触癒の巫女
ラティアがロザリアから体を離すと、ロザリアはどこか安堵したような息をひとつついた。
荒い呼吸も、高熱により紅潮した頬も──治っている。
ロザリアはベッドから体を起こして、それからふらりと倒れそうになる。
傍で見守っていたアリーチェが、その小さな体を抱きとめた。
「体が、熱くない……熱がさがったのね、ロザリア……!」
「うん、お母様……もう、苦しくない。すごい、奇跡みたい。お姉さんの、おかげ?」
「ええ、ええ、そうよ……! ラティア様のおかげだわ! ラティア様、本当にありがとうございます……! なんとお礼を言えばいいのか」
「気にしないで、ください。ロザリアさんが元気になってくれれば、それで十分ですから」
よかったと泣きながら、アリーチェがロザリアを抱きしめる。
ロザリアはアリーチェの腕の中で、安心したように微笑んだ。そんな彼女たちをジルバが大きな体で包み込むように抱いた。
アリーチェは、何も言わなかった。ロザリアは目を白黒させたあと、「おじい様、面白い格好をしているわ!」と言って、ころころ笑った。
「ラティア、よくやった」
「……旦那様、約束を守らなくて、ごめんなさい」
「気にするな。お前はお前の好きなように生きるといい。お前の力がなければ、失われていた命だ。己の勇気を誇るべきだ」
「はい。……ありがとうございます」
アレクシスに褒められて、ラティアははにかむ。
誰かに褒められるという経験に乏しいために、くすぐったさを感じた。
「ルクエ、ロザリアさんはもう、大丈夫ですか?」
『あぁ。乱れていた魔力が、正常に戻った。君は、リーニエの巫女。だから、心配をしなくていい』
「はい」
「ではラティア、戻るぞ。もう用は終わった。ジルバ殿、アリーチェ、ラティアの力は内密にするように。もし皆にこのことを知られれば、彼女の力を欲するものが多く現れるだろう」
早々にラティアを連れて部屋から立ち去ろうとするアレクシスを、アリーチェは引き止めた。
「待ってください、お礼を……!」
「必要ない。あいにくと、ヴァルドール家は金には困っていない。礼は言葉だけで十分だ。そうだな、ラティア」
「はい。ロザリアさんが元気になれば、それでもう十分です。でも、できれば……」
ラティアは軽く眉を寄せる。
ロザリアを守ろうとしているアリーチェの姿に、在りし日の母の姿が重なって見えた。
「ジルバ様を、頼ってください。アリーチェ様のためにも、ロザリアさんのためにも」
「……ええ。……父が反省をしていること、私を嫌っていたわけではないことは、よくわかりました。ロザリアのためにも、意地を張るべきではないのでしょうね。それに、今のままではラティア様にお礼もできないものね」
「私へのお礼は、大丈夫です。お二人が、心安らかに暮らせることを願っています」
ラティアはアリーチェに深く礼をした。
アレクシスに促されて部屋を出ようとするラティアの背に、ジルバが大きな声で話しかけてくる。
「この雷将ジルバ・マルドゥーク、何があってもアレクシスやラティアの味方になることを約束しよう。困ったことがあれば呼ぶといい。雷鳴のごとく、すぐに駆け付ける」
「……不要だ。いいか、ジルバ殿。陛下の逆鱗に触れたくなければ、アリーチェとロザリアを連れて早々に領地に戻れ。蟄居の罰が消えたわけではないのだから」
「あぁ。迷惑をかけたな。世話になった。本当に、ありがとう。不要だとは思うが、謝礼金をあとで送る。ラティアにドレスや宝石を買ってやってくれ」
「それは私の金で買う。何故貴殿からの謝礼金を使う必要があるのだ」
アレクシスの返答を聞いて、アリーチェが「まぁ」と言って、くすくす笑った。
「愛されていますね、ラティア様」
「い、いえ、私は、侍女、です」
「……行くぞ、ラティア」
「はい、旦那様」
アリーチェの腕の中にいたロザリアが「お姉さん、ありがとう!」と、張りのある声で言った。
ラティアはもう一度礼をすると、小さな家を後にした。
役立たずとばかり言われてきたが、こんな自分でも役に立つことができた。
それは母やアレクシスのいいつけを破ることではあったのだが、誰かを救えたことが、ラティアの心にあたたかな光を溢れさせていた。




