不審者
王都までは、三日の旅路だった。
馬車ではもっと長くかかった気がするが、目まぐるしく変化する日常についていくのがやっとで、ラティアは王都からヴァルドール公爵家にかかった正確な日数を覚えていない。
多くの兵たちと共に移動する厳かな旅路だった。兵士たちは野営をし、アレクシスやラティア、そして侍女たちは宿に泊まっていたことは覚えている。あの時はただただ萎縮し、戸惑っていた。
アレクシスのために何をするべきかをずっと、思い悩んでいたような気もする。もしくは、何かを考えていたつもりで、何も考えることができなかったのかもしれない。
使命感に突き動かされるように、アレクシスの役に立ちたいと望んでいた。
それは今も変わらないが、彼との距離が近づいたせいだろうか、ラティアにも少しだけ色々なことに目を向ける余裕が出てきたのかもしれない。
王都は華やかで、賑やかだ。多くの人が通りを行きかい、白壁の美しい建物からは、よい香りが漂ってくる。
レストラン。宝石店。服飾店。武器屋。雑貨屋。
アレクシスと共に馬に揺られながら、ラティアは目についた看板を小さな声で読みあげる。
「気になる店があるか?」
「あ……い、いえ、そういうわけではなくて。文字が読めるのが、嬉しいです」
「そうか。旅の最中、よく聖典を読んでいたな。本を買おうか」
「いいのですか?」
「あぁ。お前がそうしたいのならば、構わない。本屋ごと買い取ってもいい」
「それは、困ります……」
アレクシスは冗談を言うのかと、ラティアは驚く。
大通りを通り過ぎ、閑静な住宅街へとたどり着く。どの屋敷も立派な作りで、庭が広い。敷地を覆うようにぐるりと柵があり、入口は門で閉じられている。
門の前にアレクシスが姿を見せると、門番が門を開いてアレクシスを中へと招き入れる。
この場所は、ラティアも知っている。
意識を失ったラティアが、アレクシスによって連れてこられた場所だ。
ヴァルドール家のタウンハウスである。
ヴァルドール家には、この家の他にも地方にいくつかの屋敷と城がある。
だがアレクシスはそれをほとんど使用したことがないのだと、ファリナが言っていた。
伯爵家には、タウンハウスと伯爵家の二軒しか家がない。それでも十分すぎるのだろうが、ヴァルドール家とは格が違うのだと、家や使用人の規模を見ているとまざまざと感じる。
家の中に入ると、すぐに使用人が駆け寄ってきた。
「旦那様、お待ちしておりました。客人がいらしています。旦那様にどうしても会いたいと言って……それはそれは、あやしい御仁でして。兵士たちで対処しようとしまいしたが、すごく強いのです。猛獣です」
何度も帰ってくれと言ったが、アレクシスに会うまでは帰らないと言っている。どうしてか、正面玄関ではなく、裏庭の門の前に居座っている。
青ざめた顔で使用人が言うので、ラティアは思わず目を丸くした。
それはジルバだ。アレクシスは苦虫を嚙みつぶしたような表情を浮かべた。
「全く、ことがすむまで大人しくしていろと言ったはずだが」
「いてもたってもいられないのですね、きっと」
「どうしようもない」
アレクシスと共に、ラティアは裏庭に向かう。
そこには──裏庭の門の前に仁王立ちで立っている、顔をカーニバルの仮面で隠した不審者がいた。




