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続々 対策?

魔術師団の建物から出ると、来たときとはおそらく逆の方向に、ジアが歩き出した。


「どこ行くんですか?」

「帰りは表門から出たら」


どうやら、表門まで送ってくれるようだ。

ジアの横に並び、厳つく古い建物の間を歩く。

間をもたせようと、


「かっこいい人ですね」


とジアに話しかけた。


「誰が?」

「エリオルさん」


そりゃこの流れならエリオルしかいないだろう。

ジアは、こちらを向くことなく、「ふーん」と相槌を打った。


「ああいう人、苦手ですか?」

「苦手」

「どのあたりですか?顔?」

「男の顔なんてどうでもいいんだよ。ああいう何考えてるかわかんない貴族らしい奴が苦手なの」


確かにエリオルは、終始穏やかで人当たりが良く、彼の口元から笑みが絶えることはなかった。

感情の起伏が無い分、何を考えているかわからないと言われれば、そうかもしれない。


「じゃあイーリヤさん、いいじゃないですか。わかりやすそうで」


そう言って、私はちらりと、ジアの顔を伺った。

しかし彼には、返事をするつもりが無いようだ。


なぜジアは、適当な女と急いで結婚しなければならない程、イーリヤとの結婚を避けたかったのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えながら、晩夏の日差しの中を進んだ。




宮殿の正面には、青々とした庭園が広がっている。

その高さの揃った低木の間をさらに進むと、ぽかんと開けた場所がある。

以前通ったときに、国の行事などで市民に開放される広場なのだと聞いたが、そこにヤグラのようなものが組まれていることに気がついた。


「あれなんですか?この前は無かったですよね」


ジアは、私の指差す先をちらりと見て、


「今度、戦勝記念の祭りがあるから、その準備だろ」


と言った。


「えっお祭り!」


これまでの人生、楽しいお祭りに縁の無かった私は、つい声が大きくなる。


「屋台、などが、出るやつですか。他にもなにか、催しが、あるのですか」


ジアは、私の勢いに押されつつも、私の質問に答えを返す。


「そ、そうだな。この広場と、メイン通りには屋台が出るんじゃないか。パレードがあって、歌劇団やら楽団やらの舞台があって」


なんて楽しそうな響きなのだろう。

目を輝かせる私に、ジアは「あ、それと」と付け足した。


「祭りの最後の催しとして、ザルツァの国宝を使うそうだ」


ジアの声色が、少しだけ変わる。


ザルツァでは、国宝を使った儀式が、大衆の目に触れることは無かった。

そのため、随分大っぴらにするのだなとは思ったものの、母国から奪われたからどうこうといった感情は湧いてこない。

それにしても、戦勝祝いの場で使おうというのだから、やはり今回の戦争はザルツァの国宝を奪うためのものだったのだろう。


「国宝は、誰が使うんですか?使える人間は、ザルツァの中でも三人ほどしかいないかと思いますが」


ジアはちょっとの間考えてから、おそらく私に言って良い話なのかどうかを考えてから、口を開く。


「戦争中に、その『魔法使い』との交渉は済んだそうだ。もうそいつ一人しか残ってないらしい」

「えっ、魔法使いがですか?一人?」

「らしい」


修道院に入る前、西の魔法使いは三人であると聞いていた。母親に、その娘と息子の三人である。

しかしそうか、六年も前の話なのだから、状況が変わっていてもおかしくはない。

いや、でも


「何人いてほしかったんだ?」


出口のない考えごとが、ジアの冗談めいた問いかけによって遮られる。

なんだか「お前の考える話じゃないだろ」と言われたような気がして、肩の力が抜けてしまった。

自然と頬が緩む。

私もふざけて


「三人。三人いてほしかったです」


と言うと、「あーそりゃ三人もいればいいよなぁ」とジアが呟いた。


ジアは、私のことを深く詮索しない。

ただ単に、興味がないだけなのかもしれないし、あるいはジア自身が詮索されたくないだけなのかもしれない。

でも、この関係は、悪くない。


秋はこの広場でビール祭りしましょうなどと話しながら、我々は表門へと歩いた。

決闘まであと五日であった。

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