幼馴染が執拗にカップルy⚪︎uTuberの相手に誘ってくる
俺、夜登美めぶきと朝茂いぐさは生まれた頃からの幼馴染である。
家は隣、年齢も同じだったし、小中も一緒だった。ただ流石に気まずいという理由で、高校は被らないようにするため、あえてお互い教えないようにしたので別々である。しかし、別とはいえ、お互い近い学校に入学してしまっためかなり会う頻度が高い。
今日も下校中、ばったりいぐさに会ってしまった。今日も変なあだ名で彼女は呼んでくる。
「めーろう、暇だねえ?」
「暇だな」
いぐさがめちゃくちゃ笑顔で俺の肩にポンと手を置く。
……この顔、またか。
「じゃあ……カッッ」
「次にプがつくものならやらない」
ニコニコだったいぐさがぷーっと顔を膨らます。
「むう……めーろうはいじわるだ。言うことぐらいはさせてくれたっていいじゃないか」
「意地悪ったって……それ今週だけで12回も言われている。言われなくても分かってしまうんだよ。…………おおっと!早く帰らないと、約束があるんだった」
わざとらしく声を出し、ついているはずの無い腕時計を袖をチラチラあげて確認する。こいつはこれからもずっと誘ってくる。いぐさとカップルY⚪︎uTuberとして活動して、ネットに晒すなんて俺はごめんだ。
俺は小走りで家に向かう。怒るようないぐさの声が聞こえた。バイバイをしておこう。
「めーーーろうッ」
「またな」
「……いぐさ、諦める気無いからね」
「……」
どうやら追いかける気は無いようで、ボソッと小さな声で彼女はそう呟いた。
正直俺は不思議に思う。彼女は俺と親密な関係になりたくて、カップルY⚪︎uTuberをしたい訳ではないだろう。今まで俺と彼女は兄弟のようであったし、喧嘩も激しかった。お互い恋愛について話したこともなければ、異性として意識しあったこも……無かったはずだ。ただカップルチャンネルを作りたいぐらいなら、彼女は選び放題なのだ。
何故なら、俺の幼馴染はドジかわいい美少女ちゃんだから。
……うん、クラスの一軍の中心に居て、よく可愛がられていると同じ学校にいる友達に話を聞く。だからそんな彼女が高校の男子に頼めばイチコロだ。高嶺の華とまではいかないが、それでも彼女とイチャイチャできることは名誉なことらしいからな。だから俺じゃなくていいんだよな。だから分からない。彼女が俺を一か月以上、しつこく誘ってくることに。
「おかえり、めぶき」
「はあ……」
走って家に入り、玄関で扉を背にする形で座り込む。
「なんで居るんだよ、おかしいだろ」
「だってー。……お願いだ、一本でいいから、っ」
いぐさが俺の母の後ろに頭だけ顔を出すような形で隠れていた。
マジでなんでいるんだよ、どんだけ足が速いんだこいつは。
またザッパリ断って、家から追い出そうとしたがあまりにも目をうるうるさせているいぐさに、弱ってしまう。それに母親に聞かれてし待っているから冷たくするのはまずい。
「……今まで聞いてこなかったけど、何で撮りたいんだよ?」
「えっと……、言わなきゃ駄目?」
いぐさは顔を引っ込める。どこか、不安そうな顔をしていた。別に、何か深刻な理由があるならやってやらんこともないようなやりたくたいような。
「…正当な理由ならするわ」
「……えと、めーろうは、…もしいぐさが……、んんッ、いや……、1番の理由は僕がしたいからだな!2番目の理由はバズりたいから……?」
なんだその理由。カップルYouTuberのバズり方なんて大抵、炎上だけじゃないのか。
「やらない」
「……うう」
そういえば、いぐさは、途中まで話していたが、飲み込むように詰まっていた。何か言いたいけど、言いたい事かあるのだろうか。
