、軽々と鉄骨を素手でへし折った。
さらに別の影が跳躍し、屋根の上に舞い上がる。
その高さは人間の限界を超えていた。
蓮は息を呑む。
(……これが“強化兵”……!?)
仲間の一人が銃を放った。
だが弾丸は強化兵の皮膚を弾き返され、逆に組員が一瞬で首を刎ねられた。
「バケモンかよ……!」
蓮は木刀を握りしめ、前に出た。
「……俺が相手だ!」
影が迫る。
常人では追えない速度。
蓮は辛うじて木刀を振り抜き、相手の腹に叩き込む。
だが――折れたのは木刀の方だった。
「なっ……!」
次の瞬間、蓮の胸に拳が突き刺さり、肺が焼けるように痛む。
膝をつきかけながらも、必死に踏みとどまる。
「ぐ……ッ……まだ……倒れねぇ!!」
蓮は折れた木刀を逆手に握り、敵の眼を狙って突き出す。
その一撃だけは通じ、影が苦悶の叫びを上げて後退した。
鷹村が蓮を抱え起こす。
「無茶しやがって……!」
蓮は血を吐きながらも、歯を食いしばった。
「あれは……もう、人間じゃねぇ……」
篠田の言葉が脳裏に響く。
《政府に逆らった者を実験体にした強化兵》
蓮は震える拳を握り、叫んだ。
「……だからこそ、俺たちが止めるしかねぇんだ!!」
影の部隊は撤退した。
だが残されたのは死屍累々の仲間の姿と、蓮の胸に刻まれた恐怖だった。
(この戦いは……もう“ヤクザと政府の抗争”なんかじゃない。人の尊厳を守る戦いだ……)
蓮の決意は、さらに固く燃え上がっていった。




