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続 探検

いざ探してみるとなかなか見つからないというのは世の常で、四つほど見つけたところで捜索は難航した。

雪と氷に覆われた地面は、周りの光を反射しチラチラと光り、紛らわしい。

また、石が雪で覆われていたときには、しゃがんでよく見ないことには見つからない。


そんなこんなで拾ってみたらただの氷だったということを繰り返す私を、しばらく満足げに監督していたジアだったが、


「そういえば」


と言いながら、徐ろに近づいてきた。

私は「そういえば?」と、地面から顔を上げる。

しかし、ジアとは目が合わない。


彼は、背負った剣の柄に手をかけながら、私の直ぐ側までやって来ると


「っ?!」


私の頭の上空に剣を振り抜いた。

突然のことに驚き、喉が詰まる。


「リーシェって強いの?」


恐る恐る後ろを見ると、上下二つに切りつけられたクラゲのようなモンスターが、すぐそこにいた。

そして、私がそれを見るや否やといったタイミングで、粒子となって消え去った。


ダンジョンのモンスターは我々と、「存在の次元」が違うのだという。

ダンジョンでは、こちら側と一時的に物理的世界を共有するものの、その魂が消滅すれば、彼らは自らの次元に戻る。

それを「身還り」というそうだが、おそらく今、目の前でモンスターが消失したことをそう呼ぶのだろう。


初めての光景に目を奪われつつも、視界の端に動くものを見つけ、跳ねるように立ち上がった。


「魔術なら少しだけ使えます」


先ほどのジアの問いに返事を返す。


「へぇ、じゃあ」


どうぞと言って、ジアは剣をおろした。

目の前のモンスターを倒してみろということだろう。

それは壁のような、ゴーレムのような氷の大型モンスターで、決して早くない速度でこちらに近付いてきている。


風の魔術しか使えない私にとって、重いモンスターは相性が良くない。

魔術はそもそも、自らの魔力で、自然に干渉し、結果を歪めるものである。

そのため、一般的な魔術師が、自然の特性に大きく背いた魔術を使うことは出来ない。火は固まらない、水は刺さらない、風は落ちない。これが魔術の基本なのだ。


そんな中で今、私にできることは限られている。

手始めに、突風をぶつける魔術を構成し、


「放て!」


モンスターに向かって、解き放った。

私の髪がぶわりと広がり、直線上の地面の雪が舞う。


しかし、目の前のモンスターは、ビクともしない。

小型モンスターであれば、向こうの壁まで吹飛ばす位はできるのだろうが、やはりなかなかの重量であるらしい。


懲りずに、矢のように尖った構成で風をぶつけてみるも、またもや効果無し。

カンッという乾いた音を立てたのみであった。


私程度の魔術では、あの氷の巨体にかすり傷一つ付けることが出来ないらしい。

操作精度はまだしも、威力なりスピードなりは、生まれ持った魔力によるのだから仕方がない。


それならば…と、手で銃の形を作った。もう片方の手で、その腕を支える。


先ほどの突風を、指先一点から放出すれば、風圧が上がり、威力も増す。

それで相手の上部を突けば、タイミング次第で、モンスターの体勢を崩せるかもしれないと考えた。

相手をグラつかせれたからと言って、どうということもないだろうが、正直、これが私の最大出力である。反動もデカいし、魔力の消耗も激しい。

全力さえ見れば、あとはジアがなんとかするだろうという算段である。


魔術を構成しながら、モンスターを出来るだけ近くまで引き付ける。

願わくは、相手が攻撃モーションに入り、バランスが乱れたその瞬間に。


「はなてっ!」


指先から放った激風が、眼前に迫ったモンスターに命中する。

私は、反動で自ら後ろに倒れながらも、大きく後退したモンスターの頭部にヒビが入ったのを確認し


「はい、下がって」


そのとき、ジアが後ろから私の上体を支えた。


彼の指示通り、よろけながら二、三歩後退する。

私が下がるわずかな間に、ジアはモンスターとの距離を一気に縮め、未だ体勢の崩れたモンスターを叩き斬った。

モンスターの体に、大きな亀裂が入る。

少しの間を空けて、その氷の巨体は消失した。


「一人で行けんのはU5くらいまでだな」


意地悪く笑いながら振り返ったジアに、


「だからU2にいたじゃないですか…」


と力無く抗議した。







それから程なくして私は、ダンジョンから無事、連れ出してもらうことができた。


ヒカルイシと思われるものは一個しか集まっていないが、とりあえずは仕方がない。ダンジョンの勝手がわかっただけで十分だ。

U5までなら何とかなる実力は持ち合わせているらしいので、それならまた今度、拾いに行こう。

ジアも、私一人で潜る分には、なんの文句もないだろう。


そう思いながら何くわぬ顔でアルバイトに行ったところ、なぜか全てを知っているニエルさんに、それはもう滾々と説教をされた。

「魔術もろくに使えないそうじゃないか」とニエルさんが言っているあたり、告げ口をした人物として思い当たるのは一人しかいない。

地味な嫌がらせに腹が立つ。


しかし流石にここまで心配されて、何事もなかったかのようにダンジョンに行けるほど、私の心は強くない。

依頼をキャンセルするため、街のクエストカウンターまでやって来た。


「これって違うものですよね…」


そう言っておずおずと、U17で拾った青い石をカウンターに載せる。


「あ、これカガヤクイシだから、ヒカルイシ5つ分として引き取れるわよ」

「えっ」


受付のお姉さんの意外な言葉に、思わず驚きの声が漏れた。


「べ、別のものですよね?」

「別のものだけど、同種のアイテムね」

「同種…」

「ヒカルイシ、カガヤクイシ、キラメクイシの順番でランクが上がるの。ランクが上のものであれば、下のものの代わりになるわよ」

「ランク…」

「カガヤクイシは、局地的に金剛石の雨を降らすことができるから、護身にも使えるわね。割らないといけないから、一度きりだけど」

「…それは…痛そうですね」


辛うじて感想を絞り出す。


「それじゃあカガヤクイシ2つで依頼達成ね。報酬と控えを持ってくるから、ちょっと待っててね」


狐につままれたような顔の私を残し、受付のお姉さんは青い石 ― カガヤクイシ ― 二つを持って、カウンターの奥へと入っていった。


「まぁ、でも…良かった…」


依頼のキャンセルについてお叱りがあるのではと緊張していたが、とりあえずはその不安が解消され、小さく安堵する。

それと同時に、私がビクビクしながらクエストカウンターに行くところまで、ジアにはわかっていたような気がして、名状しがたい悔しさを感じたのであった。

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