結局この日は、同じ事を何回も繰り返した後、渋々いぐさは帰ろうとしていた。
「じゃあ……めーろう」
「おう、…」
しなしなの顔でいぶきは、俺に手を振って帰っていく。
もう夜だし、送ってやりたい。だけど、そんなことを考えてる間に彼女は隣なので、もうついてしまっていた。
——次の日、俺は教室で小学校から仲の良い友達のあきらとにしきと話していた。
「お前ってさあ、いぐさちゃんと付き合ったの?」
「いや?」
「じゃあ告白はいつすんの?」
「しない」
「なんで?だってお前いぐさちゃんのこと大好きじゃん」
俺はあきらをギッと睨む。
「……」
こいつら恋バナ大好きなんだよな。
あきらが言った、“俺がいぐさのことを大好き″……そうだよ、俺は彼女の事が好きだ。中1ぐらいからだろうか。俺が彼女に惹かれ始めたのは。ちょっとアピールしたりもした。ハンバーガー屋でちゅきんばーがーくださいと隣で言ってみたりした。勿論恋愛に発展しそうな感じは全く無かった。
「めぶきさ、いぐさちゃんの事ドジかわいい美少女とか言ってたもんな」
「い、言ってないけど?」
「嘘つけ」
「勇気出せよ、めぶき。だってもう……」
「分かってる」
彼らは俺が勇気がなくて、思いを伝えられないと思っているらしい。それは違うんだよな。俺だって、彼女に好きだとすっぱり言いたいよ。でも、言う事は出来ない。出来ないんだ。
一方その頃、いぐさも、高校からの親友のみかと話していた。
「いぐさぁ、で?誘えた?もう一ヶ月経ったよ」
「ううん、無理だ。やっぱりしてくんないや」
いぐさは机に顔をつけて、脱力していた。
「そ……、めぶきってやつもしぶといね。いぐさがこんなにお願いしてるのにね。てかほんと、なんでやりたいの?カップルチャンネル」
「それは……」
いぐさは言いづらそうにして、自分の手を眺める。みかはいぐさの事情や心情を知っている。暗くなったいぐさを慰めるようにみかは、軽く言う。
「もうほんとに告白して、付き合っちゃえば?」
「……駄目だ。それは、めーろうを困らせてしまう」
「そっか……」
いぐさはめぶきのことが好きだ。それは中2ぐらいかららしい。
「めーろう、僕のことをいーちゃんって呼んでくれなくなった。僕のこと、嫌いになったのかな」
「それは無いんじゃない?流石に。ほらほら今日も頑張って誘って来な。もうあんまり時間ないんでしょ?あと何日?」
「あと……3日」
「やばいじゃん、頑張れ」
「うん…」
(めーろうが引っ越すまで、あと三日)
この事実はいぐさの心を酷く焦らせていた。
家に帰ると、あまり見かけない靴が一足あった。嫌な予感がして、階段を上がると、俺の部屋の扉が少し開いている事に気がつく。これは……と思いつつゆっくり開けると、そのにはやはり、いぐさがいた。
「おかえりっ、めぇ〜ろう!」
「ただいま、いぐさ。俺の部屋、可愛くなってない?」
俺のベッドとソファしかない部屋は、ピンクの風船やかわいいクマの人形が置かれていた。それに、まあまあ大きめのカメラがソファの前に置かれている。こいつ、撮るために準備してきやがった…!!
「ふふ、逃げらんないよめーろう。さあ、撮ろうじゃないか……」
「くっ……」
デコレーションされた部屋に、驚いているとサッといぐさが扉を塞ぐように立つ。
「ほら、座るんだ」
「断るっ…」
「むむ、めーろう。これが目に入らないのか?」
「それは……っ」
彼女が手に持っているのは、俺の大好きなコンビニスイーツ。
「生クリームチョコバナナクレープが欲しいんじゃないのか〜?ほらほらぁ」
「くうっ……!!」
いつも行ったら売りきれな俺の大好物を餌にしてくるとは……やるなこいつ。でも、俺は食べ物なんかに釣られる安い奴じゃない!甘いものに釣られる男じゃ……!
