第21章 闇の輪郭
影の部隊による襲撃から数日。
本部の空気は重苦しく沈んでいた。
倒れた仲間の墓前に線香を捧げながら、蓮は拳を握りしめる。
「……あいつらは、一体何者なんだ」
答えは風の中に消える。
だが神宮寺は既に、裏で動き始めていた。
深夜の会議室。
集められた幹部たちの前で、神宮寺が机に一枚の写真を置く。
それは、蓮たちが倒した影の部隊員の死体だった。
面頬が外れた顔には、奇妙な焼印の痕が刻まれていた。
「……何だ、これは?」
鷹村が眉をひそめる。
神宮寺は静かに答える。
「古来より、“鬼印”と呼ばれる烙印だ。表社会には存在しないはずのものだが……」
場がざわつく。
鬼印――それは戦後の混乱期に暗躍した非合法部隊の証だった。
国家に属しながら、その存在は闇に葬られたはずの人間兵器。
「まさか……まだ生き残っていたのか」
神宮寺は重く頷いた。
「影の部隊は、戦後から脈々と受け継がれた“裏の軍”だ。政府の黒幕たちは、危機のたびに奴らを呼び覚ましてきた。そして今――我らを葬るために再び放たれた」
情報をさらに探るため、蓮は諜報班と共に動き出す。
夜の都心、霞ヶ関の官僚街。
変装した蓮は潜入し、政府関連の資料を探る。
廃棄予定の書類の中に、一枚だけ目を引くものがあった。
「特殊行動部隊・極秘予算」――そう記された文書。
予算の出所は、防衛省を通じていない。
それは、与党幹部の裏口座から直接流れていた。
「やっぱり……政府の中枢が、影を飼ってるんだ……」
蓮の喉が鳴る。
その瞬間、背後で気配がした。
「誰だ」
振り返ると、冷たい眼をしたスーツ姿の男が立っていた。
その袖口には――鬼印の焼印。
一触即発の空気。
だがその男は蓮に刃を向けず、低い声で言った。
「若いの……命が惜しければ、引け」
「……引けるわけねぇだろ。俺は仲間を守る」
刹那、男の口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「……愚か者め。だが――嫌いではない」
そう呟き、男は闇に消えていった。
蓮は震える息を吐きながら、握り締めた木刀を見下ろす。
「……影は、政府の犬じゃない。もっと……深い闇に繋がってる」
その言葉は、連合の幹部たちに新たな衝撃を与えることとなる。
会議の場。
神宮寺は蓮の持ち帰った文書を読み、静かに頷いた。
「やはりか。……政府は既に、国家ではない。腐敗した少数の支配層と、それに仕える影の軍団。つまり、我らが戦うべき敵は――国家そのものではなく、“闇の支配者”だ」
幹部たちがざわめく中、蓮は前に出て宣言した。
「なら、俺たちが必ず暴きます。影も、その背後に隠れてる奴らも……!」
彼の声に、仲間たちは再び拳を握る。
影の正体はまだ全貌を見せてはいない。
だが、その輪郭は確かに浮かび上がりつつあった。
闇の深さを知ったとき――新・任侠連合は、さらに大きな決断を迫られることになる。




