第3話
西暦2051年 4月6日 16時10分 帝都女学院
坂東 麗華は2つの問題で悩んでいた。
1つ目はクラスメイトの勝土騎 京子が魔導使いであることを全生徒で自分だけが知っていることだ。
京子は重傷を負い、地獄のような治療を受けておきながら、平然と学園生活を送っている。
何が彼女にそこまでさせているのか麗華は興味が尽きなかったが、問いただすことは法に反する行為であり、今日まで沈黙を保たざるを得なかった。
2つ目は京子が体力測定で実力を隠していたことだ。
怪物達と死闘を繰り広げている勝土騎が坂東より身体能力で劣るなど考えられない。
祖父から魔導使いは文武共に優秀と聞いた麗華は、もしかすると京子は入学試験も本気ではなかったのではと疑う。
それは社長令嬢の自尊心を大いに揺さぶった。
一方、京子も悩みを抱えていた。
目立たないように生活するつもりが大熊 双葉を助けた結果、京子の一挙手一投足に女生徒の熱い視線が注がれている。
特に双葉からは羨望、麗華からは懐疑の目を向けられていた。
どちらも京子の正体を知っていても不思議ではない家柄であり、この日も接触を避けるため、逃げるように学校を後にした。
だがその跡をつける者が1人いた。
坂東 麗華は京子が遠目に見える距離を保って尾行していた。
社長令嬢たる彼女がこのような無謀な行動に出たのは生まれて初めてである。
そこに具体的な理由はないが、探るなら今日を置いて他にないと直感が囁く。
神田駅から山手線に乗った京子は御徒町駅で降り、宝石店が立ち並ぶ通りにあるビルの中に消えていった。
「・・・・鉱石ショップ『KAGUYA』?
勝土騎さんは風水が趣味なのかしら」
宝石なら兎も角、鉱石を欲しがる理由はパワーストーンに傾倒しているのかと麗華は考える。
5分もかからずに京子はビルから姿を現し、麗華は物陰に隠れた。
少女が持つ鞄は先ほどより膨らんでいる、目当ての品を手に入れたようだ。
京子は再び歩き始めたが、しばらくすると突然路地裏に方向を変える。
見失うと焦った麗華は急ぎ後を追うが、そこは奥行き10m程度の袋小路であり誰の姿も無かった。
「私に何か御用ですか、坂東さん?」
振り向くと京子が立っており、麗華は驚きと混乱で言葉を失った。
咄嗟に無関係を装おうとしたが、尾行が完全に悟られている状況ではさらに不信感を招くだけだ。
だがこうして前に立つと、麗華はなぜ自分が京子に執着したのか理解できた。
それは憧れだ。
良家の生まれで文武両道の麗華が唯一得られないもの、それは英雄の称号だ。
京子は国家の危機を幾度も救った紛うことなき英雄である。
そんな彼女が学園で麗華の陰に隠れて生活を送ろうとしていることに歯がゆさを感じている。
称賛される者は自分ではなく、京子であるべきだ。
英雄には光り輝く存在でいてほしいのだ。
それは子供じみた理由であるが、純粋な願いだった。
故に麗華は京子に問わねばならない。
「勝土騎 京子さん、貴女に聞きたいことがあります」
京子は麗華の決意した目を見て正体が知られていると確信し、言葉少なく返した。
「答えられる範囲であれば」
麗華は一呼吸おいて言葉を発した。
「入学試験と体力測定、あれは本当に貴女の全力でしたの?」
京子は迷った。
ここで白を切り通すのは簡単だが、それは正しいことなのか。
麗華は自分の正体を知りながらも敢えて追求せず、真実を確かめようとしている。
ならばそれに応えるのが人として正しいのではないだろうか。
京子も決意した目で麗華を見据え、真実を告げようとする。
だがその時、麗華の背後から数人の気配が近づいてきており、思考を切り替えた。
通りから現れたのは2m近いサングラスをかけたモヒカン男だった。
黒のレザージャケットを身に着け、頭部に「05」の入れ墨がある姿は立っているだけで威圧感がある。
その後ろにはキャップやニット帽を被った虚ろな目をした男たち5人が控えている。
「取り込み中だったか?
なら俺たちの用事の後にしてくれるかい?」
見た目とは裏腹に気さくな口調で話しかけてきたモヒカン男に対し、麗華は強気に言い放った。
「貴方たちのような素行が悪い人と話すことなどありませんわ。
それ以上近寄ると人を呼びますわよ!」
それを聞いて男は声を上げて愉快そうに笑った。
「気が強いお嬢ちゃんだ!
そういうのは嫌いじゃないぜ。
だがこれを見てもそう言えるかな?」
モヒカン男は背後の男に指示すると、男は黒い何かを放り投げた。
黒い物体は麗華の3m手前に落下し、回転しながら足元で止まった。
それは先ほどまで麗華を護衛していた男の首だった。