俺はいつのまにかソファに座っていた。
「体が勝手に…?!」
「やるってことかいっ?!そうだよな、めぇろうっ!!」
目がきらつき、ニパニパの笑顔でいぐさは俺に近づく。
「……はあ、分かった。やるよ」
「わあああっ!」
いぐさは、顔から眩しい光が出てるんじゃないのかと思うほど、ルンルンだった。
なんでそんな嬉しそうなんだよ。……そんな顔。
彼女はカメラをセットし、俺を見る。
「俺何したらいいかわからないぞ」
「ひたすら僕とイチャイチャしてくれたらいいさ、めーろうは」
「いちゃ……???」
「撮るよ〜?」
「お、おう……」
いぐさは、カメラについてあるボタンを押し、俺の隣に座る。肩が、近い。ピロンッと音が鳴った。きっとこれは、もう始まってるんだろう。ちょっと緊張すんな。
「いぐと〜?」
「……めぶ……?」
「で、イグメブカップルですっ」
なんだそれ、意外とちゃんと考えてるんだな。
「本日は初撮りという事で、お互いの好きになった理由を発表したいとおもいまーす。まずはめぶから!」
いぐさは俺にウインクする。
おい、待て好きになった理由??俺いぐさにバレてたのか、と一瞬焦ったが、よく考えてみるとこういうチャンネルはそういう話題が需要あるし、よくバズるんだもんな。仕方ない……こんな形で本人にいう事になるとは思わなかったけど、嘘をつくのは嫌だしな。
「俺が…いぐを好きになった理由は……、中一の時転けて膝擦りむいたときにめっちゃ看病してくれて、保健室まで連れてってくれて、その健気なとこがすごく、かわ……好きになりました」
まじでこれは本当のことだ。言えなかったけど、かわいいと思ったのも本当だ。
ちら、と横を見るといぐさは特に顔色を変えてなかった。やっぱり、伝わるわけないよな。伝わっちゃダメだし。
「おおーっ、僕がめぶを好きになったのもそれに似てるかも。雨の日に、風邪になっちゃって眠れない時に、家まで来てくれて、眠れる音楽かけてくれたり、ゼリー買ってきてくれたり、優しいなって思って好きになりました!」
……そうだったのか。って、違う、これは演技だ。
そうだよな…と確認するためにいぐさを見ると真っ赤になっていた。
「……いぐ、」
「さ、さあ、次はお互いに感謝を伝え合いましょう!」
その後も何度もいぐさが提示したお題に合わせて、2人で答えていった。俺の知らない、いぐさの俺に対する思いや、思い出がいっぱい出てきて、自分まで熱くなった気がした。20分ぐらいだろうか、へんな挨拶で撮影が終わり、いぐさがカメラを止めに行く。
「なあ、それどうするんだ?アップするのか?」
「……しないよ、これは僕が、大切に保管する」
なんで、とは聞けなかった。いぐさの目には、大量の涙が浮かんでいた。
「……そうか。なあ、なんで撮りたかったのか、あの時言いかけたことがあっただろ?それを教えてくれないか」
「……めーろうは、もうすぐ引越しをしてしまう。実はね僕はね、君が好きだ……っ。でも、告白は、もうすぐ引っ越す君を縛らせたりしてしまう気がした。だから、この思いは、僕の思い出にしよう、って……ぅ、だから、一回でも、君と恋人になりたかった……ごめん、めーろう。大した理由じゃなくてさ。」
衝撃だった。
彼女が本当に俺が好きだと言うことと、同じ考えをしていたということ。
「……いぐさ、俺も同じだ。好きだ。でも、付き合えても、断られても、どっちにしろ遠距離でいぐさを困らせると思っていた。だから、拗れた関係になるぐらいなら、このままでいたいと思った。次に会えたら、告白しようと」
俺も、目の前でぐすぐすなくいぐさを見ていると、自然に涙が浮かんでくる。
「え……、それは、めーろう、両思いってこと、で…?」
「多分……」
「ううっ……なんだよぉ……、僕が君と付き合えたら困るはずも、断るはずもないじゃないかぁ…っ。」
「俺だって、お前に縛られて嫌にならない」
いぐさが俺の事を好きだと言ってくれた。俺も言ってしまった。じゃあ、あの撮っていた時に彼女が話した好きになった理由も嘘では無く、事実だったのかもしれない。
「好きだ、めーろう。僕と付き合ってくれませんか?」
「……はい、……」
俺からしたかったのに、と思ったが、俺からの告白は……次にあった時にしよう。
遂に、家から離れる日が来た。いぐさも、お見送りしてくれるらしい。
車から顔だけ出すような形で、いぐさと話す。
「めーろう、寂しくなるけど、またいっぱい電話したりしようなぁっ、」
「ああ。また会いに行く」
「……最後にいーちゃんって呼んでくれたり、?」
「……またな、いーちゃん」
それを言うと、車のエンジンがかかる。もう出発だ。
「またねっ、め〜ろう!」
いぐさの笑顔で俺はこの街を離れる。ああ、またな。
めぶきがいなくなった後、いぐさはスマホにうつしておいた録画をつける。
『俺が…いぐを好きになった理由は……、中一の時転けて膝擦りむいたときにめっちゃ看病してくれて、保健室まで連れてってくれて、その健気なとこがすごく、かわ……好きになりました』
「かわいいって言おうとしたのかな……えへえ」
照れながら話すめぶきを何回も何回も再生していたのは秘密である。