第20章 闇を裂く刃
夜の本部周辺。
張り詰めた静寂の中、蓮は背筋に冷たい汗を感じていた。
闇が濃すぎる。
まるで街そのものが息を潜め、何かを待っているかのようだった。
「坊主、気を抜くなよ」
隣の鷹村が低く呟く。
その直後――風が止み、木々の間から黒装束の影が滑り出した。
「来た……!」
無音の突撃。
銃火器ではなく、刃と鎖。
月明かりを反射させぬよう黒塗りされた刃が、守衛の喉を一瞬で切り裂く。
「影の部隊だ!」
叫ぶ暇もなく、戦闘が始まった。
組員たちが応戦するが、敵は人間離れした動きでかわし、次々と沈めていく。
まるで“人間兵器”――それが影の部隊の正体だった。
蓮は目の前に迫った影の一人と刃を交える。
「ぐっ……速い!」
木刀を振るうが、相手は無音でかわし、逆に鎖鎌を振り下ろす。
(やられる――!)
その瞬間、鷹村が割って入り、銃声が闇を裂いた。
「下がれ坊主!一人じゃ無理だ!」
だが蓮は退かない。
「……逃げたら、仲間がやられる!」
木刀を握る手に力を込め、敵の刃を必死に受け止める。
火花が散り、腕に痺れる痛み。
だが――その刹那、相手の眼光にわずかな殺意の隙を見た。
「うおぉぉぉッ!!!」
蓮は叫びと共に踏み込み、木刀で鎖を弾き飛ばし、相手の鳩尾に叩き込む。
呻き声と共に敵が崩れ落ちる。
「……やった……!」
だが安堵は一瞬。
別の影が背後に迫り、刃が閃いた。
「蓮っ!」
鷹村の声。
だが振り返る暇はない――
その刃が振り下ろされる直前、蓮の木刀が反射的に振り抜かれていた。
「はぁぁぁぁッ!!!」
木刀は敵の面頬を砕き、影は血を吐いて崩れ落ちる。
蓮は荒い息を吐きながら立ち尽くした。
全身震え、汗が滴る。
だが、守るべき仲間はまだ生きている。
「……俺は、もう……逃げない」
戦闘は苛烈を極めたが、やがて影の部隊は撤退。
残されたのは、血と死体、そして息も絶え絶えの仲間たち。
蓮は崩れ落ちそうになる体を支えながら、神宮寺のもとへ報告に向かった。
「……影の部隊、撃退しました」
神宮寺は短く頷き、蓮の肩に手を置く。
「よくやった。……だが奴らは必ずまた来る。影は、一度牙を剥いたら容易に引かん」
蓮はその言葉を胸に刻み、血に濡れた木刀を強く握り直した。
「なら、何度でも……俺が斬ります」
その眼差しには、もはや新入りの迷いはなかった。
影との死闘を経て、蓮は確かに一歩、戦士として前へ進んだのだった。




