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鮮血の公爵閣下の深愛は触癒の乙女にのみ捧げられる~虐げられた令嬢は魔力回復係になりました~  作者: 束原ミヤコ


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告げ口上手な女



 ◆



 貴族というのは、魔力の有無によりその価値が変わる。

 魔力の有無は生まれたときに決まる。例えばジルバやアレクシスのように、国に名を馳せる貴族たちは魔竜を討伐できるほどの魔力を持つ。

 この力が人に向けられると恐ろしい脅威になるために、国王は貴族たちの私闘を禁じている。

 では、フィオーレ伯爵家はどうかといえば、レイモンドには魔力がほとんどない。


 少なくとも、アレクシスのように触媒を使用し魔法を発現させるようなことはできない。

 マデリーンも同様だ。とはいえ、魔力があれば魔竜討伐や、戦争での出兵という職務が国王から与えられてしまう。だからむしろ、そういった優雅でない行為を嫌うマデリーンは己に魔力がないことを喜んでいた。


 レイモンドについては『出世をしない男』と陰口を言っていたが、それでも爵位が吹けば飛ぶような男爵家の長女だったマデリーンにとっては破格の結婚相手である。

 マデリーンは結婚相手を探して、仮面舞踏会に度々参加をしていた。

 そこには多くの貴族たちが身分を隠して集まる。

 家格が上の男の子種を宿すことができれば儲けものである。側室にしてもらうことさえできれば、正妻を追い出してしまえばいいのだ。

 そして手に入れたのが、フィオーレ家というわけだ。

 だが、エストは伯爵令嬢。そんなことをする必要はない。ふさわしい相手を探せばいい。

 そう、マデリーンに言われていた。

 それは暗に『レイモンドのような男よりもよい相手と結婚をしろ』という意味であった。


 トリスタンにも彼女は『可愛くて従順で素直で、金のあるお嬢さんを探してあげる』と言ったが、トリスタンは「くだらない」と、彼女のいないところで嘆息していた。

 実際トリスタンは、結婚には興味がないように、学園で近づいてくる貴族の子女たちに冷たくしている。

 弟は女に興味がないのだろうと、エストは思っている。


 エストは──母よりもよい相手を見つけることが出来るという自負があった。

 その理由は、エストに魔力があることに起因している。


「……よいことを聞いたわ」


 呟きと共に、エストが手にしていた薔薇がぼろりと崩れて、砂のように消えた。

 エストの触媒は、薔薇の花。それを使用することで、戦いには向かないが、とある魔法を使うことができた。

 それは、聞き耳だ。エストは離れた場所から、他者の話し声を聞くことが出来る。

 その力を使い、例えばシャルリアやラティアに同情し、マデリーンやエストの悪口を言っている使用人のことをマデリーンに報告し、罰を与えて家から追い出した。

 ラティアのことも監視して、少しでも不満を口にしていればマデリーンに報告し罰を与えさせた。

 ラティアは不平不満を言わないので、時には嘘をつき、罪をなすりつけて罰を与えたが──。


 学園でアレクシスに恥をかかされた。

 ラティアを連れ戻すための嘘をついたが、アレクシスがラティアを守ったのだ。

 何もかもが気に入らなかった。

 ラティアがヴァルドール家に保護されているなど、気に入らない。

 彼の妻の座に収まるなどもっての他だ。

 ヴァルドール公爵よりも立場や身分が上の者といえば国王ぐらいである。

 エストの立場とは、いつだってラティアよりも上でなくてはいけないのだ。アレクシスがエストを選ぶのならばいいが、その望みは薄い。

 何よりもエストに暴力を振るった男と結婚をするなんて、ありえない。


 ラティアは連れ戻して、母に頼み気色の悪い男の妻にするか、もしくは娼館にでも売ってしまえばいいと思えど、アレクシスがいるかぎりそれも難しそうである。


 だが、許せない。憤りのままに、聞き耳の魔法を使ってラティアたちの動向を探った。

 聞き耳の範囲は、おおよそ王城の端から端まで、程度である。

 エストは度々、城のパーティーで魔法を使い、何かおもしろいことはないかと調べていたのだ。

 だから、アレクシスたちの尾行は容易かった。

 王都の片隅にある家の中の声など、離れた場所にあるカフェで優雅に茶を飲みながらでも聞くことができる。

 

 どうやら、アレクシスは罪を犯したジルバに手を貸している。

 そして──彼がラティアを傍に置いているのは、ラティアに力があるからだ。

 それは触癒という、リーニエの巫女の力。

 ラティアにもシャルリアと同様に力があった。

 それを家族にずっと隠していた。エストたちは、ラティアに騙されていた。

 その力があれば、フィオーレ家は多くの金と名誉を手に入れて、今よりももっと繁栄していただろう。


「許せないわね、嘘つきのお姉様。必ず、報復をしてあげる。私をあんな目に合わせたアレクシスにも、罰を与えなくてはいけないわ」


 エストはカフェテラスの椅子から立ち上がった。

 テーブルに金を置くと、足取りも軽くフィオーレ家のタウンハウスに向かった。


「お母様、大変です、お母様!」

「エスト、どうしたの? まだ学園の授業中ではないのかしら」

「それどころではありません。お姉様が、学園に現れたのです」

「ラティアが?」

「ええ。アレクシス様と一緒に。ラティアはまるでアレクシス様の妻のようにふるまっていました。私のことも、馬鹿にしてきたのですよ。たかが伯爵家の女が、アレクシス様の妻である私に話しかけるな! などと言われました。ひどい」


 うるうると瞳を潤ませてマデリーンに訴えると、マデリーンは怒りの形相で、飲んでいた紅茶のティーカップを壁に投げつけた。

 カップが割れて、液体が床に広がる。使用人たちが、慌てて割れたカップを片付け始める。


「なんて女なの。育ててやった恩も忘れて、勝手にいなくなった挙句にそんな態度をとるなんて」

「本当にそうですよね、お母様。それにお姉様は私たちに嘘をついていたのです。お姉様には、シャルリアと同じように力があります。あの女には、触癒という、おそらくは触れたものを癒やす力があります」

「まぁ……! それは、よいことを聞いたわ。あの嘘つきを連れ戻す必要があるわね。巫女の力があるとすれば、きっと高値で売れるでしょう」


 そこでエストは悲し気に目を伏せた。


「アレクシス様がお姉様を守っています。連れ戻すことは難しいです。……ですが、アレクシス様は罪を犯しています。先ごろ、問題を起こしたジルバ様と結託をして、秘密裏に魔竜の影響で疫病にかかった、ジルバ様の孫娘の治療を、お姉様にさせていました」

「それは、国王陛下への反逆だわ。……よいことを教えてくれたわね、エスト」


 国王に報告をすれば、フィオーレ家は国王から信頼をされ、褒美を与えられるだろう。

 もしかしたら、エストが国王の花嫁に選ばれるかもしれない。

 そう言って、マデリーンは先ほどの怒りの形相からうって変わって、嬉しそうにころころと笑った。





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