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仁義の革命  作者: KAZ
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第1章 流れ者の青年

※本作はフィクションです。登場する国家・政府・団体・人物・出来事などはすべて架空のものであり、実在のいかなる存在とも一切関係ありません。


20XX年、「日本列島連邦」は極端な格差と政府腐敗により、表社会の信用が崩壊。

一方、裏社会のリーダーは人道的な方針を打ち出し、民衆の支持を集める。

国家権力 vs 仁誠会の内戦が始まる。

革命か、それとも支配の交代か——

夜の新宿は、どこか腐った匂いがした。

雨上がりのアスファルトにはネオンが滲み、行き場をなくした人間たちが影のように蠢いている。


篠崎蓮は、その群れの中で一人だった。

大学を出ても就職は決まらず、派遣で食いつなぎ、やがて借金に追われ、最後には家族からも見放された。

財布の中には千円札が一枚。明日の寝床も決まっていない。


「……笑えるよな。生きてる意味、あるのかよ」


吐き出した声は、夜の雑踏にすぐ溶けた。

誰も彼を気にかけない。世の中はそういう仕組みになっている。


ふと、背後から声がかかった。


「おい、兄ちゃん。死にそうな顔してんな」


振り返ると、スーツ姿の男が立っていた。

鋭い目つきに背広の襟元から覗く刺青。明らかに“普通”ではない人種。


「……何ですか」

「飯、食ったか?」

「は?」


男はにやりと笑った。


「ただの世間話だよ。だが、腹が減ってんならいい所を知ってる。炊き出しだ」


怪しい誘いだと思った。だが、空腹には勝てない。

蓮は気づけば、男の背を追って歩き出していた。


辿り着いたのは、場末の公園。

テントの前に並ぶ人々に、温かな味噌汁とおにぎりが配られている。

そしてその中心に掲げられていた旗には、力強い二文字が刻まれていた。


――「仁誠」。


蓮はその名を、その夜、初めて目にした。


「兄ちゃん、こっち座れ」

先ほど声をかけてきた男が、蓮を列の端に案内する。

列に並ぶのは浮浪者ばかりではなかった。スーツを着た中年、リュックを抱えた学生風の若者、ベビーカーを押す母親まで。

――誰もが行き場をなくした者たちだった。


渡されたおにぎりは温かく、味噌汁はしみるように旨かった。

蓮は一気に食べ終え、気づけば涙がこぼれていた。


「……なんだよこれ」

「腹に入れば、何でもうめぇんだよ」

横で笑ったのは、給仕をしていた強面の男。腕には龍の刺青が覗いている。

だが、その手つきは驚くほど丁寧だった。


「俺たちは“仁誠会”って組でな。見ての通り、裏の人間だ」

「……ヤクザが、炊き出し?」

「おかしいか?」

「いや……」


蓮は答えられなかった。

だが胸の奥で何かが揺らいでいた。


そのとき、公園に黒塗りの車が到着した。

降り立ったのは、威圧感そのものの男――スーツ姿に白髪交じりのオールバック。

一歩踏み出すだけで、場の空気が変わる。


「会長、お疲れさまです!」

「今日も元気だな、皆」

組員たちは口々に声をかけ、頭を深く下げる。

「今日も会長が来てくれて安心します」

「神宮寺会長……!」


彼こそが仁誠会の会長・神宮寺剛。

民を救う任侠の旗を掲げる男。


神宮寺は蓮に目を留めると、低い声で言った。

「……新入りか?」

「い、いえ……俺はただ……」

「拾った」先ほどの男が答える。「行き場がなさそうだったんで」


神宮寺はしばし蓮を見つめ――そして笑った。

「良い眼をしている。お前、名前は?」

「……篠崎、蓮です」

「蓮か。今日からここはお前の居場所だ」


言葉の意味を飲み込めぬまま、蓮は立ち尽くした。

そのとき、横から肩を叩く大きな手があった。


「緊張すんなよ、坊主」

振り向けば、鋭い目と精悍な顔つきの若者が立っていた。

若頭・鷹村隼人。


「ここじゃ、飯が食えて、寝床があって……その代わりに仕事がある。それだけだ。簡単だろ?」

蓮は思わずうなずいた。

こうして篠崎蓮は、仁誠会の門を叩いた。

後に日本の行く末を変えることになる、大きな物語の始まりだった。

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