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続 お祭り

「ウルダさん、休憩終わりました。代わります」

「あ、おかえりなさい。もういいの?」

「はい、三十分くらい休みました」


事務所では、三人の職員が、忙しく働いていた。

クエストカウンター自体は休みだが、まぁ、色々とあるのだろう。

そんな彼らを横目に、差入れのドーナツなどを食べて三十分、体力は十分に回復した。


卓上冷蔵庫のジュースのストックが少なくなっているようなので、まずは補充からだ。


「じゃあオルドきゅうけ…あら? 」


ウルダの言葉尻に、どうしたのかと顔を上げると


「え」


思わず声が出た。

店先にジアが立っている。


「…どうしたんですか?」


よもやジュースを買いに来た訳ではないだろう。

ジアの顔色をちらりと伺う。


「この近くで爆発あっただろ。大丈夫だったか」

「え。大丈夫だったんじゃないですかね」

「いや、リーシェが」

「えっ。私が?」


私のことが心配で様子を見に来た?

思ってもみない話に、思わず「大丈夫でしたけど」と口がまごつく。

私は、ジアから目を逸らした。


「ははーん」


私たちのやり取りを無言で見ていたウルダが、徐ろに口を開いた。

彼女の顔には、実に不敵な笑みが浮かんでいる。

「ははーん」という言葉を実際に使う人が居るとは…などと思っていると、ウルダが急にポンっと、私の両肩に手をかけた。


「ジアさん、この子、これから休憩なんです」

「「えっ」」


私とオルドの声が重なる。


「私、ついさっき休憩か

「お祭りに参加したこと無いらしくて、良ければ一緒に回ってあげてくれませんか?」


ウルダが私の言葉を遮った。

肩を強めに掴まれ、「いいから黙ってろ」という圧力を感じる。


「ウルダさん、私たちそういうんじゃないんです」

「え、そういうのってどういうの?」


ウルダの誤解を解こうとするも、上手くかわされる。

流石にクエストカウンターで日々、老若男女様々な人々を捌いているだけのことはある。


「どういうのっていうか…。ジア…さんも言ってもらっていいですか」


突っ立ってないで何か言えと、ジアに視線を向ける。

ジアは私をちらりと見てから、


「じゃあちょっとお借りします」


と言って、ウルダと目を合わせた。


「えっ、は?」

「あら〜良かった!じゃあお願いしますね」


ウルダは、「一時間くらい行ってきていいからね」と耳打ちしてから、私の背中を押した(強め)。


「えっ、でも…」


オルドさんの休憩はいつになるのか。

そんな私の言葉は、ウルダの笑顔に圧殺される。

ぐずぐずする私に、ジアは


「行くぞ」


と声をかけ、そして私の手を取った。


「いってらっしゃーい」


ウルダが上機嫌に手をふる。

そんな彼女の後ろには、悲しそうに笑うオルドが見えた。

姉という存在に蹂躙され続けてきた弟の諦めの表情なのかもしれない。

オルドに心中で謝罪し、私は祭りの中心地へと繰り出した。







王城へと繋がる中央広場は一際賑やかであった。

即席の小さな劇場では人形劇が披露され、また別のところでは楽団が陽気な音楽を奏でている。歓声が飛び交う中、左右の露店からは、甘いような辛いような匂いが漂っていた。


「それで結局、何しに来たんですか」

「だから見に来たんだって。爆発があったから」

「街の様子を…?」

「なんで俺が、爆発に巻き込まれたかもしれない他人を心配するんだよ」

「そりゃ、紛いなりにも、国の兵士じゃないですか。お巡りさんでしょ」

「俺がお巡りなら、意味不明な飲物を売る露店を真っ先に検挙するけどな」


こいつ、マーミンムーミンプラスポジュースのことを言っているのか。

ジアが


「そもそも」


と口を開いたとき、どこからか「引ったくり!」と叫ぶ声が聞こえた。

前から男が、人を掻き分け、こちらに向かって突進してくる。

男が「どけ!」と怒鳴るも、ジアは一向に道を譲らない。

男は大きく舌打ちをすると、ジアの横を通り抜けようとして、そして、転倒した。

こちらからは見えていないが、足でも引っ掛けたのだろう。

しかしジアは、倒れた男をどうするでもなく、再び歩き出した。


「こっちは、戦争だからって国に嫌嫌雇われてやっただけなの。市民生活のお世話なんてするわけないだろ」


転倒した男は「くそっ!」と悪態をつきながら立ち上がると、再び人だかりに飛び込…もうとしたところを無事、周りの人々に取り押さえられたようだ。


「嫌嫌っていうなら、断ったら良かったのに」


今の引ったくり犯だって、捕まえれるなら捕まえたらいいのだ。

悪ぶってるだけなんじゃないかと、私は口を尖らせた。


「兵士になることは、ライダの必定宣言だ。断れない」

「必定宣言?」


聞き慣れない言葉である。


「この国じゃ、王族の言うことは絶対なんだよ。王様が言うなら、カラスだって白くなる」

「えっ」


なんて国だ。


「まぁ、事実を捻じ曲げた責任を取れないと、クーデターでもなんでも起きて、死ぬのが落ちだけどな。いずれにせよ第三兵団は、王様の我が儘で出来た、寄せ集めだ」


バルマの兵士が人手不足であるとも思えないが、戦力は多いに越したことはないということか。

やや本題から話が逸れてしまったが、これ以上お祭りの雰囲気に水を差すのも無粋だろう。

ジアの横顔に「そうなんですね」と適当に相槌を打って、私は、周囲の露店に目を向けた。


そこからカップに入った唐揚げを買って、ジャグリングの大道芸を見て。

ピエロから黄色い風船をもらって、射撃をした。

なかなか倒れない的を、ジアが銃身で押して倒したのには笑ってしまった。もちろん景品はもらえていない。

ちょっとお高い戦勝記念のペナントも買ってしまった。隅の方には、ジアに似た、態度の悪い兵士が描かれていた。

私の初めてのお祭りはきっと、幸せすぎたのだ。







お祭りの浮かれた雰囲気を十分に味わってから、私はジアと別れ、クエストカウンターに戻った。


午後から夕方にかけて、街中の人はさらに数が増え、閉店の少し前には商品が尽きてしまった。

しかし広場での行事もそろそろ終わる予定だそうで、ここを通るのはもう帰る人だけだろうとのこと。そこでオルドと、店の片付けを始めた。

しばらくするとウルダもやって来て、ジアの話などを色々と聞いてくるものだから、片付けは遅々として進まない。

しかしそれも、気分は浮かれて、身体は疲れてという今の状況なら、悪い気はしなかった。


そんな中、広場から出てきたであろう人がちらほらと、前の道を通り始めた。


「あら?花火、上がらなかったわね」


ウルダがぽそりとつぶやく。

浮かない顔をした通行人同士の会話が、断片的に耳に入ってくる。

そして私たちは、ザルツァの国宝を使った儀式が失敗してしまったらしいということを知ったのだ。

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