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第6話 ギガルーパー

「確認が取れました! これまでのご無礼、どうかお許しください!」

 

 それから数分後。

 小走りで戻ってきた受付嬢さんは、慌てた様子で私に頭を下げた。


「良かった! 信用してもらえたんだ」

「もちろんです!」


 流石は冒険者ギルド、鱗の価値がきちんとわかる人がいたらしい。

 これで分かってもらえなかったら、実際に魔法をぶっ放すしかなかったからねー。

 穏便な方法で済んで何よりだ。


「では数日以内に、身分を証明するギルドカードを発行いたしますね。それまでは、この支部以外の支部の利用は控えてください。それから街中での魔法の使用も禁止です。」

「はーい」

「どうします? さっそく依頼を受けて行かれますか?」


 うーん、どうしよっかな。

 まだ路銀には困っていないが、冒険者の仕事にも興味はある。

 せっかくだし、何か良さそうなものがあれば受けてみようかな。

 どうせなら……。


「美味しいモンスターの討伐依頼とかってある?」

「稼げる依頼ってことですか?」

「その美味しいじゃなくてさ。食べて美味しいモンスターとかっていないの?」

「ララート様! まさか、またモンスターのお肉を食べる気ですか!」


 呆れたような顔で、イルーシャが会話に割って入ってきた。

 ったく、お母さんみたいだな。


「いいじゃん。さっきも言ったけど、里の掟は里の外じゃ関係ないよ」

「むむむむむ! そんなにお肉ばっかり食べてたら身体に悪いですよ! 野菜もしっかり食べてください!」

「いや食べてるからね? 普通に食べてるからね?」

「そう言って、この間は薄く切ったお芋しか食べてなかったじゃないですか!」


 薄く切った芋というのは、ララートさん特製のポテトチップスのことである。

 旅の途中で試作したのだが、あまりのおいしさに食べ過ぎてその日はそれだけしか食べなかった。

 ま、ポテチってカロリーの塊みたいなもんだからね。

 うっかり食べ過ぎて、ご飯がお腹に入らなくなっちゃったのだ。


「お芋は野菜だからセーフ」

「確かにお芋は野菜ですけど! そうじゃないんです!」

「あー、とにかくおいしいモンスターを倒しに行くの! これは師匠命令だよ!」


 もう起こったとばかりに、私は強権を振るった。

 ふふふ、どれだけしっかり者だとしてもイルーシャは私の弟子。

 師匠が本気になれば絶対に逆らえないのだ!


「そういうわけで、美味しいモンスターの依頼を紹介して!」

「申し訳ありません。そのような観点で依頼を探したことがなく……。ご期待には添えかねます」

「ええっ!?」

「当然じゃないですか。そんな依頼を探そうとするのはララート様だけですよー」


 驚く私をイルーシャは何とも冷ややかな眼で見てきた。

 ぐぬぬ、これがざまぁというやつか?

 私も前世ではそういうの好きだったけど、される側になると何とも言えないムカつきがある。

 とはいえ、探せないものは探せないだろうからなぁ。

 自分でそれらしいものを見つけて突撃するしかなさそうだけど……。


「お困りみたいだな、エルフさん」


 こうして私が唸っていると、誰かが声を掛けてきた。

 振り返ると、背が高く筋骨隆々とした男が立っている。

 年の頃は四十といったところだろうか。

 どことなく人懐っこい雰囲気だが、修羅場はそれなりにくぐっているのだろう。

 歴戦の戦士にしか出せない独特の風格がある。


「こっちまで声が聞こえたぜ。美味しいモンスターを探してるんだって?」

「まあ、そうだけど」

「だったら、俺と一緒にギガルーパーの討伐に行かねえか?」

「ギガルーパー?」


 初めて聞くモンスターの名前であった。

 少なくとも、森には生息していない種である。

 どうしたものかと私とイルーシャが顔を見合わせると、男は説明を始める。


「ギガルーパーってのはでけえサンショウウオだな。人間も食っちまう凶悪なモンスターなんだが、この肉が意外とうめえんだ。さっぱりしてて、魚と肉の中間みてえなちょっと不思議な感じだな」

「うわ、いいね! 食べたい!」


 魚と肉の中間なんて、どんなのかすっごい気になるじゃん!

 私は男の提案に、一もにもなく賛成した。

 これはぜひ食べに行かなきゃなぁ……。

 私がギガルーパーの味に思いをはせていると、とすかさずイルーシャが不機嫌そうな顔をして言う。


「……大丈夫ですか? ちょっと怪しくないです?」

「平気だよ、いざとなれば魔法でどうとでもなるし」

「しかしですね……。何かあってからでは……」

「ボーズさんなら信用できますよ」


 ここで、受付嬢さんが会話に入ってきた。

 彼女はボーズと呼んだ男の方を見ながら、にっこりと笑みを浮かべる。


「ボーズさんは十年以上もこのギルドで働いているベテランさんですから。特に問題を起こしたという話も聞きません。依頼主からの評判も良いですね」

「へえ、なら安心だ」


 受付嬢さんがここまで言うなら、まず信用して大丈夫だろう。

 ギルドの信用問題になるし、よほどの人でなければこうは言うまい。

 私を怒らせたらギルドがヤバいことになるっていうのは分かってるだろうし。


「よろしくね、ボーズさん。私はララート。で、こっちがイルーシャ」

「……しょうがないですね。分かりました、よろしくお願いします」


 イルーシャは渋々と言った様子ながらも、ボーズさんに頭を下げた。

 こうして私たちは、ギガルーパーなるモンスターを倒しに行くこととなったのだった。


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