第11章 闇の牙
蓮の暗殺未遂から数日後。
仁誠会の事務所周辺では、見慣れぬ顔がちらつくようになっていた。
通行人を装い、同じ場所を何度も往復する男。
深夜に路地裏で何かを記録する女。
「……完全にマークされてやがるな」
鷹村が窓から外を睨む。
神宮寺は静かに頷いた。
「ならば、逆に利用するまでだ」
その夜、蓮は仲間と共に、怪しい影を一人尾行した。
路地裏に入った瞬間、待ち伏せしていた鷹村が立ちふさがる。
「動くな」
スパイは逃げようとしたが、瞬時に取り押さえられた。
事務所に連れ込まれ、椅子に縛り付けられると、鷹村が低く問いかけた。
「さて……誰の差し金だ?」
スパイは口を閉ざす。
だが蓮が思わず叫んだ。
「お前らのせいで市民が犠牲になってるんだ!
どれだけの人が苦しんでるか分かってんのか!」
その声に、一瞬スパイの顔が歪む。
鷹村はその隙を見逃さなかった。
無言で机に書類を叩きつける。
そこには、彼らが持ち歩いていた“任務リスト”が記されていた。
内容を見た瞬間、蓮の目が見開かれる。
「……これ……まさか」
神宮寺が書類を拾い上げ、低く読み上げた。
『仁誠会の拠点だけでなく、関係する一般人の家、商店、学校にまで監視網を拡大』
『必要あれば“事故”として処理』
「市民まで巻き込むつもりか……!」
蓮が怒りに震える。
神宮寺の眼光は鋭く光った。
「これは単なる抗争ではない。……政府は、己に歯向かう者を根絶やしにしようとしている」
スパイは震える声で言った。
「俺たちも……命令に従うしかないんだ……拒めば家族が……」
その言葉に、事務所の空気が張り詰めた。
敵ですら被害者であることを、全員が悟った。
神宮寺はしばし沈黙し、やがて低く呟いた。
「ならば、守るべき民はますます増えたということだ」
その夜、仁誠会は決意を新たにした。
政府の牙が民衆へと向く前に――必ず叩かなければならない。




