第19章 影の牙
市民蜂起が全国を覆い、新・任侠連合は“革命軍”として確固たる立場を築きつつあった。
国際世論もまた連合を「民衆の代表」と認め始め、海外からは医療品や食糧の支援が水面下で送られる。
だが――その流れを、政府は何よりも恐れていた。
首相官邸の地下。
閣僚たちが集められた秘密会議で、防衛相が声を低める。
「正規軍も警察も連合の勢いを止められません。民は彼らを支持し、海外からも非難の声が高まっている……」
「ならばどうする。議会は空洞化し、我々は追い詰められているのだぞ!」
重苦しい空気を裂いたのは、一人の官僚の冷酷な声だった。
「……“影”を使うしかありません」
その言葉に、場が凍る。
だが首相は、ゆっくりと頷いた。
「……奴らを解き放て」
数日後。
東京・新宿。
深夜の街を走る黒塗りの車。
後部座席には新・任侠連合の幹部の一人が座っていた。
護衛車両が並走し、緊張感に包まれる。
しかし交差点に差し掛かった瞬間――街灯が消えた。
「停電……?」
運転手が狼狽した刹那、闇から黒装束の影が飛び出す。
無音のまま窓を割り、鋭い刃が閃いた。
「――ッ!」
わずか数分で護衛たちは沈黙。
幹部は首筋に冷たい刃を当てられ、声を上げる間もなく命を奪われた。
翌朝、その報せは本部に届いた。
広間に響く沈痛な声。
「……また、だ」
鷹村が苛立ちを隠さず机を叩いた。
「正規軍じゃねぇ! こいつらは……暗殺者だ!」
神宮寺は険しい表情で言葉を続ける。
「政府の“暗部”……軍や警察に属さぬ非公式の部隊。存在自体、記録には残されていない。長年、影で反体制分子を消してきた者たちだろう」
蓮は拳を震わせた。
「卑怯だ……!正面から戦えないからって!」
「卑怯だからこそ、恐ろしい」
神宮寺は低く言った。
「奴らは痕跡を残さず、静かに近づき、首だけを刈り取る。革命を潰すには最も効果的だ」
被害は幹部だけに留まらなかった。
地方で炊き出しを行っていた市民団体が、夜中に襲撃される。
支援物資の倉庫が爆破される。
連合に協力していた大学教授が行方不明になる。
「……俺たちの仲間だけじゃない。支えてくれる市民まで……!」
蓮の声には怒りが混じっていた。
だがその一方で、不穏な噂が流れ始める。
「内部に裏切り者がいるのではないか」
「情報が漏れているに違いない」
疑心暗鬼が連合の中にも広がり、空気は重苦しさを増していった。
鷹村が唸る。
「影の奴ら……心理戦まで仕掛けてやがる」
神宮寺は全員を見渡し、静かに言った。
「忘れるな。我らが守るべきは“民”だ。影は民の心を折ろうとしている。ならば我らは、それ以上の希望を示さねばならん」
その言葉に幹部たちは拳を握ったが、誰もが緊張を隠せなかった。
そして、その夜――。
本部の周囲で、犬が吠え、風が止む。
蓮は直感で刀を抜いた。
「……来る!」
暗闇に紛れた気配が迫る。
無数の影が、連合の心臓部を貫こうと忍び寄っていた。
新・任侠連合と“影の牙”――その死闘の幕が、いま上がろうとしていた。




