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耽美主義者で何が悪い

作者: はとたろ

私は耽美主義者である


誰が何と言おうが美しいものが好きだ


ブルジョワジーな世界が好きだ


非現実的で結構


私の辞書に妥協という文字はない


心の琴線に触れる楽曲


耽美を追求しておのが世界に拘るヴィジュアル系アーティスト


瞳と毛並みが美しいハスキー犬


妻の生まれ変わりを追い求め永遠の時を生きるVampire


濃厚な香りを放ち凛として咲き誇る気高くも美しい薔薇


夢を届ける宝塚歌劇


エロティシズムな愛を金色で表現するクリムト


世界最古の恋愛小説ベティエ版の「トリスタンとイズー」


愛する王子以外を拒み侵入者を殺め自らの養分にしてしまういばら姫


気の遠くなる時間をかけて形成された歴史の生き証人の宝石やパワーストーン


壊れた少女の心を想わせるオモチャのピアノの音色


この世には耽美なるモノたちが溢れ招いて心地よく私を酔わせてくれる




「智子~、ミネラルショー行くの遅くなっちゃうよ」


姉の呼び声で私はふと現実世界に引き戻される


「お姉さま…もう少し静かな声で呼んではくれませんか…あにはからんや、まだ支度が整っていないのですよ」


「なに言ってんのこの子は~、どうしても行きたいって駄々こねたのあんたでしょうが…ったく…変わり者なんだから」


智子…この名を呼ばれる度にげんなりせずにはいられない


なんと平凡で美しくない響きだろう


「ほらほら、もうこの紺色のワンピでいいからとっとと支度してっ」


6つ上の真輝は浮かない顔の私にお構いなしに手っ取り早くワンピースを選んで着替えを手伝ってくれた



腰まである漆黒の艶やかな髪は少しのクセもなく風が吹けば甘い香りを放ちながらふわりとなびく


くせ毛の私はシルクのように美しいぬばたまの姉の髪に幼い頃から憧れている


パタパタパタ…


「お待たせ~弘治、ごめんね、この子ぼんやりしてるから…」


愛車の運転席で待っていた姉の旦那様の弘治さんが苦笑いしながらドアを開けてくれた


「お兄様、お待たせして申し訳ない…」


「いいんだよ、智子ちゃん。今日のミネラルショーは俺も楽しみにしていたからね♪」


「この子、石との一期一会に憧れてるのよね」


「石との出会いは恋に落ちる刹那を想わせるような…」


「なるほど、ポエマーの君らしいな」


兄の弘治さんは初めて会った時から変わり者で人間嫌いな私を見下すことなくいつも温かく見守ってくれる人格者だ


そして喜ばしいことに伝説や伝承に詳しく色々と教えてくれる唯一私が尊敬するお方なのである


「気に入ってるんだね…そのムーンストーン」


私は左手首にしているムーンストーンのブレスレットを撫でながら応えた


「月姫様はお守りですから…」


以前、姉が目の手術を受けることが決まり不安でお守りがほしくてパワーストーンのネットショップでひとめぼれしてお迎えしたブレスレット…


名前は弘治兄さまがつけてくれた


月姫…なんと耽美な響きだろう…


「さあ着いたぞ」


ミネラルショーの会場に降りたつと…私の胸はあらたなる石との一期一会に早鐘のごとく高まっていた



「珍しい野外なのね! どこからみよっか、智子?」


「ドキドキしてきました…おそらくは運命が導いてくれるでしょう…」


「出たよ~ふふ、ま、でもこーゆーのって縁だからね」


「まずはひと回りするか♪気に入った石があったら教えてな」


アクアマリンの空に見守られながら散策は心地よく私達は美しい石たちに惹かれるままに足を止める


「お姉さま、お兄様、なんて楽しいんでしょう♪」


「ふふふ、智子ちゃんが楽しそうで良かったよ。ねえ真輝…」


「そうね、この子、めったに喜ばないから(笑)」


その時…キラキラと輝く透き通ったピンク色のモルガナイトの指輪が視野に飛び込み、私は釘付けになってしまった


「なんて…美しい…」


「お気に召しましたか? モルガナイトは姉妹石…姉妹の絆を強固にしますよ」


「おいくら…ですか…」


帽子を深々と被った青年は顔をあげて私を見ると「5000円でいいです」


