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結婚?

修道院から馬を走らせ、おそらく三十分ほど。

馬の激しい上下動にやられ、こみ上げてくるものを抑えきれなくなったあたりで、転送ポートにたどり着いた。

規模からいって軍事用のポートだろう。普通の家ならすっぽり囲んでしまえそうな大きさの魔法陣が地面に引かれており、その中心には複数の金属棒が放射線状に置かれている。

これで隣国バルマまで飛ぶようだ。


全体が魔法陣に入ったことを確認すると、一人の兵士が馬から降り、魔法陣の中心に向かう。

複数の転送先を持つ転送ポートは、金属棒の置き方なり向きなりを変えて、行き先を設定するのだと聞いたことがある。

実際に見るのは初め


「軍事機密だ、リーシェ」


急に視界が奪われる。

後ろの男が、私の目を手で覆ったのだ。

嬉しそうな男の声に腹が立った。


「リー()ェです」

「バルマじゃ名前にチェは使わない。リーシェでいいだろ」

「ザルツァではあまりシェを使いません」


返答無し。

なるほど、私の名前はもうリーシェであるらしい。

「そういうあなたの名前は」と口を開いたそのとき、目隠しの隙間越しに、一瞬の閃光を感じた。

すると急に、周りの空気が切り替わる。


「ついたぞ」


男が手をどけ、私は視界を取り戻す。

目にしたのは、先程まで見ていた外の景色から一変、窓のない石造りの建物の内部であった。壁に明かりがあるものの、全体的に薄暗く、上へと続く階段が一つあるのみ。

転送ポートの発着専用の部屋なのだろう。


「タジ、先行ってライダの予定確認しろ。イースは俺に同行。後のやつらは馬片付けて解散」


男がそう声をかけると、兵士たちは「ウィ」と返事をして、各々動き始めた。

タジと思われる兵士が、階段を駆け上がる。


馬から降ろしてもらった私は、馬片付けて解散を命じられた『後のやつら』に混ざるべくフラフラ歩き出したところで、男に首根っこを捕まれた。

先ほど回収したザルツァの国宝を右肩にかけ、私の後ろ襟を左手で掴んだ男は、「行くぞ」と言って、階段の方へと歩き出す。

イースと思われる細身の兵士一人が、後に続いた。


転送ポートのあった部屋から出ると、豪華な作りの廊下に繋がった。

片側の大きな窓から差込む光を受けて、真っ白な床がキラキラと光る。


「ここは王城ですか?」


問いかけるも、男からの返答は無い。

しかしまぁ、兵士たちが転送した先で、そしてこの設えということから考えると、そうなのだろう。


「ということはこれから王に会うのですね」


もしここが王城ならば、さっきこの男が言っていた『ライダ』は、バルマのライダム王のことであるはずだ。

「教えてもらわなくてもわかりました」という拗ねた顔を作って、私は自らの居心地の悪さを紛らわせた。


途中、「予定いけました!」と報告する兵士とすれ違う。

男は立ち止まることなく、「おぅ」とだけ声をかけた。

そして我々は、目的の部屋までたどり着く。


男は「入るぞ」と扉越しに声をかけ、中へと入っていく。

私もそれに続いた。


「ありがとう。ご苦労さま」


中にいたのは、胸元に勲章の輝くスーツをきっちりと着こなした、四十代くらいの男性であった。

にこやかに労いの言葉をかけつつも、私のことを見て、意外なものを見たかのような顔をした。


「これで全部か」


男が、肩にかけていた国宝をドサリと床に落とす。


「そう、これが四つ目。後は、儀式が上手くいくことを願うばかりだな」


儀式?バルマで?

彼らが自らこの国宝を使おうとしていることに、私は少し驚いた。

今回の戦争のきっかけは知る由もないが、この国宝が目当てだったのだろうか。

しかし、前回この国宝が持ち出されたのは高々二年程前のはずで、二十年に一度で良いと言われている儀式をなぜ


「ところで」


私のごちゃごちゃとした思考は、ライダム王と思しき男性の言葉で遮られた。

ライダムは、私の方をちらりと見て


「そこにいるお嬢さんはどちら様?」


と、男に笑顔でたずねる。

これまで無表情だった男は、待っていましたと言わんばかりにわざとらしく表情を崩し、「あぁ」と答えた。


「俺の嫁だ」

「「は?」」


ライダムと私の声が重なる。


「修道院で見かけてな。俺の一目惚れで連れてきた。この報告が終わったら宣誓に行く」

「ま、待て待て。君は、ユーゼンガーデ公爵令嬢との婚約が進んでいたんじゃなかったっけ?ほら、最初に僕が紹介して」


戸惑うライダムを尻目に、嬉しそうに「じゃあそういうことで」とだけ言った男は、さっさと部屋から出ていった。

一目惚れしたらしい私のことは置き去りなんですけどこれは?


…どうやら私は、その貴族さまとの縁談を回避するために連れて来られたらしい。

あの男の容姿であれば、代わりの結婚相手など、いくらでも用意できそうなものだが。


男が出ていった扉を呆然と見つめるライダムに、修道女お得意の憐れみを込めたお辞儀を披露し、私も部屋を後にした。


そしてその日、教会での宣誓を経て実にあっさりと、私は男の妻となった。

結婚宣誓書に記された男の名は、ジア=ナイフであった。

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