表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/22

対策?

翌日の昼過ぎ。


私は、ジアに言われた通り、王城の裏門までやって来た。

使用人の出入りや、物資の搬入用に使われている場所のようで、人と物が慌ただしく行き交っている。

警備兵に睨まれつつ裏門付近をウロウロしていたのだが、程なくして無事、ジアと合流することができた。


門を通り、「こっちだ」というジアについて行く。

宮殿の後ろ側を歩いているのだろうが、商人の通用口や厨房の裏手、洗濯物を干すところなど、王城とは思えない現実的な並びが面白く、ついキョロキョロとしてしまう。

そんな中で、ふと、


「制服着なくていいんですか?」


とジアに尋ねた。

ジアは、シャツとズボンだけのラフな服装で現れた。

初めはそんなものかと思ったが、さっきからすれ違う人の服装を見る限り、全然『そんなもの』ではない。制服なりなんなり、きちっとした服装をしている人がほとんどである。


「朝練のあとなんで」


朝練、なるほど。たしかに言われてみれば、シャワーでも浴びてきたように見える。

しかしそれならそれで


「朝練とかするんですね…」


何らか訓練をしているとは意外であった。


ジアの率いる第三兵団は、今回の戦争のために臨時で組織した集団なのだと、タジから聞いた。

ジア含め、全員が国内の傭兵であったらしい。

戦争が終わってしばらくすれば解散するだろうと言われている中、ジアが真面目に兵士をしているとは思っていなかった。すれ違う王城の使用人からお辞儀をしてもらえているあたり、思いの外、きちんと兵士をしているのかもしれない。


そうこうしながら歩くこと数分。

我々は、本宮殿の隣に位置する、石造りの建物までやって来た。周りの建物と比べると小さめの造りで、高さも三階建て程度といったところ。


そこにジアが、特段なんの説明もなく入っていくので、私もそれに続いた。

入ってすぐ左手の階段を登り、二階に上がる。

一階は、ちらりと見た限り、なにかの研究施設のようであった。

一方二階は、机と椅子が並ぶ、事務所のようなところである。

ジアが、手前に座っている女性に


「カーラいる?」


と声をかけた。

女性は「あっ」と小さく声を漏らし、慌てて立ち上がる。


「あの、カーラさん、今、いらっしゃらなくて

「やぁ!誰かと思えばジア団長じゃないか。いらっしゃい」


女性の声は、奥から出てきた男性の声に遮られた。

朗らかな表情をした、金髪で長身細身の男性である。

隣からジアの舌打ちが聞こえた。


「カーラは?」

「カーラさ、なんだか予定がありそうな雰囲気だったから、急ぎでって言って、お遣いに行かせたんだよね」


順接の接続詞の使い方を完璧に誤ったその発言に、軽く頭が混乱する。

そんなこちらの動揺は他所に、男性は「いや〜まさかジアとの予定があったとは、あの子も隅に置けないねぇ」と嬉しそうに続けた。


ジアは


「帰るぞ」


と小さく言って、さっと踵を返した。

しかし、男性がすかさず、ジアの腕を掴む。


「用があったんだろ?それなら僕が聞くよ」

「『カーラに』用があったんだ。お前じゃなくて」

「大丈夫!あの子に出来て、僕に出来ないことって、ほんっと無いから」

「こっちは、カーラに頼めて、お前に頼めないことだらけなんだよ」

「え〜酷いなぁ。僕はいつでも王の忠実な下僕なのに」


ジアが再び、強めに舌を打つ。

何やら因縁有りげな二人の、仲睦まじい腕の引っ張り合いっこを生暖かく見守っていたところ、男性とふと目が合った。


「こんにちは。お嬢さんはどなた?」


男性が、ジアの腕をがっちりと掴んだまま、私に微笑みかける。

このままでは埒が明かないと踏んで、私から用件を聞こうとしているのかもしれない。


「あ、えーっと…

「おい、余計なこと言うなよ」


なんと言ったものかと返答に窮す私を、ジアが慌てて牽制した。

振り返ったジアの焦る表情が見慣れないもので、つい加虐心がくすぐられる。

そもそも、ジアの言った『余計なこと』とはおそらく全て、彼自身が招いたことであるし、


「申し遅れました。」


ちょっとくらい、いいだろう。


「私、リーシェ・ナイフと申します。ジアの、妻なんです」


固まる男性の隣で、ジアが天を仰いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