「えっ…5000…円…?」


「このクオリティで安過ぎない? 」石に詳しい姉が思わず質問する


「この石が…あなたを気に入ったようなので…」


なんという煌めき!! なんという透明感だろう…そしてなんて可憐なピンク色…


お姉さまとの絆を深めるモルガナイトがどうしても欲しくなった私は一も二もなく店主に言った


「ください!!着けて行きます」梱包を断り右手の薬指に指輪をはめた


「帰ったらこのお香で浄化してあげてください」


そう言い店主はホワイトセージのお香もサービスしてくれた


薬指でキラキラ輝くモルガナイトはまるで楽しそうに笑っているように思えて思わず顔がほころんでしまう



「素敵な一期一会だね、智子ちゃん」


「姉妹石に惹かれるとはシスコンのあんたらしいわ(笑)」


「自分でも不思議なの…モルガナイトを買うつもりなくて全くの無計画で来たから…でも…これが本当の運命なのね…


私、この石に恋をしたんだわ」


「智子ちゃんはロマンティストだね…」


お兄様はローズクォーツのポイント、お姉さまは虹入りのシトリンをお迎えしてホクホク顔で我が家にたどり着くとさっそくお香で煙をくゆらし指輪を浄化して

身に着けた


「偉い気に入りようね~入って良かったね」


優しくてさっぱりして面倒見のいいお姉さま


私は身体の弱い彼女が心配で少しでもサポート出来ればと思い苦手な勉強を必死で頑張り薬剤師の資格をとった


そして旦那様の弘治お兄様はお姉さま専属のドクターなのである


「彼女を一生守りたくて医者になったんだ…正直、他の患者さんに情はないけどね(笑)」


そんな極端な愛情表現も実に私好みである



恋愛体質でない分、一途で執拗な愛に憧れているのだ


Vampireの一途さを教えてくれたのは何を隠そうお兄様なのだから



ピンポーン♪


「誰か来たみたい、ちょっと見てくるね」



玄関のドアホンにはさっきモルガナイトを買った店主が微笑んでいた


「おお、待ってたぞ♪入れよ」


あっけに取られている私にお兄様が悪戯っぽく微笑んで彼を紹介した


「俺の幼馴染のひろみ。女みたいな名前だけど意外と男らしいんだよ、こちら智子ちゃん」


「ひろくん、今夜はしゃぶしゃぶよ~いっぱい食べてね」


ニコニコして彼を歓迎するお姉さまに私は二度びっくり


「うちの妹、変わり者だけど仲良くしてやって(笑)」


「噂はかねがね…はじめまして…じゃないね(笑)山口ひろみです、智子ちゃん、よろしくね」


差し出された手を躊躇なく握って握手を交わした


男嫌いの私らしからぬ行動ではないか…



「きみ…前世がお姫様だからね…プライドが高くて好き嫌いが激しいのも致し方ないよ」


な、なんですと?


なんという…きょうみをそそらずにはいられない物言いをなさる方だ…


「こいつ、変わってるんだよ、気にしないで、やたら霊感強くてスピリチュアル系や伝説にも詳しいんだ」


「わ、私もです。伝説や伝承、スピリチュアル系や心霊にしか興味なくて」


「嬉しいな、気が合いそうだね」


私は自他ともに認める耽美主義者である


私の辞書に妥協という文字はない


ひろみと名乗るその彼はお兄様同様に長身で涼し気な瞳の麗しい紳士であった


「指輪、よく似合ってるよ…名前は…きーちゃんもーちゃんがいい」


おお…!!お姉さまの真輝のきーに、私の智子のもーを合わせた…なんてハイセンスなネーミング!!


「きーちゃんもーちゃんをしていると不思議と心が落ち着くんです…こんなに愛らしく輝くんですもの」


「喜んでる…」


「えっ…」


「ああ、ごめん、僕には石の声が聞こえるんだ」


「あの、よろしければもっと詳しく聞かせていただけますか?」


「もちろん、こんなこと、話すの弘治と真輝ちゃん以外、きみが初めてだよ。嬉しいな」


石の言葉を聞こえる人…


なんて素晴らしい一期一会でしょう…


モルガナイトのきーちゃんもーちゃんは姉妹の絆ばかりでなく運命の糸をも惹き寄せてくれたのです













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